スマホの「頭脳」値上がり。
Snapdragonシリーズで知られる米Qualcomm(クアルコム)は、Androidスマートフォン向けSoCやモデムを手がける、世界有数のモバイル半導体企業です。同社の価格や供給の動向は、スマートフォンの価格や性能に大きく影響します。
そのQualcommが決算説明会で、供給網全体のコスト上昇を受け、複数の最終市場で「2桁台」規模の値上げを進めていると説明しました。さらに、2026年のスマートフォン市場は10%台前半の縮小になるとの厳しい予測も提示。メモリ価格の高騰と供給制約に加え、ウエハー製造や組み立て、検査などのコスト上昇が、Qualcomm製品の価格にも波及しています。決算の中身を見ていきましょう。
「パンデミック時とよく似た状況」Qualcomm、コスト高で2桁値上げへ
Qualcommは2026年7月29日(現地時間)、2026会計年度第3四半期(6月28日までの3カ月)の決算を発表しました。売上高は99億4700万ドルで、会社予想の上限付近。非GAAPベースの希薄化後1株利益は2.21ドルでした。半導体部門(QCT)の売上高は85億400万ドルで、うちスマートフォン向けは50億8600万ドルです。
Bloomberg Newsは7月24日、Qualcommが顧客へ送った書簡を確認したとして、9月1日以降に出荷する製品を2桁台の割合で値上げすると報じました。Qualcommは当時コメントを控えており、Reutersは同報道を独自には確認できていないとしています。
ただし、Qualcommは7月29日の決算説明会で、ウエハー製造、組み立て、検査、先端パッケージ、メモリ、その他材料など、幅広い投入コストの上昇を受け、複数の最終市場で価格を引き上げていると正式に説明しました。Akash Palkhiwala CFOは、値上げ幅について「2桁台で、業界他社の動きと整合的」と述べています。価格変更は既存契約や製品サイクルの関係で、段階的に業績へ反映される見通しです。
Cristiano Amon CEOは、業界がパンデミック時と非常によく似た状況にあり、ウエハー製造、組み立て、検査などの工程が100%稼働に近い状態となり、各所で供給不足と値上げが起きていると説明しました。
今回の価格改定は、こうした投入コストの上昇を転嫁するものです。スマートフォンの部材費に占めるメモリ価格の上昇幅と比べれば、Qualcomm製品の値上げ幅は小さいとしています。プレミアム帯と上位帯の販売数量に根本的な変化はないとの見方も示しました。
スマホ市場は2026年に「10%台前半」縮小予測
Qualcommは、2026年のスマートフォン市場が2025年比で10%台前半縮小すると予測しています。メモリ価格の高騰と供給制約の影響は主に低価格帯に集中し、2026会計年度のQCTのAndroidスマートフォン向け売上高は前年度比で約20%減少し、通期の非GAAP EPSを1.50ドル超押し下げると試算しています。
一方、QCTの中国OEM向けスマートフォン売上高は6月期に底を打ち、9月期には前四半期比で2桁台の成長に戻ると見込んでいます。流通在庫の取り崩しが一巡し、実需と売上高が一致し始めたことが根拠です。中国OEMによる中国製メモリの採用は数年来の流れであり、今後さらに強まるとの認識も示しました。
iPhone向けモデムは「20%を大幅に下回る」 Apple向け売上の縮小が加速
供給制約が一因となり、次期iPhoneにおけるQualcomm製モデムの比率は、従来想定していた20%を大幅に下回る見込みです。Apple向け製品売上高の減少は2026会計年度第4四半期から加速し、9月期から12月期にかけて約50%減ると予測しています。
アナリストから「Appleへの供給を意図的に絞り、その半導体をほかへ回しているのではないか」と問われたPalkhiwala氏は、「そのような性格のものではない」と否定しました。供給制約が一因となり、Appleとの協議を経て、比率が20%を大幅に下回る水準に落ち着いたと説明しています。
2027会計年度のApple向け製品売上高は、従来示していた20億ドル強を下回る見込みです。一方、非ハンドセット事業は同年度に前年比60%超の成長を見込み、2026会計年度から2027会計年度にかけての増収額だけで、2026会計年度のApple向け製品売上高全体を置き換えられるとの見通しを示しました。
「エージェント型スマホ」サイクルの初期兆候
Amon CEOは、メモリ高騰による市場縮小の中でも「エージェント型スマートフォンサイクルの初期兆候が見えている」と指摘しました。中国の主要OEMが、端末上で動作するAIエージェントやオーケストレーターの投入を準備しており、プレミアム帯の需要を牽引するとの見立てです。
Samsungのフラッグシップ機におけるSnapdragonの搭載比率は約70%を維持しています。QualcommはSamsungとの協業を、折りたたみスマートフォン、Galaxy Watch、Googleと共同開発するインテリジェントアイウェアへ拡大する方針です。
また、ハードウェアモジュール、AIモデルを限定しないソフトウェア基盤、製造パートナーなどを組み合わせた開発支援プログラム「Snapdragon START」を、まずスマートグラス向けに展開します。年間約6億本が出荷されるアイウェア市場のスマートグラス化を後押しする考えで、詳細は9月のSnapdragon Summitで明らかにする予定です。
なお、車載事業の売上高は15億8800万ドルで、前年同期比61%増となり、過去最高を更新しました。Qualcommは、BMWのデジタルコックピットおよび次世代ADAS・自動運転システム向けの主要コンピュート半導体供給企業に選ばれています。
2026会計年度末時点の車載事業の年換算売上高見通しは、従来の60億ドルから約70億ドルへ引き上げられました。
メモリ高騰の「第二波」はQualcomm製品にも
今回の決算で明確になったのは、メモリ高騰がメモリ単体の問題にとどまらないという点です。ウエハー製造から組み立て、検査まで供給網全体の稼働率とコストが上昇し、Qualcommも複数の市場で2桁規模の価格改定を進めています。つまり2026年のスマートフォンは、メモリ価格とSoCを含む半導体部品の両面からコスト圧力を受ける構図です。
端末メーカーは、販売価格の引き上げだけでなく、旧世代や下位のSoCへの切り替え、メモリ容量などの仕様見直しを迫られる可能性があります。
特に打撃を受けるのは低価格帯です。Qualcomm自身がQCTのAndroidスマートフォン向け売上高の約20%減を織り込んでいる通り、部材費の絶対額が小さいエントリー機ほど値上げへの耐性が低く、市場縮小の影響もここに集中します。ハイエンドは「エージェント型スマホ」への期待によって需要を維持できる可能性がある一方、格安スマホは波乱ですね。
もう一つ注目すべきは、Apple向けモデム比率が「20%を大幅に下回る」見通しになった点でしょう。結果だけを見れば、次期iPhoneにおけるApple製モデムの採用比率が、Qualcommの従来想定より高まる可能性があります。ただし、Qualcommは供給制約も一因だったと説明しており、Appleの自社モデム移行だけを理由として断定することはできません。
QualcommがSamsungとの協業を広げ、スマートグラスや車載など非ハンドセット分野の成長を急ぐ背景には、こうしたスマートフォン事業とApple向け売上高の変化があります。












