菅官房長官「携帯料金を4割下げろ」 無為無策の総務省、再び発破をかけられる

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 菅義偉官房長官は、日本の携帯電話の利用料金について「今よりも4割程度下げる余地がある」と述べたと、日本経済新聞など国内メディアが一斉に報じました。

 日本の携帯料金は英国などより5割程度高く、競争原理によって英国並みの引き下げが可能と述べているとのこと。

 しかし、常識的に考えれば「政府が4割下げろと言ったからいきなり4割程度値下げ」というのは、社会主義国家でない限り不可能だと思います。

 発言するに至った経緯自体はわかります。国民負担軽減・景気対策の一環として、2015年に安倍首相が「携帯料金値下げ」を指示。ところが総務省は、どちらかというと歪んだ商慣行や不健全な販売方式の「適正化」に焦点を置いた内容に終始。おかげで携帯の安売りが減り、ニッチなプランが少し増えただけで、肝心の値下げは今ひとつ……という、何とも言えない結果に終わっています。指示通りになっていないので、再度発破をかけたのが今回の官房長官発言なのでしょう。

TOKYO, Japan (April 5, 2013) U.S. Ambassador to Japan John V. Roos and Japan’s Prime Minister Shinzo Abe at the Joint Press Announcement of the Okinawa Consolidation Plan, with (from left) Major General Andrew W. O'Donnell, Jr., Deputy Commander of the United States Forces, Japan, Assistant Secretary of Defense Mark W. Lippert, Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga, Minister of Foreign Affairs Fumio Kishida, and Minister of Defense Itsunori Onodera [State Department photo by William Ng/Public Domain]

 我が国が資本主義国家である以上、政府がすべきは競争環境の整備であり、その環境から出力された結果にはできるだけ介入しないのが本来理想的な姿です。ところが3社寡占であり、国民の誰もが契約の必要のある公共性の高い事業である以上、そうは言っていられない、という考えもまあわかるのですが。

 基本的には総務省が悪いですよね。キャリアによる通信と端末の一体販売を黙認、3社寡占化を阻止できず、歪で不健全な競争環境を常態化させてしまった責任は、監督官庁である総務省の無為無策にあります。

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 3年前の携帯料金値下げ指示を受け、当初総務省の出した一つの結論が「キャッシュバックがよろしくない、自粛せよ」というのも、本当に意味不明でしたよね。

 まあ儲けた分をサービス向上や値下げといった競争ではなくキャッシュバックという形で使われているからこれは良くない、というところまではまだわかるのですが、「自粛せよ」というのが本当に酷い。そこを民間に「忖度」させてどうするのか?実効性のある規制も困難。そういえば総務省はキャッシュバック通報窓口なんて作ってましたよね。無駄な仕事を作ることにかけては一流、もはや呆れてため息しか出ません。

 なぜ販売現場にキャッシュバックが存在するかといえば、それは「スイッチングコストに対する補填」です。つまり「MNPは面倒、カネが掛かる……だから費用相当かそれ以上の特典を、乗り換え先がプレゼントします」ということです。

 通信会社はユーザーの囲い込みに余念がありません。通常、他社に乗り換えるには、解約金・MNP手数料・最後の月の日割りにならない料金・場合によってば端末分割払いの割賦残債といったコストが、ユーザーに一気にのしかかってきます。実質価格・更新月というわかりにくい概念も存在します。SIMロックも。乗り換えにはユーザーの手間もかかります。こうした諸々のスイッチングコストは顧客の流動性を悪化させる、競争の阻害要因です。

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 それで、他社に囲い込まれた客が、自社に乗り換えてくれないのも困るから、携帯会社を乗り換えてもらおうと、スイッチングコストを上回るキャッシュバックを出してきたわけですよね。言い換えれば、キャッシュバックが無くなれば、顧客を奪い合う競争は鈍化するわけです。

 つまり、首相指示を受けて総務省がすべきだったのは、「キャッシュバックを自粛せよ」ではなく、このスイッチングコストに対する規制ですよね。スイッチングコストが低ければ低いほどキャッシュバックは高額である必要がなくなり、自然とキャッシュバックの抑制にもなります。ユーザーはより良い他社にすぐに乗り換えができます。キャッシュバックがなくとも流動性の激しい市場にすべきです。ここでMVNOだけでなくMNO新規参入もあれば、更に良い市場環境となるでしょう。

 総務省が意味不明なことをやっているのを見かねて出てきた公正取引委員会、こちらは端末のセット販売やスイッチングコストにも言及しており、「最初からこっちに監督してもらっていたらこんなことにはならなかったのでは……?」なんて思ってしまいますね。

 監督官庁はろくでもない、あまつさえ政権側は実現困難な「4割値下げ」という数字を突拍子もなく突きつけてくるのでは、携帯キャリアに同情してしまう部分すらあります。本当に「4割値下げ」が実現したらMVNOが全滅しかねないので、これは厳密な数字ではなく、深く考えても無駄で、要は「各位、いい加減本気でやれ」という意味であると忖度するのが正しいのかもしれませんが。

 総務省も総務省ですが、そもそも値下げ指示も、他に無かったのかなという気もしますけどね。たとえば日本の自動車の税金は非常に高額です。自動車の購入と保有に税金が掛かり、さらにガソリンにも課税されています。こうした自動車関連の様々な税金を減税する方が話はスマートなのではないでしょうか。無能な働き者の旧郵政官僚に余計な仕事を与えずに済み、民間への介入もなく、家計負担も減り、需要喚起により国内自動車産業への援護射撃にもなり、家計負担軽減の本義である景気対策にもなるからです。

 8月23日より、総務省は情報審議会にて再び利用料金引き下げなどの議論を始めるとのこと。あまり期待せずに見守るのがいいでしょう。