中国市場でテレビは、地上波なり衛星なりの電波を拾ってテレビ局によって放送されている番組を視聴する「電波受像機」というよりも、インターネット接続を前提として、起動したらホーム画面が立ち上がり、視聴するコンテンツを選択する「スマートテレビ」として位置づけられているのは、以前もお伝えしたとおり。
「わあ、市場が進んでいるなあ」と感心したところですが、実はこの「スマートテレビ」にも落とし穴が。
起動するとまず立ち上がるのは、メーカーが勝手にぶちこむ広告で、しかもユーザーが閉じられない問題が発生しているそうです。
各メーカーごとの状況と対応、さらに「これは適法なのか?」「やめさせるためには」など、中国「北京日報」が詳しく伝えました。
Index
中国のテレビ、広告がポップアップされる問題
起動時に30秒も見せつけられる
蘇寧易購聯想橋店のシャープ売場、テレビを付けると30秒にも及ぶ広告がポップアップ表示。「出荷時期によって、広告があるテレビもあれば、広告のないのもある」と答えた販売員によれば、広告がなかったとしても、10秒ほどシャープロゴの起動画面が表示されるといいます。
他の専用ブース販売員によると、創維、長虹、楽視、小米などのブランドはいずれも数十秒の起動広告が表示される、というのもAndroid OSの起動には一定の時間が必要なため、メーカーはこの時間を利用して、ブランドの起動画面をカネの儲かる広告に「アップデート」しているのだとか。
中国国外製を選べばいい
「広告のないのが欲しい?(中国)国産ブランドを選ばなければいいよ!」と、Samsungのブースでは販売員が話しながら起動させ、2秒で放送画面が開かれたといいます。
北京日報記者は、SONYと東芝のスマートテレビには起動広告がないと気づいたとのこと。ただしこれらのブランドはいずれも比較的高価で、どれも4,000元以上だと指摘。
価格引き下げの側面も
中国ブランドから言えば、起動広告は確かに少なからず製品の販売価格を押し下げていると指摘します。「もともと1台55インチの売れ筋テレビは、通常なら1万元もするところだけど、今は2000~3000元で手に入る」とは、ある販売員の分析。スマートテレビの価格が下がり続けているのは技術の交代の結果でもある一方で、メーカーが起動広告の収入で価格を補っているのもあると指摘します。
奥維雲網が提供している「2018年中国カラーテレビ市場年度総括報告」によると、2018年中国カラーテレビ市場の小売平均価格は3,121円、前年同期比9%の減少。今年「6.18」商戦でもカラーテレビ価格は歴史最低を行進し、全体の価格帯も2,000元以下の線へと傾き、この価格帯の市場シェアは7.9%増加したとのこと。
メーカーごとの広告消去法の違い
多くのスマートテレビ売場で、販売員はいずれも自発的にはスマートテレビに広告がついてくる情報を出してくることはなく、記者の方から質問したときのみ簡単に紹介されるとのこと。これらの広告は消すことができるのか?メーカーによって答えは異なるようです。
なお、同販売員によると、長虹ブランドのテレビには「売場モード」があり、基本的に2, 3カ月は広告がない状態を維持できるそうです。
実は消去不能なメーカーも
しかし販売店が言う広告を閉じる方法を、ユーザーはほとんど知らないとのこと。記者が十数名のスマートテレビユーザーに尋ねたところ、いずれも「試してみたけれども広告を閉じることができない」との回答。
記者はここでテレビメーカーに問合せたところ、あるスマートテレビブランドのサービスセンターは、直接「広告は消せません」と答えたといいます。
小米テレビのヘビーユーザー賈寧によれば、小米テレビの起動広告は「なし」から「あり」まである、今は毎年249元のVIP会員にならないと広告を消せない、とのこと。
広告に反発も
価格の下落は消費者にとって嬉しいものの、迪顕信息諮詢総経理崔吉龍の見立てでは、テレビ市場の低価格競争と起動広告は悪性エコシステムをもたらす、といいます。メーカーが価格戦争をはじめると、売れ筋製品が原価割れを引き起こし、起動広告に頼るしかなくなる、しかし頻度があまりにも高い広告はユーザーの反感を買う、と指摘。
一部の消費者は「起動広告が消費者の利益になる」という論法に反対しています。5819元出して海信のテレビを買った夏怡は、高いお金を出して買ったのにそれでも起動広告から逃げられない、番組放送中にも広告を挟んでくる、リモコンで取り消さなければずっと広告が流れる、と不満を述べているとか。
「スマートテレビはインターネット経済の産物であり、起動広告を流すのには合理性がある」と主張するのは、中国政法大学伝播法研究センター副主任朱巍。彼の見方では、ユーザーが購入しているのはスマートテレビのハードウェアにとどまらず、ソフトウェア・サービスに頼ってお金を稼ぐ端末設備を購入しているのだ。しかし、メーカーがユーザーの知らない状況で無理やり広告を加えるのは、ユーザーの選択権を侵犯していることになり、テレビを購入する際にユーザーがもし何も知らされていないのなら、知る権利が侵犯されていることになる、とのこと。
選択権確保を定める工信部20号令
また、国務院工業和信息化部「20号令」の規定によると、インターネット情報サービス提供者がユーザーの端末に広告或いはその他端末ソフトウェア機能と無関係な情報ウィンドウを表示させる場合、表示方式によってユーザーに「閉じる」或いは「ウィンドウを退出する」機能を表示させなければならないとしているといいます。「テレビメーカーにも同様にユーザーへ起動広告の存在を知らせる義務があり、さらにユーザーが費用を支払って広告を削除する選択肢を実装することもできるが、ユーザーには選択の権利を与えなければならない」と、前出副主任。
さらに、「各テレビメーカーの決算報告において広告業務はいずれも大幅に成長しており、メーカーが自発的に広告を取り消すことは臨み難いだろう。消費者の側から関係する協会や管理期間に共同で、起動広告を閉じることができない現状を改善するために働きかけなければならない」としつつ、「スマートテレビメーカーは製品紹介の目に付きやすい位置に起動広告の時間と内容を表示し、ユーザーが起動広告を見るか閉じるかの選択ができるようにしなければならない。メーカーは広告のあるものとないもの、2種類のテレビを出してユーザーに選択させることもできる」と提案したといいます。
総評
以上、中国の「スマートテレビ」で発生している「消したくても消せない広告」問題でした。「広告はうざいけど、その分価格を押し下げている」というのは、なんとも痛し痒しなところで、悩ましいです。
それにしてもシャープ、しれっと「中国国内ブランド」枠に入れられていますが、「30秒にも及ぶ広告がポップアップ表示」、「出荷時期によって、広告があるテレビもあれば、広告のないのもある」、「広告がなかったとしても、10秒ほどシャープロゴの起動画面が表示される」といった仕様、「向こうの人になってしまったんだな」と感じました。日本で販売されるモデルに中国仕様要素ぶち込んで値下げしては、と思いましたが、よく考えると日本のテレビユーザーはあまりインターネットに接続しないので、広告表示できませんね。
- 情報元北京日報