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コラム:言葉を奪わせるな

 ロシアは2022年2月24日、ウクライナに対する侵略戦争を開始しました。

 ロシア軍は部隊識別の一つとして「Z」を用いており、ロシア国内ではロシア軍を支持応援する文脈でZを掲揚する場面が散見されるようになりました。

 これを受けてスイスの保険大手チューリッヒは、Zをあしらった企業ロゴの使用を取りやめる動きに出ており、チューリッヒ日本法人もこれに追従しています。

 国際法、国連憲章を無視したプーチン政権下のロシアによる侵略戦争は言語道断であり、筆者は1mmたりとも支持しません。ロシア軍の即時撤兵による停戦を願っています。

 しかしながら、「Zの使用を取りやめる」という動きにも断固として反対します。これは我々にとって、大切な言葉を失うのと同義だからです。

 戦後の日本の復興と経済成長を支えたのはモノづくりでした。「アルファベット最後のZより後はない、究極」。家電や自動車、とりわけ「旗艦」製品ほどZを付ける慣わし(ならわし)があります。日産フェアレディZ、スバルBRZ、カワサキZ、Nikon Z、VAIO Z。読者の皆さんがよく知るところではXperia Z、外国製品ならたとえばGalaxy Z Foldでしょうか。

 Zの名を冠する、数々の製品に込められた開発者の情熱。そうした製品に、Zを含んだ製品名・ブランドに、筆者は格別の強い愛着があります。その意味を突如現れた無法者に上書きされることは全く許容できません。他にも会社名やアニメのタイトル、アイドルグループの名前などでもZが使われ、そこに人々は各々の思い入れを持っています。

 歴史を辿ればどうでしょう。「皇国の興廃、この一戦にあり」。これは日露戦争の日本海海戦において日本海軍の連合艦隊司令長官の東郷平八郎が、旗艦三笠に掲げた「Z旗」に当てた信号文です。アルファベット最後の文字Zに、後がない絶対に負けられぬ決戦との意味を込め、連合艦隊はバルチック艦隊を打ち破り、ロシアを敗北に導きました。私たちがよく耳にする「Z旗を掲げる」という慣用句もここから生まれました。

 そもそもキリル文字、ロシア語アルファベットにZはありません。私たちにとってしばしば大事な意味を持ち、多様な場面で使われてきた文字を「ロシア軍への応援と取られかねない」などと一方的に封じる企業は、無知無教養で言葉に無頓着であると喧伝するようなものです。

 ロシア軍にとってZは部隊を識別するための、ただの印の一つに過ぎません。他にも海軍歩兵はV、特殊部隊はA、カディロフツィはX、ベラルーシからの部隊はOといった具合に割り当てられているものと見られます。一旦こういう不毛な言葉狩りを始めてしまえば、他の言葉も私たちは次々に失ってしまう可能性があるのです。

 言葉を大切に使い、奪わせない。それがささやかな抵抗になるのではないでしょうか。

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