
VTuberの隠れた必須アイテムに?
TBSテレビとShiftallは11月5日、共同で新製品発表会を開き、映像・音響機器の新ブランド「HOMRA(ホムラ)」を発表しました。第1弾の「HOMRA 4K」は、PCなしで配信、録画、スイッチング(映像の切り替え)、タリー(放送や配信に使われているカメラを知らせるランプ)、テロップ入れまでこなせる、手のひらサイズの配信デバイスです。
予定価格は10万円前後。販売開始は日米欧で2027年3月ごろの予定。

TBSテレビ未来技術革新事業部の部長を務める中野圭氏と、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏
TBSが専用機を求めた理由
HOMRA 4Kは、TBSとWOWOWが共同開発した低遅延映像伝送プロトコル「LMS(Live Multi Studio)」に対応します。
中野氏は、中継やライブ配信の現場が、いまも大型中継車と重厚長大な機材に頼っていて、コストも人員もかかっているそうです。その解決策としてTBSが進めているのが、遠隔地のカメラ映像をネット経由で送り、制作は別の拠点で行うリモートプロダクション。この環境で映像を送る仕組みとして、TBSとWOWOWが作ったのがLMSです。
LMSはポート開放不要で簡単に超低遅延で制御信号を送れるとしています。
一方で課題もありました。少し複雑なシステムを組むとPCが必要になり、置く場所が要ります。長時間動かすとフリーズし、持ち運びにも向きません。HDMIやSDI(放送機器で使う映像端子)の信号を取り込む機器も別に要ります。こうした課題を解くデバイスを探していた中野氏は、TBSが開いた技術イベントで岩佐氏と知り合い、相談。岩佐氏が「一緒に作っちゃおうよ」と応じ、共同開発が1年前に始まったそうです。

Shiftallはライブ配信に戻ってきた
岩佐氏は、Shiftallが2008年に岩佐氏が創業したCerevoから、2018年に分離独立した会社。Cerevo時代には、世界初のUstream対応カメラ「CEREVO CAM live!」を出し、岩佐氏が代表を務めた2018年までに6機種のライブ配信機器を作っています。Shiftallとしてライブ配信の機器を手がけるのは、今回のTBSとの提携が最初。2018年から8年間は休んでいたが、TBSと組んで復帰するといいます。

最近のライブ配信の動きとして、新型コロナウイルスの影響で配信が当たり前に。日本ではVTuberなどのバーチャル配信が、実写の配信よりも伸びているとも。

配信と4K録画を同時に、4入力をスイッチング
HOMRA 4Kの入力は4系統。SDI、HDMI、USBのUVC(ウェブカメラなどが使う映像規格)機器、そしてSDカード内の動画を、1M/E(映像の切り替えと合成を1段で行う構成)のスイッチャーのように切り替えられます。簡単な映像の切り替えとテロップ、差し込み画像くらいの配信なら、別のスイッチャーなしで本体だけで済むとのとこ。

配信は、HDMIから入った4K60pの映像を、そのままH.264またはH.265で送れます。同時に、SDカード(フルサイズのSDXC)へも4K60pで録画。配信と録画でビットレートは別々に決められ、たとえば配信は15〜20Mbps程度に抑え、録画はそれより高いビットレートで残せます。中野氏は、配信と同時に録画できる機器はなかったとして、現場にはありがたい機能になると話しました。
配信先は、LMSのほか、SRTやRTMP(どちらも汎用の映像配信プロトコル)に対応するあため、YouTube LiveとTwitchも利用可能。1080p60なら最大4ストリームを同時に流せて、Twitch、YouTube Live、ニコニコ生放送の3つへ流しながらSDカードに録画する、といった使い方も。

オンカメラで使える小ささと、放熱用のファン
本体は手のひらに乗るサイズ。底面には三脚用の1/4インチネジ(1/4-20UNC)の穴があり、アダプターを付ければ、カメラのアクセサリーシューやリグ(機材を固定する枠)に取り付けられます。
岩佐氏は、4K対応のエンコーダー(映像を配信用に圧縮する機器)で、オンカメラの運用を真面目に考えた製品は世界を探してもほとんどなく、フル機能を残したまま、カメラの上で使える形にしたことが今回のこだわりの1つだと話しました。

スタッフにもカメラ出身者が多いことから、小型で持ちやすい形にこだわったそうです。


電源はUSB-CのPD(9V/3A)で、システムの消費電力は27W以下。モバイルバッテリーでも動かせます。前面には2型のカラー液晶があり、入出力の映像を確かめられます。

筆者が開発で大変だった点を聞くと、岩佐氏は、小さな筐体に収める回路設計と、発熱を挙げました。真夏の屋外での運用を見越して、本体の側面にファンを付け、放熱には余裕を持たせたといいます。一方で、いちばん手間がかかったのはソフトウェアで、TBSとShiftallのソフトウェアエンジニアが総動員で、この日のデモに間に合わせたそうです。
CBRに対応し、2台で完結する遠隔伝送
中野氏が「ありそうでなかった」としたのが、CBR(ビットレートを一定に保つ方式)への対応です。放送用の映像でブロックノイズ(映像が四角くくずれるノイズ)が出ると大ごとになるため、使いやすい製品になったと話しました。
岩佐氏は、据え置きのエンコーダーは定点カメラで使われることが多いとして、夜の交差点の例を挙げました。車が通らない間は、VBR(映像に応じてビットレートを変える方式)だとビットレートが下がります。そこへ急に車が入ってくると、ビットレートが追いつかず、いちばん映したい車にブロックノイズが出てしまいます。CBRなら、こうした場面でもブロックノイズを抑えやすいという説明です。

LAN端子は2つ、日本語UIは「当たり前」
ギガビットのLAN端子が2つあります。2回線をつないで冗長化(片方が止まってももう片方で配信を続ける構成)にできるほか、ブラウザで操作するPCやタブレットを接続する回線と、施設のネットワークにつなぐ回線を分けられます。
操作は本体内蔵のWeb GUI(ブラウザで使う操作画面)で行い、PCやMac、iPadなど、ブラウザが動く端末から使えます。国際輸出から英語に対応、日本のテレビ局の現場の声から日本語にも対応します。

質疑応答から
筆者が名前の由来を尋ねると、和名を意識したとの答えでした。ジャパンクオリティ、ジャパンブランドを世界に広げたいという考えからです。「ホムラ」は炎を連想させ、聖火リレーのように人と人をつなぎ、安心して映像を届けるという意味を込めたそうです。
想定する客層は、BtoB(法人向け)とBtoC(個人向け)の両面。TBSのBtoBのつながりを生かしつつ、Shiftallのサイトで直接買えるようにします。岩佐氏は、個人と法人の線引きが難しい商品だと前置きしたうえで、収益を得ている個人の配信者や副業的に配信している人など、いわゆるプロシューマー(プロ並みの機材を使う個人)の購入を見据えます。VTuberや実況者については、iPhoneのカメラでアバターを動かし、その映像をPCに入れずにHOMRA 4Kへ直接入れる使い方を挙げました。PCではゲームなど配信したいアプリだけを動かせばよく、GPUの負荷を減らせるといいます。グラフィックボードが高騰する中、ゲーム実況配信者やVTuberにとってはありがたい存在になるかもしれません。


主な仕様
| 項目 | HOMRA 4K(予定) |
|---|---|
| エンコード方式 | H.264(Baseline / High)、H.265(HEVC) |
| 対応プロトコル | LMS(TBSとWOWOWが共同開発した低遅延プロトコル)、SRT、RTMP、RTSPなど |
| ビットレート制御 | CBR / VBR |
| 映像入力 | HDMI × 1(最大2160p60、エンベデッド音声(映像信号に重ねて送る音声)対応)、3G-SDI × 1(最大1080p60、エンベデッド音声対応)、USB Type-A × 1(UVC映像入力、UAC(USBの音声規格)音声入力、USB無線LANアダプター接続など)、SDカード内の動画 |
| 映像出力 | HDMI × 1(最大2160p60、エンベデッド音声対応)、SDIループアウト × 1、USB Type-C × 1(UVC映像出力、UAC音声出力) |
| 音声 | 3.5mmステレオライン入力 × 1、3.5mmステレオライン出力 × 1 |
| 録画 | フルサイズのSDカードスロット(SDXC対応、最大2160p60録画) |
| ネットワーク | ギガビットイーサネット(RJ45)× 2 |
| 電源 | USB Type-C × 1(USB PD、DC 9V 3A、27W)、システム消費電力は27W以下 |
| 表示・識別 | 2.0型のカラー液晶(前面)、高輝度タリーランプ(前面・背面) |
| 筐体 | 高さ1Uのラックマウントに対応(横幅は1/4U)、カメラマウント(1/4-20UNC)に対応(いずれも本体の外側にアダプターパーツが必要) |
| 冷却 | 側面にファンを搭載 |
| 操作 | 本体内蔵のWeb GUI(日本語・英語) |
今後は近くにいると危険なロボットのアームの先や頭に付けたカメラの映像を、離れた場所から見る使い方など、産業機械やフィジカルAI(ロボットなど現実の機械を動かすAI)の分野にも広げていく考えです。













