5月15日に行われた参議院総務委員会において、立憲民主党吉川沙織議員が、海賊版サイトへのアクセスブロッキングについての質疑を行いました。
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議事録非公開など、プロセスに問題あり
吉川議員は本件について追及したいことがたくさんあるとしつつも、今回は立法府を軽視したプロセスといった観点に絞るとし、淡々と質疑を行いました。
吉川議員は、知財本部の議事録が非公開となっていることを問題視。議事要旨を読んでも、内容がほとんどわかりません。しかもブロッキングを実際に行うことになるのはISPなのに、当のISP事業者の関係者を会合に呼んでいないことも問題であるとしました。
議事録について住田局長は、非公開の理由として、情報開示により悪質な海賊版サイトが注目を浴びてしまい訪問者が増加してしまうことへの懸念、権利者側が講じてきた対策つまり手の内が海賊版サイト運営者に知れてしまう、出版社の売上などの状況を一般開示することで利益を害する恐れがある、などの理由から、検証委員会企画委員会の運営に関わる規定に基づいて議論を非公開としたとのこと。
元々非公開を前提とした上での議論だったので、公開には関係者との調整を要するとし、部分的な公開が可能かどうか、状況変化や関係者の意向を踏まえながら検討していくとしました。
緊急避難の構成要件の十分な検証の有無
児童ポルノブロッキングに関しては数年にわたる議論の上で、緊急避難として、通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさないように配慮しつつ実施されています。著作権などにブロッキングを適用することは不可能というのが当時の議論です。海賊版ブロッキングも緊急避難についての構成要件を全て満たすのか、改めて十分に検討する必要があったのではと吉川議員は指摘。
これに対し住田局長は、緊急避難の構成要件の検証として、現在の危難の規模や、他のあらゆる手段を尽くしたのかという補充性、法益権衡についても、2010年の児童ポルノブロッキングの当時との違いを明確にしながら議論を進めたと答弁しました。
サイバー防衛では、通信の秘密を最大限尊重、慎重に仕組みづくりが進められている
今回の参議院総務委員会において、吉川沙織議員はこの議題に入る前、多様化するサイバー攻撃からの防衛に関する問題について追及しています。
政府は、事業者間で情報を共有し、サイバー攻撃の発信源となるサーバーをネットから切り離すような防御措置を講じられるよう仕組みづくりを進めています。
この仕組みにおいては事業者の情報共有が不可欠であり、この共有される情報には、通信の秘密に該当するユーザー情報も含まれます。このため総務省は検討会を設置、関係事業者からの聞き取りを実施、情報共有は第三者機関を通じることなどを取り決め、きちんと法改正を行うといったプロセスを踏むことで、憲法や法律に保障された通信の秘密を最大限尊重する形を取っています。
ところが原則としてユーザーの利用者同意が不可欠であり、同意が取れない場合には、サイバー攻撃に関する情報共有が行えず、サイバー攻撃を受けたことを利用者に通知することも出来ないという問題も生まれます。ここがサイバー攻撃への穴になるのではないか?これを追及したのが吉川議員です。決して、必ずしも通信の秘密を金科玉条としている人ではないというわけですね。
サイバー攻撃への防衛の例に見られるように、総務省は通信の秘密を非常に重視して政策を行っていることがわかります。しかし、海賊版サイトへのアクセスブロッキングについては様相が全く異なります。吉川議員は海賊版対策の一刻も早い必要性は認めつつも、法的位置づけが不明確なブロッキングは、サイバー攻撃に関わる情報共有と比較し、プロセスが不透明であると指摘しています。
ブロッキング導入国は、立法・司法的手続きを行っている
海外諸国のブロッキング状況を問われ、住田局長は、ブロッキング実施国が40カ国あることを列挙。
これに対し吉川議員は、立法・司法的手続きを経ることなく、行政の指示で特定サイトへのアクセス遮断を行っている国は存在しないと指摘しました。
今後の議論では必ずISP関係者の参加を
通信の秘密の他にも憲法に定められた表現の自由への影響も懸念されるとし、今後の議論においては必ず、ISP関係者など幅広い関係者の意見を踏まえた上で、通信の秘密との関係を整理し、法的根拠を明確化しなければならないとしました。
次期通常国会への提出を目指すとしている住田局長に対し、吉川議員は、今回の件は立法措置があって対応するべき問題のため、本来は今度の臨時国会で関係者の意見を聞いて法整備を進めるべき問題であるとしています。