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「日本市場は廃課金天国」。中華ゲームの海外展開論評

 Twitterで表示されるゲーム広告は「中華ゲーム」ばかり、というのは今に始まったことではありませんが、最近はJR山手線に「原神」ラッピング電車が登場するなど、中華ゲームの日本での存在感がより一層増していると感じます。

 中華ゲームが海外進出を始めたきっかけ、成功要因、各国市場の特徴など、中国「経済観察報」の記事をもとにお伝えします。

きっかけはゲーム発売許可の「総量規制」

 中華ゲームの海外進出はここ4, 5年のホットな話題で、代表作品に莉莉糸(リリス)の「万国覚醒」、テンセント「PUBGMobile」、米哈遊「原神」などがあります。

 分水嶺となったのは2018年、ゲームの発売許可番号の発給が初めて絞られたことが、中国ゲームメーカーの海外進出を促進したといいます。

 ここで補足説明をしますと、中国では出版物・映像やゲームなどの作品は政府から昔の日本でいう「検閲許可」がおりないと公開できないわけですが、事業者からすれば「許可番号」が出れば公開できるので、このような表現がされています。ゲームについては、ネトゲ廃人が社会問題になったりで、「許可番号」の発給総量規制政策がちょくちょくとられているところです。

 SensorTowerアジア太平洋地区営業部長兼戦略アナリスト・蘆楠によると、2018年より以前は少数の中小メーカーが海外市場を主目標とし、大手メーカーも参入はしていたものの、主に国内プロジェクトのテストとして海外でリリースしていたのに対し、今では大手も海外市場を主なターゲットとしてプロジェクトを立ち上げているのだとか。

 今年、発売許可番号の発給が再度制限されたことで、ゲームメーカーは次々と海外戦略を展開していますが、海外展開サービス事業者「ENJOY出海」CEO金翔によると、米国、日本などの主流市場は競争が厳しいため、中東、ラテンアメリカを重点市場に位置付けているところもある様子。

単独作品で月間売上1億ドルも視野

 この5年間の中華ゲーム海外展開の戦況を見てみましょう。

 SensorTowerのデータによれば、中華ゲームは2018年以降大きく成長を始め、海外展開した中華スマホゲームのうち売上1億ドルを突破したタイトル数は、2019年12作品、2020年37作品、2021年には42作品となりました。

 2016年IGG「王国紀元」がSLG海外展開の道を開き、その後、2018年9月に莉莉糸のリリースした文明(シヴィライゼーション)テーマゲーム「万国覚醒」がSLG海外展開の起爆剤に。

万国覚醒

 2017年11月リリースのネットイース「荒野行動」、2018年3月にテンセントがリリースした「PUBG MOBILE」もそれぞれ大ヒットし、PUBG MOBILEは中国スマホゲームの海外売上高ランキングで2年連続首位に。

 続いて、米哈遊傘下の「原神」が2020年9月のベータ版リリース以来、世界各地の市場を席捲することになります。

 前出蘆楠によると、中華スマホゲーの海外展開は単独作品の月間売上1億ドル突破も視野に入ってきており、トップ5作品は4000万ドル以上で安定、TOP30作品入りの目安は月間売上1200万ドルになっているとのこと。

市場の空白にこそ勝機

 蘆楠は、「その時々で違ったヒットが生まれるが、誰がライバルの手にしていない市場を掴むかにかかっている」といいます。例えば、「万国覚醒」。シヴィライゼーションものはずっとPCゲームがあったところ、西側諸国のゲームメーカーはスマホゲームに手を付けておらず、これが中華ゲームによる成功の原因になったとか。

 中華スマホゲーム海外売上ランキング首位の常連になっている「原神」の最大特徴は、一級線のハードゲーム品質でありながら、無料でユーザーに開放している点。西側諸国の常識として、数十ドルで買うのが当たり前なクオリティのゲームが無料で遊べることが、欧米のメディアとユーザーに衝撃を与えたのだといいます。

 蘆楠によれば、「原神」は全世界のスマホゲーム業界にとってメルマーク的な存在であり、新機軸を切り開いたという点でも、ゲーム業界に大きな啓発を与えたと指摘。PC、モバイル、ハードを同時展開した初のゲームであり、また、リリース戦略としては、ある程度市場を開拓してから米国、日韓といった成熟した市場を攻略した例でもあります。

「攻めにくく守りやすい」日本市場

 蘆楠は、「韓国ユーザーの消費速度は非常に速く、ほかの市場のユーザーが1年で遊ぶ内容を、韓国ユーザーは3カ月で消耗してしまう」といいます。韓国ユーザーはいろんなゲームを試すので、韓国市場は参入が容易な一方で、如何にユーザーを長期にわたって繋ぎ止めるかが難しいのだとか。

 一方で、韓国メーカーは国内市場で非常に同質化しており、どれもヘビーなMMORPGを提供。韓国市場にいくら新タイトルがリリースされようとも、この市場でトップにいるのはずっとトップクラスの人気IPゲーム。韓国ユーザーにとって新作品は消耗品であり、簡単に試しては見るものの、いくつかの有名スマホゲームに長期課金するスタイルなのだといいます。

 一方の日本市場。「日本ユーザーは忠誠心が強く、ゲームへの課金に太っ腹で、ゲームのクオリティとサービスに満足し、コンテンツに更新があればおカネを出して支持する」とのこと。日本市場はRPGと二次元ゲームが主であるものの、最も「パクリ」を嫌う市場であり、長期にわたる観察でも、日本市場のTOP20はほぼ同質化した作品が見られないといいます。

 よって、日本市場では個性的な作品が成功しても、その二番煎じは基本的に当たらないと指摘します。「これはネットイースの『荒野行動』(有名なPUBGクローン)が日本で成功した後、同じジャンルのレーシングゲームメーカーが日本でどれもダメな主な原因でもある。日本市場は攻めるに難く守るに易い、現地ユーザーは長期にわたって同時に複数のゲームをプレイし、好きなゲームにどんどん課金するので、競争防壁を作るのに向いている市場だ」とか。

 日本と米国は海外ゲーム市場の2大市場という位置づけ。米国を主とした欧米市場は、ゲームジャンルが多様で、大型戦術ゲーム、パズルゲー、積みゲー、シミュレーションゲーム、スロットゲームなど、様々なジャンルのゲーム、どれも米国市場である程度は当たるのだといいます。

「コロナ禍の終わり」と「世界的インフレ」が不安要素か?

 蘆楠の見立ててでは、海外展開でのチャンスは中国国内市場よりも大きく、許可番号総量規制と人口ボーナスといった国内市場の直面している問題から解放される上に、中国国内市場は少数の大型プラットフォームにアクセス数が集中しているため、販売コストも非常に高いのだとか。

 過去数年、中国中小メーカーは国内でほとんど参入チャンスがなかったといいます今年前半8カ月での中国iOSスマホゲーム市場の売上高は64億ドルだったのに対し、海外市場はユーザー課金額規模だけでも国内の7倍であり、多くのメーカーに新たな展開と創意工夫の空間を提供していると指摘します。

 他方、2020年から2021年上半期は、コロナ禍がオンラインエンターテイメント業界にとって大きなボーナスをもたらしたともいいます。成長はすでに頭打ちになりつつあり、海外での開放政策により多くのユーザーの生活は正常へと戻りつつあり、ユーザーの娯楽に消費する時間も減少しているのに加えて、世界的なインフレのなか、ユーザーの消費も生活必需品へとまわりつつあり、娯楽製品へのおカネのまわりも悪くなりそうなところ。これも、ゲーム海外展開のうえで避けては通れない現状といいます。

総評

「既存メーカーがPCゲームしか手を付けてこなかった」「ハイクオリティでの力押し」など、成功の要因は様々ですが、「中国国内市場は検閲に総量規制がかかっていて発売できない……よし、海外向けに作って売ろう」、きっかけは実に単純ですね。

 「日本のユーザーは忠誠心が強い」は、「そうなのか」と少し驚き。「日本市場の方が単価が高いから、中国スマホゲーメーカーにとって魅力的」とは聞いたことがあるのですが、単純に中国より物価が高いというだけではなく、廃課金者が多いのでユーザー単価が高いということだったのですね。

 なお筆者は中国のゲームメーカーから「日本でゲームをリリースしたいので検閲許可申請手続きをお願いしたい」という相談をされることが度々ありますが、そのたびに「そんな制度、主要国では中国くらいしかねえよ」とどう伝えるか悩みます。

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