
Apple向けのiPhone部品を製造するTata Electronicsの工場をめぐり、インドの保健当局が周辺農家への健康影響を調査していることがわかりました。
Tata Electronicsは、工場内の水質検査で汚染は示されず、環境当局による調査も終了したと説明していました。しかしロイター通信によると、農家から寄せられた皮膚症状などの訴えを受け、保健当局は別の調査を継続しています。
Tata Electronicsは「環境当局の対応は終了」と説明
問題となっているのは、インド南部にあるTata Electronicsの工場です。2021年に操業を開始し、iPhoneの背面カバーをはじめとする部品を製造しています。
タミル・ナードゥ州公害管理委員会は、2026年5月25日、工場からの排水が隣接する農地の地下水を汚染した疑いがあるとして、Tata Electronicsに警告通知を送付。問題が解消されない場合、工場を閉鎖する可能性も示していました。
これに対してTata Electronicsは、工場内で採取した水の分析から汚染を示す結果は確認されなかったと説明。警告通知で挙げられた照会事項に十分対応したとして、公害管理委員会が追加措置を取りやめたと主張しています。
ただし、公害管理委員会と州政府はロイター通信の問い合わせに回答しておらず、当局側から調査終了を確認できる声明は出ていません。また、AppleとTata Electronicsは、ロイター通信による追加取材に対して回答を行なっていないとのこと。
悪臭や皮膚症状を訴える農家
環境当局による調査が終わっても、事態は収束には向かわなかった模様。
ロイター通信が政府関係者3人への取材及び独自入手した内部文書による情報では、地域の保健当局は、少なくとも5月下旬から、工場周辺に住む農家への健康影響を調査していたとのこと。
5月27日付で州立の研究所に送られた文書では、Tata Electronicsの工場から排出された液体が周辺の農地にたまり、近くの井戸水を汚染していると指摘。強い悪臭が発生し、動物の飲用にも適さない状態になっていると記されていました。
実際に、汚染が原因として皮膚に関する健康問題を訴える住民もいるとのこと。ただし、現地の政府医務担当者は、農家から健康被害の訴えを受けた一方で、現時点では工場排水との因果関係が医学的に断定されてはいないようです。
2つのサンプルから大腸菌を検出
保健当局は、工場に隣接する農地から採取した2つのサンプルを州政府の検査機関へ提出しました。ロイター通信が入手した5月30日付の地区公衆衛生研究所の報告書によると、いずれの試料からも大腸菌が検出されたとのこと。
もっとも、この検査結果だけで汚染源をTata Electronicsの工場と断定できるわけではありません。地域の公衆衛生を統括する政府高官は、さらなる検査結果を待っている段階で、保健当局の調査は現在も続いていると説明しています。
環境当局による調査と、健康被害を調べる保健当局の調査は別物。9to5Macもこの点に注目し、Tata Electronicsが環境面での追加措置は終了したと説明する一方、健康面での調査は終わっていないと伝えています。
基準の2倍を超える溶解物質も
さらに気になるのが、工場周辺の井戸水から検出された「TDS」の数値です。
公害管理委員会が4月に工場近くの2つの開放井戸から採取した試料では、TDSがそれぞれ1Lあたり1,084mgと1,286mgであったとのこと。インド規格局が飲料水として許容可能とする500mg/Lの基準を、いずれも2倍以上上回っています。
TDSは、水に溶け込んだミネラル、塩類、金属などの総量を示すものです。数値が高いことだけで工場由来の汚染と断定はできませんが、ロイター通信の依頼で検査報告書を確認した環境団体「Paani Earth Foundation」の共同創設者は、工業汚染によってTDSが上昇する場合があると指摘。現状の水は、処理を行わなければ人の飲用だけでなく、水産生物や野生動物にも適さないとの見解を示しました。
一方、Tata Electronicsが2023年に公開した環境調査では、工場周辺の水質はインドの安全な飲料水基準を満たしていました。少なくとも公開済みの過去データと、今回報じられた検査結果には大きな差があることになります。
2025年12月には排水設備でポンプ故障か
農家側が最初に懸念を伝えたのは、2025年12月8日だったとされています。
ロイター通信が確認した書簡では、地域の社会正義団体と15人の農家がTata Electronicsに対し、工場からの排水によって小川や池、地下水が汚れ、農作物を育てられなくなったと訴えていました。ただし、Tata Electronicsがこの書簡に回答したかどうかは確認できなかったとのことです。
事情を知る関係者によると、同じ12月には工場の水処理設備でポンプが故障。処理済みの下水の一部が雨水貯留池へ流れ込み、さらに工場外の湖へあふれ出す事態が起きたとされています。
Tata Electronicsは直ちに越流を止め、故障したポンプを修理したようですが、問題の排水が現在指摘されている水質悪化にどこまで関係したのかは、明らかになっていません。

ロイター通信の記者は現地を2度訪問し、12人を超える農家に取材。工場近くの開放井戸では黒く見える水がくみ上げられ、工場の壁沿いには緑色で泡立ったように見える水がたまっていたと報告しています。農家の1人は、この水で種をまくと発芽はするものの、その後しおれて枯れてしまうと証言しました。ただしロイター通信は、農作物への被害や現地の水質を独自に検証できていないとしています。
一時は警備員が銃器を持ち出す緊張状態に
周辺農家とTata Electronicsとの対立は、現地で緊迫した状況にも発展しました。
ロイター通信によると、農家団体の男性が、排水が入っていると主張する池を撮影するためTata Electronicsの敷地内へ侵入。これを受け、警備員の1人が車両から銃器を取り出し、肩に担いだとのことです。
農家側が「撃て」と応じた後、にらみ合いは終了しました。けが人が出たとの記述はありませんが、地域住民との関係がかなり悪化していることをうかがわせます。
Appleのインド生産拡大を支える重要拠点
今回の問題が注目されるのは、Tata ElectronicsがAppleのインド戦略における重要企業だからです。
Appleは中国への生産集中を見直し、インドでのiPhone生産を急速に拡大しています。調査会社Counterpointによると、世界で生産されるiPhoneのうちインド製が占める割合は、2022年の6%から2026年には26%に達する見込みです。
Appleのサプライヤー行動規範では、取引先に対して排水の特定・管理・削減、処理設備の定期的な監視、雨水流出による汚染の防止などを求めています。今回の疑惑が事実であれば、単なる地域の水質問題にとどまらず、Appleが掲げるサプライチェーンの環境基準にも関わる話です。
現時点では、農家が訴える健康被害とTata Electronics工場の排水との因果関係は確定していません。一方で、大腸菌や高いTDSが確認され、第2弾の検査も続いている以上、「環境当局の対応が終了した」というTata Electronicsの説明だけで問題が解決したとは言いにくいのが現状。
中国依存からの脱却を急ぐAppleにとって、インドで生産量を増やすだけでなく、急拡大する製造現場の環境管理まで徹底できるかが問われることになりそうです。











