アンドロイドスマートフォンのフラッグシップモデルといえば、サムスンのGALAXY S シリーズだ。GALAXY S、GALAXY S II、GALAXY S III アンドロイドを代表するスマートフォンを作り、高い評価とヒットを飛ばしてきた。
近日の発表が期待される GALAXY S IV (以下、S IV)だが、なにやら S IV の雲行きが怪しくなりつつある。
Exynos 5 Octa の受難
サムスンのスマートフォンといえば、自社が製造するモバイル向けチップセット Exynos を採用しているのが特徴だ。既報の通り S IV には、サムスンの最新チップセット Exynos 5 Octa が搭載されると予想されていた。同社のスマートフォンは主に Exynos の最新のチップセットを搭載し、高いパフォーマンスを得ていたからである。
しかし、先日流出した情報では、チップセットは Exynos ではなく、QUALCOMM 製の Snapdragon S600 に変わっていた。実はこの仕様変更は一部では予想されていた。
製造が難しく、巨大なチップセット
Exynos 5 Octa は名前からもわかるようにオクタコア(8コア)のチップセットである。そのうち4コアは Cortex-A7 残りの4つが Cortex A15 を採用する、ヘテロジニアス(異種混合)コアである。
これは、ARM が提唱する big.LITTLE に沿う設計で、高いパフォーマンスを必要としない作業をCortex-A7で、高いパフォーマンスが必要となる作業をCortex-A15に処理をさせ、適した処理に適したCPUを利用することで、消費電力を低下させることが狙いである。
しかし、ARM はこれをそれぞれ2コアずつで行うように(合計4コア)設計しており、サムスンが設計したそれぞれ4コア(合計8コア)というのはいささかダイナミックなものになっている。
big.LITTLE処理 – ARM ホワイトペーパー より引用
コアの数はダイサイズに直結する。ダイサイズの肥大化は消費電力の増加や製造コストにつながり、回路が複雑になればなるほど、歩留まりは悪くなる。そうなるとチップの単価が上がる。
消費電力や製造コストの増加は、スマートフォンにとって致命的な問題だ。電池が持たなければ、スマートフォンはただの文鎮であるし、製造コストの増加はそもそも手にとってもらえる機会を少なくしてしまう。
Exynos 5 Octa の製造にサムスンは相当手こずっているというのが、もっぱらの噂だ。搭載するチップセットが変われば当然、筐体のデザインや廃熱構造などを再設計する必要が出てくる。
フルHD有機ELディスプレイの難産
画像引用元:Samsung to introduce 4.99″ 1080p Super AMOLED display at CES 2013?
GALAXY S シリーズのもう一つの象徴は同社が製造する有機ELディスプレイを搭載していることだ。賛否は分かれるところだが、有機ELディスプレイの鮮やかな発色と高いコントラスト比を好むユーザも多い。
昨今のスマートフォンのトレンドにフルHD解像度がある。解像度の高いディスプレイでは精細感が増し、非常に緻密な画像の描写をすることが可能だ。iPhone 4の Retina ディスプレイを初めて見たときは、目を見張る精細感に驚きを禁じ得なかった。
今までスペックの先端を行っていた GALAXY S シリーズがフルHDのディスプレイを採用しない理由はない。むしろ、妥協してしまえば、とたんに GALAXY S シリーズはフラッグシップの座から滑り落ちてしまう。
サムスンがフルHD解像度の有機ELディスプレイを開発していることはすでに知られているが、それが量産できるのかということに多くの疑問の声が上がっていた。その疑問が的中したのか、フルHDの有機ELディスプレイの搭載を見送り、液晶ディスプレイを搭載するという説が濃厚になっている。
フルHD解像度の有機ELディスプレイの搭載が見送られたのは、製造コストと歩留まり、つまりはExynos 5 Octa とほぼ共通した理由である。
有機ELは有機化合物を利用し、素子が直接発光しているため発色や輝度といったディスプレイの品質や、ディスプレイの寿命(素子の寿命)が有機化合物の品質に依存する。フルHD解像度を実現する有機化合物や、製造方法が確立されているのか、疑問の声がかねてから上がっていた。
自社製部品への強いこだわり
サムスンは同社の象徴となりつつある、GALAXY シリーズ、とりわけフラッグシップモデルである GALAXY S シリーズには自社製の部品を採用することに強くこだわっている。
たとえば、GALAXY S III (GT-I9300)では CPU、GPU、RAM、内蔵フラッシュメモリ、ディスプレイ、イメージプロセッサといったスマートフォンを構成する主要な部品のすべてを自社でまかなっている。
ここまで、スマートフォンの部品を自社でまかなうことができるのは、おそらくサムスン一社のみだろう。多くのメーカーは、チップセットやディスプレイを外部のメーカーから購入している。
すなわち、サムスンは自社で部品を出来るだけ製造し、それを最新のスマートフォンに搭載することにより、スマートフォン市場で先頭を走り続け、不動の地位を築き上げたのだ。
しかし、流出したデータでは、チップセットはクアルコムの Snapdragon であるし、GALAXY S シリーズのハイエンドモデルにおいて史上初の液晶ディスプレイを搭載することとなっている。
(なお、サムスンは液晶ディスプレイにおいても高い技術力を持っているが、モバイル向けのディスプレイはLGやJDIが一歩先を行く形となっている)
追記:GALAXY S シリーズを冠するモデルの一部に液晶ディスプレイを搭載している製品があるというご指摘をうけました。今回はあくまでもGALAXY S シリーズのなかでも特にフラッグシップモデルについての言及を行っておりました。誤解を招く表現をしていまい、誠に申し訳ございません。
これは、今まで自社製部品に執着してきたサムスンからすれば、許しがたいことに見える。
新しいGALAXYの幕開け?
以上、今回の GALAXY S IV から読み取れる様々な事柄をまとめた。もちろん流出した情報が正確であるとは言えないし、サムスンは何らかの技術革新を持って懸念材料を払拭し、期待されているスペックのスマートフォンを投入してくるかもしれない。
ただ、ここに来て、そもそも論なのだが、そもそもスマートフォンにオクタコア(Exynos 5 OctaをオクタコアCPUと呼んでいいのかの賛否は分かれているが)が必要であるのか、フルHDディスプレイが必要であるのか、筆者は若干の疑問を抱いている。
しかし、GALAXY S シリーズはアンドロイドスマートフォン市場で常に最先端の性能を持ち合わせてきた。とりあえずハイスペックのスマートフォンといえばGALAXY S シリーズであった。その構図が崩れてしまうのはいささか悲しい。
皮肉なことに、自社製の部品が使えないことにより、次なる GALAXY S は今までの GALAXY S シリーズとはひと味違ったものになっているのかもしれない。