かつては家電メーカーといえば国産、日本メーカー!……という時代もありましたが、まず三洋電機がなくなり、その後もエンタメと金融ばかり元気なソニー、重電メインの三菱電機、日立、台湾系企業になったシャープ、事業を売却しすぎてもはや何屋さんなのかよくわからない東芝と、今ではエレクトロニクス中心でやっている国内主要メーカーはパナソニックだけとなってしまいました。
日本家電メーカー最後の砦というべきパナソニックですが、テスラの電池以外でとんといいニュースを聞かないところ、パナソニックのこれまでと多元化戦略について中国「界面新聞」が論評をだしていたので、ご紹介したいと思います。
ところで、2008年に松下電器産業株式会社からパナソニック株式会社に商号変更していますが、御存知の通り中国では漢字を使うことになっているため、今も「松下」のままになっています。
「パナソニック」を中国語音訳すると「怕拿索尼客(ソニーの客をとるのが怖い)」という意味に聞こえるから、という冗談なのか本当なのかわからない話もありますが、本記事では同社「黄金時代」の社名でもありますし、中国では今でも使用されている「松下」でいきます。
「中国人民の憧れ」も今は昔
日本家電メーカー・松下は、今年8月から段階を分けて家電製品の価格を値上げし、その原因は原材料価格の高騰、円安、供給不足の状況下で半導体とその他部品のコストが上昇したためであり、冷蔵庫、食洗機、電気絨毯など80種類の製品を3%から23%値上げすると発表しました。
ソニー、東芝、シャープといった同時代に発展した日本の家電メーカーのなかでも、松下は家電業務を苦しみながらも維持してきた数少ない企業であるものの、外部環境と多元化戦略という二重の影響により、松下の家電業務利益は縮小を続けており、コロナ禍のなか、この百年の歴史を有する日本家電ブランドは大きな転換期を迎えているといいます。
数十年前、(中国の)人々は家に松下ブランドの家電があることを非常に贅沢なことだと夢見ており、松下は家電の大ブランドとして、あの時代は経済条件がいい家でしか使うことができず、市場での経済的な存在感も非常に大きなものでした。
あの頃の松下電器は、日本製造業の代表としてソニー、シャープらとともに世界の家電市場の覇者として君臨。その後、日本バブル経済崩壊、2008年金融危機、中韓両国家電産業の発展、世界経済市場の様々な変化、市場の多元化を迎えた今日、松下電器の地位は年々加工を続けているといいます。
家電事業の復活に失敗
松下は自身の「家電神話」復活を試みなかったわけではなく、2005年7月15日、日本松下電器は世界最新研究開発の86億発色の新型VIERAプラズマカラーテレビを上海で発表、当時流行していたプラズマテレビ技術に「all in」することの象徴的出来事となりました。
ところが、プラズマディスプレイは最終的に液晶ディスプレイに敗れて失敗、松下電器は2年連続で7000億円を超える巨額赤字を計上することに。
今日、松下の家電は様々な圧力から縮小を続けており、昨年も松下が誇りとしてきたテレビ事業が大幅に縮小され、2021年3月末には松下が長年栃木工場で続けていた有機ELテレビの生産を終了、その原因は生産量が少ない、コスト高による収益悪化。これは松下の日本国内テレビ生産の停止でもありました。
同年4月には、当年度末までにインド、ベトナムでのテレビ生産を終了すると発表、8月にはブラジルでのテレビ生産停止、10月には2022年3月末をもって欧州でのテレビ生産撤退と発表、松下の生産基地はマレーシアと台湾を残すのみとなり、OLEDテレビなどを日本国内市場、利益率の高いハイエンドモデルに絞り、自主生産を維持することになりました。
事実上、テレビをはじめとした松下の家電はとっくに撤退を開始しており、中国国内の「松下」家電の多くはOEM。たとえばテレビは2015年に自社生産を停止しています。中国市場での松下電器の家電シェア率は最盛期の20%から2%にまで下落、主要メーカーから外れているとのこと。
収益が下降を続ける家電業務は松下グループ全体の収益にも影響しており、松下の営業利益率は過去20年間ほとんど5%を下回り、2020年には4%と、ソニー11.1%、日立6.3%、LG5.1%の後塵を拝しています。
様々な苦境を前にして、グループに利益をもたらさない松下の家電業務は「捨てられる」運命から逃れがたいと指摘します。
経営「多元化」はうまくいくか?
松下中国は家電業務に固執し、中国ブランドから市場シェアを奪い取らんとして中国のハイエンド家電市場にターゲットを定めているものの、本体の松下グループは家電業務のリストラを続けているといいます。新任CEOは製造コスト削減のため、シンガポールの冷媒圧縮機製造業務を切り捨てたほか、テレビ業務もミドルレンジ・ローエンドを外注に切り替え、日本、ベトナム、インドでの生産ラインを廃止。
ついに家電業界から経営多元化への道を決心した松下ですが、将来の方向性はまだ明らかではないようです。昨年、松下は米国のソフトウェアメーカーBlue Yonderを71億ドルで買収し、デジタル化への転換をはかるとともに、スマート生活事業部、住建空間事業部、コールドチェーン物流事業部等の事業部門を設立し、産業改革を検討していると発表。
松下電器にはハウジングソリューションズ、オートモーティブシステムズ、エンターテイメント&コミュニケーションズ、コネクトの4大事業会社があり、BtoCからBtoBとBtoCの二刀流への転換を進めているとしており、なかでも松下とテスラの車載電池事業は、この百年ブランド復活の希望をみるものであったといいます。
楽観は難しい?平成以降「ヒット商品なし」
松下は家電一本足打法から変化しているものの、松下の総合戦略がその転換に成功するものかについて、ある業界関係者は「松下の製品は総花的で、長期にわたる製品イノベーションの蓄積も販売チャネル開拓もなく、短期に収益状況を改善することは難しい」と疑問を呈しているそうです。
中国「家電網」主編李稲は、1989年に松下幸之助が亡くなってから、松下は全世界を席捲するようなヒット商品を生み出しておらず、競争力は韓国サムスン電子をはじめとするアジアの他企業に及ばない。本業の収益状況を示す営業利益の最高記録も、VHSテープビデオデッキが売れまくった1984年に記録した5757億円を30年以上更新できないでいると指摘。
ソニー元社長出井伸之はかつて「インターネットは隕石」、まさに地球を支配していた恐竜が隕石衝突による気候変化で滅亡したかのように、インターネットという環境に適応できない企業は衰亡に向うと表現。車載蓄電池等の新領域を迎え、松下という「隕石」の衝撃から幸いにも生き残った「恐竜」が、現下の環境に適応できるかは、観察が必要と記事を結んでいます。
総評
家電事業は撤退戦を続ける中、相変わらず次の方向性がよく見えない、という松下ことパナソニック。
史上最高営業利益が昭和59年、赤白の初代ファミコン発売の年、主力商材はビデオデッキ、なかなか引くものがあります。
筆者は学生の頃、パナソニックのエントリーシートを見てみましたが、「あなたならパナソニックでどのような新事業を立ち上げますか」といった項目があり、「学生に聞くことか?」と呆れたのを思い出しました。