携帯キャリアが実施する「通信の最適化」について、適法性ロジックは昨日書いたとおり。
今回はSoftBankの例から考えていきます。
SoftBankの「通信の最適化」についての説明は、サポートセンターは拒否。さらに店頭でもほとんどの場合、「通信の最適化」実施を示唆する文言を含んだ約款の末尾にサインを求める、包括的なもの。
昨日の記事は「通信の最適化」が 「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」の従うものとの指摘であり、同ガイドラインはこのような包括的な同意を認めず、「個別かつ明確な同意」を求めています。このため、「通信の最適化」はユーザーの同意を得ているとは言えません。帯域制御は憲法と電気通信事業法で保障された「通信の秘密」を侵害しており、ユーザーの同意を得ない場合は違法です。
ただし違法性阻却事由として、同ガイドラインには「正当業務行為」を定めています。この線でいけば、事業者がユーザー同意を得なくても適法となります。これも昨日の記事で指摘したとおり。
engadget日本版がSoftBank広報に確認した回答によれば、やはりSoftBankは同ガイドラインをもとに「通信の最適化」を実施しており、「正当業務行為」を主張する線で違法性阻却を狙っていることがわかります。
なお、最適化については、
①目的が、ご利用者間の公平、電気通信役務の円滑な提供にあること、
②そのためにはネットワークに負荷をかける種別のデータに対し最適化処理を施す必要があること、
③最適化の範囲も最適化前のデータと遜色ない範囲にとどまることから、
最適化は正当業務行為に該当すると考えております。
この番号には意味があります。同ガイドラインの「違法性阻却(正当業務行為)」についての記述に対応したものだからです。3要件を満たすことで違法性阻却事由が成立し、ユーザー同意の不十分なSoftBankの「通信の最適化」が、適法となるのです。
ア)正当業務行為の考え方
● 刑法
第三十五条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
帯域制御の実施が ISP 等の正当業務行為として認められるためには、一般
的には、①帯域制御を実施する目的が ISP 等の業務内容に照らして正当なものであること(目的の正当性)、②当該目的のために帯域制御を行う必要性
があること(行為の必要性)、③帯域制御の方法等が相当なものであること
(手段の相当性)といった要件を満たすことが必要と解される。
これも昨日の指摘と同じものになりますが、問題は3です。同ガイドラインの帯域制御は、P2Pや未成年フィルタリングサービスを想定しています。総転送量制限や見れないページがあるといった制御が許容されています。しかし、携帯キャリアの「通信の最適化」は、画像や動画のデータが非可逆圧縮形式で事実上の改ざんが行われるという前代未聞のもの。※
SoftBankは「最適化の範囲も最適化前のデータと遜色ない範囲にとどまる」と主張していますが、本当でしょうか?
一時的に通信の最適化をやめたって、新たな証拠が出てこないだけで過去の証拠はありますからね。こっちも1年ずっとソフトバンク回線で見てきたんだから。 pic.twitter.com/g4n2Hmww6p
— HTC J Kakifly™ (@petun01a) 2015, 7月 8
さらにExif情報も削除されます。
そうそう、これ困るのよ… ダウンロードの時だけじゃなくて、アップロード時もしてるっぽくてフォトコンテストの時に苦労した…EXIFが消えてるんだもの…審査できないよ…… ≫スマホゲームの不具合、原因はソフトバンクの画像圧縮 http://t.co/j7xWjPqh8V
— へんじがない ただのしかばねのようだ (@CABed) 2015, 6月 21
ダウンロードの時にExif削っているかどうかを知りたいですね。Exifには著作権者情報が入っているので、これを削ると、氏名表示権の侵害と言う問題も出てきます。 > RT
— MAEDA Katsuyuki (@keikuma) 2015, 6月 21
こんなものが本当に相当性のある手段と言えるのでしょうか?
ところが、この「通信の最適化」が話題となり、検証が始まった時、SoftBankは「通信の最適化」の実施を一時的に中断。さらにExif情報の削除については「現時点では行って」いないと明確に表明。
@ranocchio_azz 失礼します、SBCare大滝です。返信が遅くなり誠に申し訳ございません。ご質問いただいていたExif情報の件ですが、より多くのお客様に快適にご利用いただくために、Exif情報の削除は現時点では行っておりません。
— カスタマーサービス担当 (@SBCare) 2015, 7月 7
SoftBankの「通信の最適化」の適法性ロジックを突き崩すアキレス腱はここです。もし3要件を満たしておらず「正当業務行為」が成立しないということになれば、同時に「通信の最適化」が違法であるという結論も導かれるからです。
特に著作権情報の削除について、直ちに中止したと思われる点は見逃すべきではないでしょう。「正当業務行為」の3要件のうち、「手段の相当性」について、非可逆圧縮が著作権、同一性保持権およびその他の観点から適法性を欠くことを明らかにすれば、SoftBankの「通信の最適化」は正当業務行為ではない=通信の秘密の侵害により違法ということになります。(詳しい方、誰か他の観点から『手段の相当性』を満たさないことを論じてくださると助かります。もし論じた記事をどこかに公開した場合はURLを教えていただければ紹介します。寄稿についても対応します)
違法性阻却事由が成立しないので、ガイドライン上に定められたユーザーへの「個別かつ明確な同意」が必要になります。これはメール等で個別に説明を行い同意を得るようなものを規定しており、今までのような雑で包括的なものは認められません。解除不能というのも論外です。かつてWILLCOMが実施していたような、適法な形で通信制御が実施されることを望みます。
※前代未聞なのは、ユーザー同意不要の「正当業務行為」を主張している点。DDIポケット、WILLCOMは同様の圧縮を行っていたが、それは当時の低速な通信事情の中で、少しでも高速に通信したいユーザーのニーズがあった。当時有料の高速化サービスとして提供されていたが、説明なく勝手に自動適用ということは当然ありえず、ユーザー自身が任意で加入、喜んで同意していた点が決定的に異なる。