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超党派がAI開発ロードマップ提示、超知能禁止も明記

 バノンもライスも署名した異例のAI宣言。

 2026年3月上旬、AIの規制をめぐって米国の方針がいまだ定まらないなか、「Pro-Human AI Declaration」が公表されました。中心人物は、MITの物理学者でFuture of Life Institute創設者兼ChairのMax Tegmark氏ら。

 文書が問うのは、技術の進歩そのものではなく、その進歩が誰のためにあるのかです。AIは人間に仕える道具なのか、それとも人間を押しのける主役なのか。その分かれ道を突きつけています。

 宣言は5つの柱に整理された33の原則で構成されます。全体を貫く構図は明快で、ひとつはAIが人間を創作者、助言者、ケアの担い手、意思決定者の座から徐々に追い落とす「race to replace」の道。もうひとつは、信頼でき制御可能なAIが人間の能力を拡張する道です。宣言は後者を選び取り、そのための政治的な骨組みを打ち出しました。

 この文書は一夜で生まれたわけではありません。準備は数か月に及び、マンハッタンでの前段会合も経たうえで、2026年1月にニューオーリンズで約90人規模の非公開会合を開いています。

 そこで意図的に外したのが、大手AI企業でした。企業の資金力や発言力が議論をのみ込む構図を避け、市民社会、労働、教育、家族、宗教、権利擁護の側からAIを見直す場としています。技術業界の自己弁明ではなく、技術に振り回される側からの逆襲という性格が、この宣言を決定づけました。

 第1の柱は「人間を主導権の座に残す」こと。人間がAIへの委任範囲を決め、強力なAIには停止機構を備え、高度に自律的なシステムには事前審査と独立監督を課す内容が並びます。超知能についても無条件の容認ではなく、安全かつ制御可能に実装できるという広い科学的合意と強い社会的支持が整うまで開発を禁じるべきだとしています。自己複製や自律的自己改善、停止への抵抗、大量破壊兵器の制御を可能とするシステムも禁止対象です。

 宣言がとりわけ切実なのは、子どもと日常生活の領域です。家族や友人、地域共同体、信仰共同体といった関係をAIが置き換えるべきではないと本文は明言しています。子どもに情緒的な依存を生ませたり、成長に必要な経験を奪ったりする仕組みも拒否。そのうえでチャットボット全般に対し配備前の安全試験を求めており、自殺念慮の増加や精神状態の悪化、急性危機の深刻化などを医薬品と同じ手続きで事前に確かめよという考え方です。Tegmark氏が薬の規制を引き合いに出したのも、この文脈でのことでした。

 第4・第5の柱は権利と責任の話へ踏み込みます。AIに法的人格を与えないこと、AI生成物やAI自身の正体表示を求めること、訓練データや推論結果まで含む削除権をデータ権として認めること、心理状態に関するデータの悪用を許さないこと。

 開発者と運用者は欠陥、能力の誇張、不十分な安全対策について責任を負うべきであり、AIが損害賠償の盾になることも認めません。子どもを狙った禁止システムに責任を持つ幹部や、壊滅的被害を引き起こしたケースには刑事罰も視野に入れています。

 署名の顔ぶれは、組織ではAFL-CIO Tech Institute、American Federation of Teachers、The Congress of Christian Leaders、G20 Interfaith Forum Association、SAG-AFTRAなどが名を連ねています。個人ではSteve Bannon氏、Susan Rice氏、Yoshua Bengio氏、Stuart Russell氏、Ralph Nader氏、Meredith Whittaker氏、Randi Weingarten氏、Richard Branson氏ら。右と左、労働と宗教、研究者と活動家という普段は交わりにくい線が、一枚の文書の上で交差しています。

 公開のタイミングは、TechCrunchによれば、宣言自体はPentagonとAnthropicの対立が表面化する前にほぼまとまっていたとのことです。Anthropicは2月27日にHegseth国防長官が同社を「サプライチェーンリスク」に指定するよう指示したと発表し、3月4日にはそれを確認する書簡を受け取ったと説明しました。Reutersは3月5日に正式指定が即時発効したと伝えています。その間にOpenAIが国防総省との独自合意を急いで公表する動きもありました。だからこの宣言は、抽象的な理念集に見えて、実際には軍事、監視、企業権力、そして統治不在への警告として読めるのです。

 この宣言の意義は、人間が主導権を失いたくないという、もっと原始的で広い同意を政治の言葉に翻訳したところにあると言えそうです。

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