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値引き上限2万円の省令案について考えた

 総務省は、端末値引きの上限を2万円、回線解約金を上限1000円とする省令案について、パブリックコメントを募集しています。募集期間は7月22日まで。

 総務省に送るパブリックコメント用の下書きがてら、考えをまとめるために文章を書いていましたが、せっかくなので筆者の考えとしてシェアします。「だ・である」調となってしまっていることをご了承ください。

端末と通信の分離について

 端末と通信、それぞれ自由に消費者が選択できるという理想について賛成する。今回の法改正で規制対象となる「実質価格」だけでなく、実際に適用されるかどうかわからない各種の割引全てを適用した価格を前面に表記するなどの行為も規制し、よりわかりやすく透明性のある販売形式を推し進めることで、消費者を欺く業界慣行を根絶することを支持する。

 一方で、今回の省令案に対して強く反対を表明する。

 端末と通信の分離は本来、透明性・わかりやすさ・価格引き下げ圧の前に、まずメーカーや消費者は観点から欠かせないものと考える。ところが、今回の省令改正で得をするのは結局は携帯キャリアであって、いずれの観点も欠けている。

解約金

 まず、解約金制度に手を加えることに賛成する。日本の大手携帯キャリアの「2年縛り自動更新」は、顧客を過度に囲い込みユーザビリティを低下させ、競争を阻害する悪質な慣行である。是正が急務だ。

 各社、一応は「自動更新なし 2年契約」を導入したが、依然として多くの場合のデフォルトは事実上「自動更新あり 2年契約」となっており、自動更新なしへのスイッチは通知があっても忘れられがちで、KDDIは新料金プランでしれっと「自動更新なし 2年解約」を適用外とするなどの動きもあり、引き続き市場を監視し是正していく必要がある。

 かといって、算出根拠の疑わしい「解約金上限1000円」は、キャリアも今後の見通しが立て辛くなることから、値下げ余地を見極めることができず、却って通信料金の高止まりを招くおそれもある。キャリアがユーザビリティ低下によって顧客を縛ることには枚挙に暇がなく、解約金で縛れない以上はそうしたもので縛ってくるのではないか。おかしな手数料を上げて解約金以外の部分で金を巻き上げる可能性もある。そうなれば消費者の混乱や不利益も予想される。解約金上限はもう少し現実的な額まで引き上げるべきだ。

 そこで、縛りのない「自動更新なし 2年契約」をデフォルトにすることを義務化するよう提案する。ユーザーが望んで更新(縛りの継続)を申し込めば、ごくわずかに月額料金が安くなることを許容する程度はあってもよいかもしれない。

 つまり、現状のプランをベースに、自動更新なしを標準化して、一定期間通信契約を使用すれば、ユーザーの特別な求めがない限りは「解約金をずっと0円にしろ」という案である。これなら悪質なキャリアの対抗策を抑止、混乱も招かずに済むし、スイッチングコストの低いユーザーを増やすことができる。

値引き総額上限

 値引き上限2万円で得をするのは、販促費を大幅圧縮できる大手キャリアである。「実質価格」は法規制し、実際の通信料と端末代金が明確化されるのだから、それ以上の値引き規制は過剰であろう。単にキャリアからメーカーに流れる金が激減するだけだ。

 また、大手3社に対抗、比肩する存在になり得るプレイヤーまで規制するのはいかがなものか。既に多数の顧客を抱えた大手3社から顧客を奪うには、大手3社以上の還元策も必要だ。電力やガスは自由化されたが、想定ほど顧客は乗り換えていないのではないか。携帯は解約金以外にもMNP事務手数料、新規事務手数料、新たなプランを覚える手間、機種を変えたり設定をする手間など、有形無形のコストが多数発生する。さらに大手3社は固定回線なども含めて囲い込みを行っている。つまり解約金だけが1000円になったところで、多くの顧客が乗り換えるかどうかは疑わしい部分がある。

 そこで新規プレイヤー・MVNOにとって顧客誘引の大きな武器とならざるを得ないのが端末の値引きである。大手3社は資金力や多事業展開、宣伝によっていくらでも手を打てるが、そうではないプレイヤーまで過剰な値引き規制を平等に当てはめることは、単に顧客流動性が低下し競争が鈍化するだけではないか。

 値引き規制を見直す、楽天モバイルや100万人以上のMVNOを規制対象から除外する、といった検討を重ねて然るべきだ。

 過去に販売奨励金の規制に乗り出そうとしたたものの結局のところ新規通信規格への乗り換え促進のためにある程度容認する運びになった国もある。新規通信規格5Gはこれからの時代の社会の基盤となり得るものであり、仮にMNOの値引き上限をやはり規制するとなった場合においても、5G対応端末には例外規定を設けることを検討すべきだ。

メーカー

 タイミングも非常に悪いのではないか。ガラケーの退潮が明確な時代に、キャリア支配・悪しき慣行はより踏み込んで軌道修正すべきだったと思うが、それは当時は日本市場に参入する海外メーカーは多くなかったからだ。

 現在、通信規格の移り変わりもあって海外メーカーも続々参入、日本(日本発)メーカーはソニー、(鴻海)シャープ、京セラ、(投資ファンド)富士通の4社のみとなっている。キャリアは販路も牛耳っており、この4社がまだまだここに依存する形となっており、キャリアの値引きが急激に消滅した場合、甚大な影響を被ることが予想される。

 また、日本国内では市場を支配する携帯キャリアが端末販売の割賦や金融事業を展開、様々な事業を展開し莫大な利益を上げている。ここまで肥え太らせてしまった現実がある以上、ドラスティックな改革には遅すぎることを理解して政策を打つべきだ。

 一方、中国メーカーは世界規模で端末を出荷し、シェアは上位。そして様々な事業を展開。中国国内では端末の割賦サービスを皮切りに金融事業を展開するメーカーまで出てきている。これが続々と日本へ上陸してきつつある現状、日本国内の金の流れを握るキャリアが、端末販売の販促費も絶つとなれば、キャリアは肥え太るばかりで、国内メーカーは全滅すらありえるのではないか。

 政府は国内市場における米AppleのiOS比率の高さを心配しており、それがゆえのハイエンド端末への購入補助根絶なのだろうが、iOS比率が高いことの問題は、アメリカ企業に取り分を持って行かれることのはず。このハイエンド領分ではAndroidを採用する国内メーカーも戦っている領域であることを忘れていること、中国メーカーに大きすぎる隙を与えていること、これらを考えると、本末転倒である気がしてならない。どうせ中国メーカーが国内を席巻すればiOS比率は勝手に下がるので心配無用だ。

 メーカー自立とキャリア外販路拡大、メーカーの海外進出支援といった観点からも分離議論はなされるべきであって、そうした観点が欠如しているのがこの議論の根本的な問題である。キャリア代表者が会合に呼ばれるのであれば、必ずメーカー代表者を会合に呼ぶべきだ。ステークホルダーを呼ばずに議論を強引に押し進める、これはブロッキング問題や違法ダウンロード拡大問題にも見られた構図である。消費増税に間に合わせるために雑な省令案になるぐらいなら、やめてしまったほうが良い。

消費者の自由

 そもそも分離とは何か。消費者が端末と通信を好きに組み合わせて使えることを指すはずである。

 しかしあるMNOはSIMフリー機・指定外機器を使えば月額料金を上げ、またあるMNOはSIMカードを差し替えるごとに手数料を要求する、こういった慣行が横行している。表向きはSIMカード単体や持ち込みでの契約に対応しているとしながら、ほとんどの店に単体契約用SIMカードの在庫を用意しないことで拒否し、旗艦店でしか契約できない、そういうMNOも存在する。端末は単体販売に応じていない場合が多く、乗り換え先で使えず消せないクラップウェアも満載である。

 こういった消費者の選択権を侵害する数々の悪習を政府が黙認していれば、当然ながら通信と端末を別個に選ぶという選択肢はユーザーには定着しない。こういう部分の是正から分離の議論が始まっていないのはそもそもおかしいのではないか。それでいながら、料金だけは分離するというのは、消費者にとっては単に高くなるのみということだ。

 消費者の権利や利便性を尊重してキャリアの悪習を根絶、分離的になるほど、キャリアが端末を過剰に叩き売りする要因の一つが薄れるのだから、2万円上限の規制自体が不要ではないか。それでもなお資金力に優る大手キャリアが叩き売ったとしても、端末を楽天やMVNOでも持ち込んで使用可能であれば、消費者と新規プレイヤーの利になる。総務省の主張する「中古端末促進」にも繋がるだろう。(そもそも拡大すべきは中古端末ではなくSIMフリーだと思うが。)

 消費者の自由とメーカー自立という観点に立ってじっくりと再考すべきだ。

補足

 本稿では、寡占キャリア3社の圧縮した端末販売に関わる費用が通信費の値下げに還流するという前提を採用していない。これまでの長年のキャリアの態度を見ていれば、そのような性善説に基づく前提を採用することが馬鹿らしいからである。浮いた金はせいぜい携帯以外の他事業に突っ込むのが関の山。期待する方がおかしい。値引きでメーカーや5G促進に還流させたほうがマシだろう。

 もし、それでもキャリアの圧縮した販促費をメーカーではなく通信費値下げに還元すべきであるとの理念を菅官房長官が強くお持ちであれば、法改正によって通信料金を政府の認可制に戻すか、NTT docomoを国営化して見本となる料金プランを示すべきである。忖度で「4割値下げ」は筋が通らないが、そうであれば筋が通る。

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