総務省は令和2年10月27日、「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表しました。
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総務省がアクションプラン公表
従来を継承しつつも新しい策
「競争ルールの検証に関する報告書2020」や菅政権の掲げる携帯料金値下げを踏まえ、競争環境整備の具体策をまとめたもの。
概ね従来どおりの政策の継続や、事前報道された「キャリアメール持ち運び」やeSIM促進、セット割検証など。特に社会通念上の概念と異なり残債の減らない「頭金」などにもメスが入ります。
MNP一気通貫、キャリアの抵抗に負けず最も実現すべきもの
最も重要だと感じたところは、日本の「MNPツーストップ」に対する言及です。
海外では、受け入れ先のキャリアでMNPをすれば手続きが完了するので、非常にスムーズという国も多いです。ところが、日本では転出元の事業者でMNP予約番号発行手続きをし、それが有効な2週間で転出先のキャリアで手続きを行うという作業が必要。そしてここの手続きが煩雑だったり引き止めを受けたりして、消費者のMNPがスムーズに進まないといった事情がありました。
総務省ではこの点の問題提起が行われていたにもかかわらず、大手キャリア側の反論も行われ、その後検討案は「引き止め規制(=引き止めができるということは、ツーストップを容認し続けるということ)」にシフト。MNPワンストップ化は見送られたようにも見えました。
しかし、今回のアクションプランでは、過剰なMNP引き止め規制策の整備に加えて、「ツーストップ方式に係る課題を改善し、ワンストップで実施できる方式を秋以降検討」と明記されました。しっかり検討課題の遡上に。これは是非とも実現してもらいたいポイントです。
というのも、6年前のMNPキャッシュバックの最盛期、異常な金額が携帯3社で飛び交っていましたが、あの時にそれでも乗り換えない消費者が多かったのは「なんだかよくわからないから」「面倒だから」ではないでしょうか。そう、消費者心理は金銭だけの問題ではないのです。わかりやすく、面倒を無くすことが非常に大事だと思います。
MNPワンストップ化はライトユーザーにとってのわかりやすさを提供するとともに、そうではないユーザーにとっても手間が減って嬉しい点です。
ただし、受け入れ先のキャリアは、本人確認などセキュリティ的に問題がないかのチェックが必要です。その辺りの甘い事業者にまでMNP一気通貫が可能になれば、「誰かに勝手にMNPされた、転出元キャリアを強制解約された」といった問題も生じえます。そこもきっちり制度化して安全性を担保した上で、それでもMNPワンストップ化は政治の力で必ず実現すべきことです。
「第1の柱」端末値引き規制、「第3の柱」として活かせ
あの最盛期のMNPキャッシュバック合戦の頃は、「2年縛り自動更新」など数々の縛りが存在した寡占3社の支配体制のピークでした。種々の縛りの違約金コストを計算して、お得になるよう計算して動ける一握りのユーザーが3社間をぐるぐる回っていました。
あの狂想曲の実態は、不当廉売レベルの端末叩き売りと現金・月月割バラマキです。ベースとなる通信料金を値下げするのを回避しながら、儲けた利益を不当廉売に注ぎ込み、消費者が3社以外の新規プレイヤーに乗り換える気力をひたすら削ぐばかりでした。
だからこそ不健全極まりないとしか言いようがなく、政府の介入を招いたのは当然と言えます。
ところが、今はどうでしょうか。
2年縛り自動更新も実質価格もSIMロックも規制され、ユーザーの自由度は高まっています。色んな人が乗り換えやすい状況に近づきつつあります。となれば「通信セット割の端末値引き総額2万円上限規制」は過剰ではないでしょうか?下品な安売りをすれば、他社で使われたり、中古市場に流れたりするのでキャリアにとっては損もするので、抑制的になるでしょう。しかもMNPしやすいよう整備された環境なら、一部の人ではなく、より幅広い国民が利用する機会が得られるのです。機会平等でしょう。
だから改正事業法の規制範囲を縮小し、新規プレイヤー育成に活用すべきです。楽天モバイルや100万以上契約者MVNOといった新規プレイヤーへの端末値引き規制を除外または緩和すべきです。
楽天モバイルは寡占3社に対して、そして100万以上契約者MVNOは3社の系列・サブブランドに対して、挑戦する存在です。彼らには契約者を増やして強くなってもらわなければなりません。そのスタートダッシュの段階の武器として、端末値引きは必要なものです。値引き額を大きく増額する緩和策が妥当でしょう。成長する新規プレイヤーを、既存プレイヤーが脅威に思うからこそ、本気の競争が起きるのです。
ところが総務省は、3社とその系列に対するものと全く同じ規制を、楽天モバイルや100万以上契約者MVNOにまで課しています。これでは既存プレイヤーが、挑戦者たちを全く脅威に感じることはありません。
楽天モバイルの契約者もまだまだ伸びていません。このままでは、既存プレイヤーはあぐらをかいて、政府の政策を適当にやり過ごすだけです。そうなったら競争環境による値下げなど不可能。むしろ資金力のある大手キャリアは、政府の要請した値下げに応えるという名目で、サブブランドでの値下げを実行しそうに見えます。そうなれば、サブブランドと競合する楽天モバイルと100万契約以上のMVNOは、このまま育つ前に一網打尽。「菅政権の失策によって、日本の携帯業界から競争が消滅した」と後世に評価されてもおかしくありません。
これまで資金力のない事業者は市場から退場させられ、競争が鈍化しました。成長する前にエリア整備ができなかった会社は退場、もしくは既存三社に買収されてしまっています。それでもE-MOBILEが一時期急激に顧客を獲得できたのは、やはり端末の安売りでした。
以上を踏まえ、改正事業法の端末値引き規制を第1の柱から、乗換円滑化という「攻め」の第3の柱に位置づけを変えて、「資金力の潤沢な既存3社とその系列を引き続き抑え込み、新規プレイヤーにはより端末値引き額の裁量を与え、既存プレイヤーに比肩する存在になるよう育成する」といった、新しい段階に移すことが重要だと考えます。
また、これに伴って、たとえば既存3社の上限2万円規制に「5Gなら計3万円に増額」など、5G推進もあわせて行うギミックを加えてもいいでしょう。
少なくとも、寡占3社の「不当不健全な値引き」への規制が、5G促進にも新規プレイヤー活性化にも急ブレーキをかけすぎている現状もまた不当不健全。再考が急務です。
楽天モバイルと100万契約以上MVNOの値引き規制が緩和されて割りを食うのは、契約者数の少ないMVNOです。しかし国内はMVNOが乱立し数ばかり増え、むしろ過当競争気味だったので、問題ないでしょう。
また、昨今大手キャリアはハイエンド端末の代金をむしろ値上げする例も見られますが、「ユーザーは新規プレイヤー育成に協力すれば、端末代の安い選択肢も増える」とすれば上手くハマるのではないでしょうか。そうすれば楽天モバイルに供給する端末メーカーが増えるでしょうから、ちょうどいいサポートになります。楽天モバイルが安売りする分には悪どい縛りはなくSIMフリーですし。(わざわざ国内必須主流バンドB1を潰すような事実上の縛りには目を光らせるべきですが)
その他
eSIM促進は素晴らしいことですし、「頭金」もなぜ今まで放置したんだというレベルですのでアクションプランに盛り込まれたのは喜ばしいこと。あとはMNP一気通貫と値引き規制見直しの有無次第だと思います。
ただ、消費者の参考になるポータルサイトを作るというのだけは完全に謎。誰にも読まれず税金の無駄、行政改革で閉鎖待ったなしの官製ホームページを作るより、「半年間だけの割引」「キャンペーン」「固定回線で縛られた場合の割引」「家族全員乗り換えた場合の最大限の割引」等、全てを合算した値段を前面表記する意味不明なキャリア公式サイト・販促を規制すべきでしょう。いくら分離プランを導入したところで、割引前正規通信価格を目立つように表記せず、変な表記で消費者を欺く慣行を放置していては、これまで通りわかりにくいばかりです。