Appleが3月21日に新製品発表会の開催を予告しました。ここではiPhoneの4インチモデル「iPhone SE」が発表される公算が高まっています。
気になるのは価格です。これまで、iPhoneの新製品発表会では、米国における2年契約の実質価格が表記されてきました。少しでも価格を安く思わせるためです。「無料, $99から, $199から……」といった具合に。本当に無料であるはずがなく、下に小さく「2年契約」と書いてあるんですけどね。
しかしアメリカの携帯会社4社は、スマートフォンにおける2年契約を廃止しました。もう「2年使えば安くなるよ」という、難解なプランは選べないのです。(一部には、既存契約者向けにのみ残したり、タブレットにのみ提供しているという会社もあります。)もはや、魔法のようなまやかしの価格表記はAppleの発表会ではされず、定価が表記される可能性が高いということです。となれば、定価の安いiPhoneが登場すれば、アメリカ市場でも歓迎される余地があります。
日本の携帯会社のプランといえば、公取委が介入しないのが不思議なぐらいの「実質価格」なる二重価格表示が横行していますが、ついに総務省は「実質0円」の規制を行います。
実質販売の恩恵を最も受けていたのがAppleであり、今後の販売低迷を危惧し、Apple担当者が総務省に訪れたという噂もあるほど。
今やiPhoneといえば、税込みで前後10万円の高額な買い物です。Appleはキャリアに過酷なノルマを課すことで、既存顧客の通信料を原資に、iPhoneユーザーの通信料を多く割り引くことで、高額化するiPhoneを大量に売りさばいてきました。しかしこの構造に行政のメスが入るのです。まやかしの価格表記で糊塗された高額なMNOの料金プランと高額な端末代金が、剥き出しになるのです。
そこで消費者の目が向きつつあるのが格安スマホことMVNOとSIMフリー端末です。料金体系が安いのはもちろんシンプルです。2年縛りはおろか、1年以内の解約でも解約金を取らないMVNOも登場しています。(イオンモバイル)
MVNO市場では、価格としては1万円台~4万円以下程度のモデルが多いですが、最新型のSIMフリーiPhoneを正規販路で選択しようとすると、10万円前後の端末代が掛かります。格安SIMことMVNOのSIMカードの魅力の一つは、その安さです。昨今のiPhoneの本体代金の高さが、MVNOとの組み合わせの魅力をやや削いでしまう面があったのも事実です。
そこで、もしiPhone SEが日本で6万円を切るような価格で投入されたらどうでしょうか。KGI証券のレポートでは、16GBモデルが4.5万円です。その時、格安スマホとの組み合わせによるランニングコストは、MNOに対してより優位なものとなるでしょう。月額料金の安さと縛りの少なさが魅力的のMVNO、端末代金控えめながらも中身は最新のiPhone SE。ランニングコストが安く、非常にそそられる組み合わせです。
もちろん、価格だけを見たらAndroidの方が安いモデルがたくさんあるのですが、iPhoneのネームバリューは大きいです。ブランド力が違います。その最新機種が価格を下げて来たら、消費者にとって魅力的であるのと同時に、既存のSIMフリーメーカーにとっては脅威でしょう。キャリア販売端末だけでなく、SIMフリー市場でも大きな存在感を発揮することになります。いわばMVNOの台風の目といったところでしょうか。
ただし、こうした仮定はあくまでAppleが「iPhoneのブランド力を守る」という優先事項を教条主義的に捉えていない場合にのみ成立します。
しかし、Appleはブランド力維持に固執しすぎて、「iPhone 5c」の価格を高くしすぎ、躓いた過去があります。当時、iPhone 5cはフラッグシップであるiPhone 5sとの価格差が小さいものでした。
ところが現在は、フラッグシップの価格自体が10万円へと高騰しています。iPhone 5cは当時6万円程度でしたが、今、たとえ5~6万円程度で出したとしてもフラッグシップとの価格差は大きいです。iPhoneの最新機・現行機を選択肢とする多数のユーザーにとっては、非常に魅力的に映るでしょう。
そして、Appleにとって重要な市場である日本市場において、低迷の徴候のあるiPhone・キャリア販売端末に対して、SIMフリー市場は堅調です。そして仮に定価が安ければ、SIMフリーだけでなく、まやかしの価格を表記できなくなりつつある日米のキャリア販売においても存在感を発揮できます。もしiPhone SEが日本市場に投入されれば、その価格戦略次第では、大きな波乱の予感です。