サイトブロッキングに積極的なドコモ
NTTグループは、海賊版サイトへのブロッキングを正式発表しました。NTT docomoもこれを実施すると表明し、物議を醸しています。
SoftBankとKDDIはどう考えているのか。決算発表にて両社のトップが言及する場面があったのでご紹介します。
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ソフトバンクとKDDIは慎重な姿勢
SoftBank決算会見の質疑応答でサイトブロッキングについて問われ、宮内社長が回答。あくまで国の法制化の動きや様々な議論を踏まえた上で対応していきたいと、慎重な姿勢を示しました。
「著作権を侵害しているということについては、非常に放置することのできない非常に重要な問題だと思ってますけれども、一方で皆さんも御存知のように、業界団体なんかとも連携して、『通信の秘密』、法制度の問題、この辺を踏まえて運用面技術面も考慮しながら、何が実行可能かについて、今検討しているところであります。まあNTTさんは『もうブロックする!』と発表されて、我々も社内では相当に議論しました。
でもやっぱりどうしても両方の意見が結構強くあるものでですね、あまり一気に何でもブロックすると、いま現実に漫画のサイトを全部ブロックされてますよね、なのでそこのところの線引きが非常に難しいんでですね、多分これは国としても法案化するか何か、いろんな議論がこれからなされると思います。その上で対応していきたい、というのが我々の見解であります」
この翌日、KDDIの報道関係者向けの決算説明会にて、サイトブロッキングについての質問があり、高橋社長の回答をITmediaが報じています。
高橋社長 昨日(5月9日)も、ソフトバンクの宮内社長がこの件について話しをしていたが、私としては価値あるコンテンツの価値を持って届けることは絶対に必要だと考えている。違法な配信は止めなければならない。
ただ(政府が)話題に挙げた3つのサイトは現在はすでに見れない状態になっている。また、通信事業者として守るべき法令(日本国憲法や電気通信事業法)もあるので、慎重に対応していきたいと考えている。
SoftBank同様、KDDIもあくまで慎重な姿勢で、法令を遵守。いずれも抑制的な姿勢を取っています。
日本政府の見解は
質問主意書
さて、NTTグループのサイトブロッキングは、政府の知財本部の「要請」を受けたものと考えられています。しかし、本当に政府が特定サイトへのアクセス遮断を要請したとすれば、これは憲法違反の疑いも出てきます。憲法に反する法律や命令は、これを拒否することができます。
では政府はサイトブロッキングをどのように捉えているのか。立憲民主党の松平浩一衆議院議員の提出した質問主意書を見ていきます。
平成三十年四月十二日提出
質問第二二六号提出者 松平浩一
漫画等の海賊版サイトのブロッキングに関する質問主意書
報道によると、政府は国内に拠点を置くインターネット接続業者(「プロバイダ等」という)に対し、ネット上で漫画や雑誌を無料で読めるようにしている海賊版サイトにつき、著作権侵害を理由として接続を遮断する措置(「ブロッキング」という)を実施するよう要請(「本件要請」という)する調整に入ったと報じられている。
一方で、海賊版サイトへのブロッキングをめぐっては、憲法で保障された「通信の秘密」「検閲の禁止」に反するという指摘が、かねてよりあがっている。また、電気通信事業法でも、プロバイダ等は「通信の秘密」を侵してはならない、と定められている。
以上を前提に、以下質問する。
一 本件要請を行う主体や手続き、法的根拠ついて明らかにされたい。
二 本件要請はブロッキングの対象となる具体的サイトのURL等を特定する形で行うのか。仮に本件要請が、具体的サイトのURL等を特定した要請であり、またそれがプロバイダ等に対して強制性を帯びることがあれば、憲法によって禁止される検閲に該当する虞があると思料するが、政府の見解はどうか。
三 本件要請に基づくブロッキングは、電気通信事業法に定める通信の秘密侵害罪(電気通信事業法第四条、第百七十九条)の構成要件に該当すると思料するが、政府の見解はどうか。
四 本件要請に基づくブロッキングは、緊急避難(刑法第三十七条)として違法性が阻却されるための要件である現在の危難、補充性、法益権衡の要件を充たすものでないと思料するが、政府の見解はどうか。仮に充たすとの見解である場合、その根拠をご説明いただきたい。
五 本件要請に基づきプロバイダ等がブロッキングを実施した場合、プロバイダ等に対して通信の秘密侵害罪の刑事告訴若しくは刑事訴追の可能性があり、また民事上の責任が生じる可能性があるが、当該責任はプロバイダ等が自ら負うという理解か。
六 今後、著作権のみならず他の権利侵害(名誉毀損、プライバシー侵害等)にもブロッキングの要請の範囲を拡大していくことを視野に入れているか。
七 主要二十カ国・地域(G二〇)において、議会での立法又は裁判所の判断に基づかず、行政がプロバイダ等にブロッキングを要請又は命令している例があるか。仮にないとすれば、その理由についてどのように分析しているか。
八 本件要請は、通信の秘密や検閲の禁止を定めた憲法第二十一条を侵害する虞がある要請であり、国民の基本的権利にかかわる重要な問題であるため、民主的な手続きと立法府での慎重な議論を踏まえた検討が必要と考えるが、政府の見解はどうか。
右質問する。
質問主意書は、政府要請が検閲禁止や通信の秘密を定めた日本国憲法第二十一条に違反し、政府要請に基づくブロッキングが電気通信事業法の通信の秘密侵害罪にあたるのではないか、などの点を指摘しています。
知財本部は考え方を整理しただけで要請なんてしていない
しかし回答は「本件要請」「ブロッキングの要請」自体を否定。単に考え方を整理しただけである、というのが政府の正式な見解です。政府は民間が取り組むべきという考え方を整理しただけで、何の要請もしていないので、憲法違反ではないということです。
衆議院議員松平浩一君提出漫画等の海賊版サイトのブロッキングに関する質問に対する答弁書
一から四まで、六及び八について
御指摘の「本件要請」及び「ブロッキングの要請」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、本年四月十三日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で決定した「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」(以下「緊急対策」という。)において、「特に悪質な海賊版サイトのブロッキングに関する考え方」、「著作権侵害サイトブロッキング対象ドメインについての考え方」(以下「対象ドメインについての考え方」という。)、「国民レベルでの海賊版対策の著作権教育の重要性」等について整理し、また、いわゆる「ブロッキング」について「極めて重大な被害を拡大させている特に悪質な海賊版サイト以外の、違法・有害情報一般に関する閲覧防止措置として濫用されることは避けなければならない」と整理することにより、現下の特に悪質な海賊版サイトによる著作権者等の権利の深刻な侵害の更なる拡大を食い止めるため、法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として、民間事業者による自主的な取組が実施され得るよう、その環境を整備したところである。
五について
御指摘の「本件要請」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、緊急対策を踏まえ、「海賊版サイトのブロッキング」については、対象ドメインについての考え方に沿って、あくまで民間事業者による自主的な取組として適切に実施されることが必要となると考えている。
七について
お尋ねについては、各国等の制度の詳細な調査に時間を要するため、お答えすることは困難である。
結局のところ立法措置を待たずして民間事業者がブロッキングを行ったとして、そこに何らかの違法行為があったとしても、当然ながら政府がその違法性を免責するわけではないということです。
ブロッキングは違法の疑い
通信の秘密侵害の違法性阻却事由が認められているブロッキングの例として、児童ポルノへのブロッキングがあります。しかし導入は長い議論の末、現在の危難・補充性、被害児童への人権侵害から法益均衡が認められ、緊急避難として容認されることで、初めて導入された経緯があります。これを著作権などの財産権などには拡大できないというのが当時の議論です。
サイトブロッキングに積極的なドコモに追従して、ソフトバンクとKDDIも無理筋なブロッキング行うのかと危惧されていましたが、そういったこともなく、慎重に対応していく構え。そして当の日本政府もそんな要請はしていないと言っているのだから、盛大に梯子を外された形となります。
単にNTTグループが突出して違法行為を働いているような形となります。早急にブロッキング中止を表明すべきではないでしょうか。
議論成熟と法整備が待たれる
ブロッキングはいたちごっこであり、導入している諸外国でも効果が疑問視されています。ブロッキングよりも、サイバー捜査能力の向上・海外現地の政府や警察機関との密な連携・広告差し止め・著作権法における漫画村型海賊版サイト運営への厳罰化など、考えられる様々な対策を議論すべきです。
もし仮に、それでもやはりブロッキング以外の手段が無いのだ、という結論になった場合においても、政府への「忖度」という世界でも例のない滅茶苦茶な導入ではなく、やはり先進諸国の例に倣い、憲法や国民の権利に最大限配慮し、裁判所を通じてブロッキングする仕組みなどをしっかりと国会で議論し、立法措置で導入するのが筋ではないでしょうか。
サイトブロッキング https://t.co/bGavmyQPge
— すまほん!! (@sm_hn) 2018年5月11日