菅義偉官房長官は、本日の記者会見にて、日本経済新聞記者からの質問に答える形で、携帯電話利用料についての認識を示しました。
日本経済新聞:先日、官房長官の携帯電話利用料についての発言についてお伺いします。まず日本経済新聞の世論調査で、携帯電話料金を高いと答えた人は65%。妥当の24%を大きく上回りましたが、まずこれについてお願いします。
菅義偉官房長官:まずこの携帯電話については、公共の電波を利用し提供されております。そういう中にあって料金が不透明、諸外国と比べても高いという指摘があります。そうしたことが一つの表れではないかなと思います。
こうしたことを解決するために、総務省を中心に、公正取引委員会とも連携をしながら、2年縛りや4年縛り、SIMロックと言った様々な取引慣行や接続料のあり方、中古端末の流通促進、中古端末が流通しない国は日本だけだとかも言われています。
そうした多岐に渡る課題について、スピード感を持って検討、対応していきたいと思います。
こうした取り組みによって、携帯電話市場の競争を、一層促進をして、利用者の皆さんにとってわかりやすく、納得のできる料金サービスの実現、これをしっかり取り組んでいく必要があるという風に考えております。
かなり穏当な認識を示した形となります。あくまで競争によって値下げさせる、資本主義国としての原則を確認しました。そして日経記者が肝心の「4割値下げ」について質問。
日本経済新聞:官房長官は先月の発言で「4割程度下げる」とご発言されたかと思いますが、なぜ4割なのか、根拠があるんでしたら、それに関してお伺いしたいのですが。
菅義偉官房長官:通信費の国際比較には様々な方法があります。その中でOECDの調査によりますと、我が国の携帯電話料金はOECD加盟国平均の2倍程度であり、他の主要国と比べても高い水準にある、そのように報告を受けております。
また携帯電話事業への参入を新たにしました楽天は、既存事業者の半額程度の料金に設定することを計画して既に公表をされております。
こうしたことを踏まえて、我が国の携帯電話料金についていまよりも今よりも4割程度下げられる余地があるのではないかとの見通しを申し上げたわけであります。
OECD平均というエビデンスが示された形となります。
ただOECD諸国のネットワーク整備状況と比べて、必ずしも日本のネットワークが劣っているのか、2倍の価格に見合う品質なのかどうか、といった観点を検討する必要はあると思われます。
楽天が半額にすると公言していることを値下げ余地の根拠として挙げているのは好感ですね。というのも「半額にすると言っている楽天が参入すれば、他の会社も近いぐらい下げられるのではないか『という見通し』」と、発言を一歩トーンダウンさせた形とも解釈できるからです。
安価なサービスが提供されるよう自由競争のための環境整備をするのが資本主義国の政府の仕事であって、最終価格までをも政府が決定するのは社会主義国だけで十分です。当然の軌道修正といったところではないでしょうか。
国策という観点だと、2020年以降の情報通信社会の実現に向けた次世代技術5Gを、携帯キャリアが担うという点も重要です。より高額のネットワーク整備コストを必要とするため、あまり携帯キャリアの利益を料金値下げに回させすぎることが悪影響が出る可能性がないか、注意しなければなりません。
携帯キャリア主導の歪んだ垂直統合によって、通信料を端末開発費や販促費に回し、メーカーに護送船団方式で端末を作らせるという開発独裁的な試みは、競争力のない製品を延々と作らされ続けた日本メーカーが疲弊するだけに終わりました。総務省はこの失策の修正として、端末代と通信料の分離を行いました。当時のメディアは「官製不況」などと揶揄してきましたが、むしろ、獅子が我が子を千尋の谷へ突き落とすかのごとく、もっとドラスティックに改革を行うべきだったでしょう。
キャリアが端末販売を握り続けてきたことで料金プランの複雑さを始めとする様々な弊害が生まれてきました。国内メーカーのガラケーからスマートフォンへのシフトや海外展開は軒並み失敗、大きな禍根を残しました。現在、その体制は完全には解体されずに堅持され、国内メーカーに向いていたカネが米国企業Appleの製品の安売りに、そして今度は日本進出に躍起の中国企業へと回ろうとしています。
そしてWILLCOMやイーアクセスの電波を分捕るSoftBankの企みを阻止できず、国内3社寡占に陥らせたこと。これらの責任はキャリアを甘やかし続けてきた総務省にあります。監督官庁が総務省である、これが我が国の電波行政最大の不幸です。携帯料金が高いとすれば失政のツケとしか言いようがありません。
「完全通話定額制」を名目とした、寡占3社の足並み揃えたカルテルまがいの値上げは、幸いにも2015年の首相の携帯値下げ指示以降、野望半ばに挫折し、プランの多様化とSIMロック解除義務化が一応は実現。MVNOという選択肢も現実的となりました。
今、我が国が国策として為すべきことは「競争原理がろくに働かない寡占市場への、第4のMNOの新規参入を成功させること」「既存MNOによる不透明な接続料算定を是正するなど、MVNOを強くすること」そして「5Gシフトが失敗しないようにすること」です。
これまでメーカー衰退や消費者選択の幅を狭めるといった多大な犠牲を長らく強いてまでもキャリア主導を容認、そしてそのキャリア主導がようやく意味を持ち得る時代の転換点において、「4割値下げ」でまた失敗しましたとなれば、一体この国は何がしたかったのか?との批判は免れないでしょう。しっかりとした展望を持って電波行政を監督する必要があります。
ユーザーはどうすべきか。携帯3社はボッタクリ、高い、ならばMVNO・MNOのサブブランド・そして楽天へと乗り換えましょう。多様な選択肢と競争こそが値下げに繋がります。乗り換えたいけどキャリアの囲い込みによって乗り換えにくい、という声はどんどん上げるべきですが、乗り換えるつもりが全くない人のために過度に値下げが行われることは、競争の鈍化に繋がることに留意する必要があるでしょう。
さて、それはそれとして、そもそも携帯値下げ指示の本義は「家計負担軽減による景気対策」なのですから、政府は携帯ではなく、自動車関連諸税の減税や、それこそOECD諸国のデータを見ても真ん中、先進国の中でも低い「労働者の賃金」を上げることによって、実現すべきなのではと思う次第です。