本日、総務省有識者会議にて、携帯料金値下げに関する第4回目の議論が行われました。携帯料金値下げにまつわる一連の議論について、私なりの意見を述べておきます。
キャシュバックは悪か?
今回の議論が、「携帯料金値下げ」というのが端初であるにも関わらず、高市総務大臣によって「不公平感」なる曖昧なものにテーマにすげ替えられているのは理解しかねます。(もちろん受益者負担で適正化するという観点ならわかりますが)
そもそもMNPキャッシュバックは悪なのか?という点です。まず一般論として、余剰利益を新規顧客の開拓に投じるという経営判断は、営利企業として普通のことです。これ自体は批判されるべきことではないというのが前提です。
ただ、それでも、iPhoneの販売競争で一時期見られた「端末代金一括0円・通信料金からも大規模な割引・さらに現金数十万円キャッシュバック」という、いわば常軌を逸した不健全なキャッシュバックには、問題意識を持つのはよくわかります。日本の消費者の通信料を原資に、アメリカ製のiPhoneを現金キャッシュバック付きでばら撒き、最終的にどこに流れ着いて、誰が得をしたかと言えば中国人だったと、そう考えると全く笑えないですからね。
補助金減らして価格抑制という悪手
しかし、だからといってこれを抑制するために「端末販売価格を制限せよ」というのは無理があります。独占禁止法との兼ね合いもあります。「販売代理店への補助金を減額せよ」という案まで出ていますが、既に携帯キャリアは減額済みです。
減らした結果、何が起きたのか?それが総務省有識者会議第二回目でも話題となった、携帯販売現場の悲惨な実態です。補助金が減った分、販売店は自ら利益を稼ぐために、無知な消費者に、不要なオプション・有料コンテンツにレ点方式で加入させたり、microSDなどの関連アクセサリーを異常に高額な値段で、分割払いを組ませて売りつけるようになったのです。
「店への指導を厳格に」などと取ってつけたような案もありますが、一体何を言っているのか、呆れます。健全ではない販売手法を企画し、販売代理店に推奨しているのは他ならぬキャリアです。
この不健全な構造にメスを入れ、改善し、消費者を救済する。そのような心意気を持って総務省が臨むのであれば支持します。しかし、そうではありません。キャリアとの非公開会合を経て、文民大臣が思いつきで、補助金を減額し、結果として販売代理店がスケープゴートになろうとしているのです。補助金の少なくなった販売店は、自力で稼ぐ傾向を強め、今まで以上にレ点商法・高額アクセサリーの押し売りに走らざるを得なくなります。事態は悪化するだけです。構造を抜本的に正すことには賛成ですが、中途半端に弄るなら、弄らない方がマシな部分だと思います。
安売りは消費者の利益でもある
そもそも端末を安く販売することの何がいけないのでしょうか。少なくとも消費者にとっては安売りがあること自体は歓迎すべきことです。携帯キャリアが儲けた莫大な利益を消費者に還元するひとつの場でもあります。
下手な手の加え方をすると、端末買い替えサイクルが急激に冷え込み、国内メーカー含む各端末メーカーが窮地に陥るだけで、経済にとっても消費者にとっても利益になりません。
その上で、前述した通り、異常且つ過剰なキャッシュバックが日常的に見られた時期があったのも事実であり、是正すべきなのは大いにわかります。ではどうすべきか?
本来であれば、SIMロックを一律に禁止すべきだと思います。
SIMロックの害
これまで、携帯キャリアがいくら端末を格安でばら撒きあっても、歯止めが効きませんでした。なぜ歯止めが効かなかったのか?それはSIMロックがあるため、携帯各社で、通信契約を解約したら、他社では使えなかったからです。
しかしSIMロックが無ければ、すぐに他社で利用することが出来てしまいます。自社でばら撒いた端末を、他社で使われてしまうと、キャリアにとっては損です。なので、過剰なキャッシュバックにはどうしても抑制的になります。つまり総務省がやるべきだったのは、SIMロックをさっさと禁止することだったと言えます。
消費者保護策を、「SIMロック解除拒否期間」で無力化するキャリア
また、総務省が消費者保護策として来年にも導入する「初期契約解除制度(初期契約解除ルール)」との兼ね合いもあります。この制度は、通信契約におけるクーリングオフ制度として、かなり前から検討されていて、当初、「消費者は、携帯を契約後、8日以内なら無償で通信契約を解除できる・端末も返品できる」という方向で話が進んでいました。
ところが、携帯キャリアと販売店が、端末返品は負担が大きいとして反対を主張。そこで、総務省有識者会議での議論は「来年、SIMロック解除を義務化する。契約解除をした時、端末返品までできなくても、その端末のSIMロックを解除して、他社に乗り換えられる。よって、制度から端末返品は除外しよう」という流れになっていました。
そのような経緯があったのにも関わらず、携帯キャリアが発表した3社横並びのSIMロック解除制度は、「半年間、SIMロック解除を拒否」という信じられない物です。特にNTTドコモとSoftBankは「回線解約から3ヶ月後はSIMロック解除を拒否」という条件まで付けました。
つまりどういうことか?「初期契約解除制度」で8日以内に契約を解除すると、手元には永久にSIMロック解除できない端末が残ることになります。割引は消え、端末の割賦代金残債だけが残り、支払い続ける必要があるのです。
一体これのどこが消費者保護なのでしょうか。既に「初期契約解除制度」の内容の見当がついているのをいいことに、携帯キャリアはこれを有名無実化するために先手を打ってきたと言えます。端末返品に反対して、除外させたのにも関わらずです。いつも「キャリアも営利企業だから仕方ない部分もあるよな」と思うこともありましたが、これについては開いた口が塞がりませんでした。
そもそもキャリアがSIMロック解除の内容を決めた時、キャリアは発表前に総務省にその内容で問題ないかどうかを照会していたはずです。当時検討の俎上にあったはずの「初期契約解除制度」との兼ね合いを考慮せず、その内容を許した総務省にも落ち度があります。そして、各社のSIMロック解除制度が発表された後であるにもかかわらず、既に有名無実化するのが見えている「初期契約解除制度」を、今になって手直しもせずに通そうとしているのは、さすがに理解しかねるところです。
対策は、SIMロック解除拒否を禁止すること
やはり、これらの対策としては、キャリアがSIMロック解除の拒否期間や、回線解約後にロック解除を拒否することについて、電気通信事業法第29条に基づき業務改善命令を発動するべきです。SIMロック解除のガイドラインは、不履行の場合には総務省が業務改善命令を出すと明言することで法的強制力が担保されています。購入後、即日SIMロック解除ができることで、「初期契約解除制度」は整合性を持って成立します。
本来ならば、消費者保護の観点からは、WebからのSIMロック解除だけでなく、窓口での解除も無償で受け付けるのが筋です。(既に販売店に余裕も無いでしょうから、やや酷な話ではあります)
また、SIMロック解除をすぐに行えることで、海外渡航など消費者の端末の利用シーンが拡大すること、事業者間の顧客の流動性が促されるので通信品質・価格・サービスでの勝負になること、不健全なキャッシュバックを抑制して健全化すること、などの効果も考えられます。
安売りが無くならなくても、結果的に政府方針は達成できる
仮に、総務省がSIMロック即日解除・解約後の解除受け入れを命令した後に、携帯キャリアが引き続きばら撒きをやったとしても、もうどうでもいいでしょう。SIMロックの解除された最新端末で、中古市場が潤うだけです。
ちなみに、本日の総務省有識者会議会合でも、中古市場を新興するべきとして議題として上がりました。政府方針はMVNOを支援し、競争環境を整備することです。資金力の劣るMVNOは、大手キャリアのように端末の安売りができません。好きな端末を、好きなSIMカードと組み合わせられるのがMVNOの良さですので、中古市場が潤えば、MVNOの弱点もカバーできますし、消費者の選択肢は増えます。ばら撒き上等、転売屋上等でしょう。
いっそ中古端末の持ち込みでも、SIMロック解除に応じるようドコモとSoftBankに指導したらいいんじゃないですかね。もし中古市場が盛り上がると、自社販売端末が、他社では使いにくいよう細工が増える可能性のほうが高いと思うので、総務省の出番はそこかなと。
というわけで、以前のように異常なキャッシュバックをやると、総務省や中古市場、MVNOを喜ばせるだけなので、やはりキャッシュバックは抑制的になるだろうという見立てができます。
つまり総務省が、さっさとやるべきだったのは、シンプルに「SIMロックの禁止」で、現実的に今できるのは、キャリアが設定するSIMロック解除拒否の諸条件を強制的に撤廃することです。