
GMOインターネットグループの熊谷正寿代表は11月2日の記者会見で、海外からの「悪いIP」を検知し、即座に通信事業者へ停止を依頼する制度「サイバーイージス構想」について、高市政権に提案したいと述べました。
会見は、子会社のGMOインターネットが提供する「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスを受けて開かれたもの。総務省によるブロッキング要請の効果と、ブロッキングを法制化する必要性について記者が質問し、熊谷氏がこれに答えました。
サイバーイージス構想、高市政権に機会があれば提案 GMO熊谷正寿社長の会見「でなければ今の日本のインターネットを守ることはできない」「GMOとしてではなく私見ですが私が今一番考えてること」 「法律を変えれば総務省はやろうと思ったらできる」 「通信の秘密は、と総攻撃食らうのは分かりますが」 pic.x.com/Ic0dxs5w9p
— ニコニコニュース (@nico_nico_news) November 2, 2026
熊谷氏は「私の私見で、GMOとしての意見ではございませんが」と断ったうえで、「サイバーイージスというものを日本で運用を開始し、海外からの悪いIPを検知、即座に通信事業者に停止を依頼するという制度を作るべきだと思っています」「そうでなければ、今の日本のインターネットを守ることはできない」と主張しました。
イージスとは、ギリシャ神話でゼウスやアテナが持つ盾、アイギスのこと。米海軍のアーレイ・バーク級や、海上自衛隊のこんごう型、あたご型、まや型護衛艦が搭載するイージスシステムの語源でもあります。
通信の秘密との関係にも自ら触れ、「通信の秘密とかいろいろあるのはわかりますよ。でも、IPを止めればいいんですよ」「総務省さんがキャリアに言って、犯罪のIPだから止めろと。たったそれだけのことじゃないですか」と発言しました。
「通信の秘密どうなってんだ、あいつは」と総攻撃を受けることは分かっているとしつつ、「総務省さんは、やろうと思ったらできるんですよ。法律を変えたらいいんですよ」と語っています。
令状を取るなどの司法手続きについても、熊谷氏はその遅さを批判しました。暗号資産交換所のBinanceが「たった20分間で」「1兆円という過去最大の強奪事件」に遭い、米国政府が法律を変えるとの報道を見たと述べたうえで、次のように語っています。
「法律の名前はわかりませんが、裁判所で令状を取って、それから止めに行ったって、犯罪者は1兆円を現金化して、今度はまた犯罪を犯すわけじゃないですか。なんでそんな悪いことがわかってんのに、もっとスピードアップしなきゃいけないのに、スピードアップしないのかって話です」
なおブロッキングを実施するには、すべての利用者の通信の接続先を確認する必要があります。つまり熊谷氏が想定する構想は、通信の秘密を侵害するおそれのあるブロッキングを常時展開し、「犯罪者」と認定した通信を令状を待たずに阻止する、日本版金盾のようなものを念頭に置いている可能性があります。
Binanceは10月29日(現地時間)に受けた不正流出の影響額を、約63億ドル(約9900億円)と見積もっています。
熊谷氏は理由として、犯罪者が匿名のVPNを複数経由して攻撃するため、足取りがつかめない点を挙げました。同氏が認識しているという、犯罪者を手助けするホスティング事業者は、本社や経営者を日本から分からなくしたうえで、世界50カ国・100カ所にVPNを展開していると説明しています。
そのため、対策はその会社を現在の法制度でコントロールするか、サイバーイージスで日本を守るかの「2つしかない」としました。
さらに、AIを悪用した攻撃は24時間止まらず、社会の対応スピードを上げなければ守りきれないとも強調。「皆様のペンの力を使って」と、報道陣に構想への応援も呼びかけました。
同じ会見では、熊谷氏がXに投稿した「認知戦」についても質問が出ました。
【私見ですが】犯人の動機は2つ ①お金 ② 当社セキュリティ技術力の信用失墜を通じた、日本のサイバー防衛力・国家信認の毀損 →「ネットのセキュリティもGMO」「GMO大会議・サイバーセキュリティ」を掲げる当社を標的とすることで、日本のサイバーセキュリティ防衛体制への国際的な信用を失墜させる意図を推察 。X上のなりすましアカウント等を用いた認知戦活動を確認しており、現在詳細を分析中です。 ご意見ありがとうございます。 @newsnews_today
— 熊谷正寿【GMO】 (@m_kumagai) November 1, 2026
ITジャーナリストの三上洋氏が、熊谷氏がXで「認知戦」「陽動作戦」だと書いたことや、北朝鮮のハッカーによるものではないかとの報道について、どんな証拠で分析しているのかを尋ねたものです。
熊谷氏は、Xへの投稿は「私個人が今回の事件と向き合って」書いたもので、GMOとしての見解ではないと説明。フォロワーの少ない新しいアカウントが最初に悪口を書くと、SNSの反応はその流れに引きずられると持論を述べました。
そのうえで「今回の私の、いわゆる炎上というものの最初のアカウント分析をすると、そういう心理戦の状況を自分で感じた」と語っています。
三上氏が、社内の専門チームの分析と、認知戦や北朝鮮との指摘が結びついているのかを重ねて確認すると、熊谷氏は「いやいや、全く違います」と否定しました。
国名などについては「一切私どもは何も申し上げることは現在はございません」とし、自身のアカウントは「私が一番見てますから」、そう感じたことを「言語化しただけ」だと話しました。
今回の不正アクセスをめぐっては、GMOが10月24日に「能動的サイバー防御」の適用を政府関係機関に要請したと発表していました。
また、日本経済新聞によると、総務省は10月27日付の文書で、電気通信事業者協会などの業界団体を通じ、GMOの顧客のものとされる個人情報を掲載したサイトへの接続を遮断するよう通信各社に要請していました。
一方、藤井比早之総務相は30日の会見で、要請したかどうかについて「回答を差し控える」と述べています。
GMOは28日、ミラーサイトを含む攻撃者側サイトのドメイン停止を確認したと発表。同紙は、サイトが閲覧できなくなり、遮断は結果的に発動しなかった模様と伝えています。
そもそも接続の強制遮断(ブロッキング)は、すべての利用者の接続先を見ることが前提となるため、特に国家がこれを通信事業者に命令することは、原則として憲法が保障する「通信の秘密」に抵触します。
2018年には政府が、海賊版サイト「漫画村」など3サイトと、これらと同一とみなされるサイトに限り、法整備までの臨時的・緊急的な措置として事業者が自主的にブロッキングすることを「適当」とする緊急対策をまとめました。
しかしその際にも、「違法・有害情報一般に関する閲覧防止措置として濫用されることは避けなければならない」と注記していました。
なお、児童ポルノは閲覧できる状態に置かれるだけで子どもに重大で深刻な人格権侵害が生じ、一度ネットに流通すれば被害を回復できないことなどから、削除や検挙が困難な場合など刑法37条の「緊急避難」の要件を満たせば違法性が阻却され、例外的にブロッキングが可能であると整理されています。
一方、著作権のような財産権については、削除や検挙といった他の手段があり、損害も賠償で埋め合わせられるとして、同じ理屈は応用できないと結論。2018年の「漫画村」緊急対策は、この線を「特に悪質な」海賊版サイトに限って越えようとしたものでした。
さらに、犯罪への対処は本来、捜査と裁判の手続きで行われます。刑事訴訟法は、強制の処分は法律に特別の定めがある場合に限るとしており(197条1項)、捜索や差し押さえ、通信の傍受には原則として裁判官の令状が必要です(憲法35条、通信傍受法)。
2025年に成立した能動的サイバー防御の法律でも、警察が攻撃元のサーバーにアクセスして無害化するには、原則として独立機関「サイバー通信情報監理委員会」の事前承認が必要とされています。
「犯罪者のIPだけ」と聞けば穏当に聞こえますが、熊谷氏の構想は中国の「金盾(グレート・ファイアウォール)」に近い発想とも言えます。自分たちのサービスのセキュリティに問題があったため発生した事案について、子会社からの脆弱性の指摘を生かせなかったと謝罪した同じ会見で、国による通信遮断を訴える姿には、違和感を覚えずにはいられません。











