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問題だらけの違法ダウンロード拡大、漫画家からも悲痛の叫び。参議院議員会館にて開催された院内集会レポ

 海賊版対策のため、出版社からの要請を受けて日本政府は様々な対策を検討しています。

 各界からの強い反対によって、憲法違反の疑いの強いサイトブロッキング(アクセスブロッキング)は頓挫したものの、今度は文化庁が違法ダウンロード対象を静止画に拡大するという新たな動きを見せていた昨今ですが、2019年2月8日、参議院議員会館にて「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」が開催。100人ほどが参加。約10名ほどの議員・元議員も来ていました。

 一体、違法ダウンロード拡大の何が問題なのか?法学者から漫画家まで、各登壇者の方々のお話をまとめました。

大屋雄裕 (法学者/慶應義塾大学教授)

これまでの著作権法

 まず著作権、著作権法の経緯について。独占的な使用権があり、許諾を得ない限り何人たりとも使えないが、例外として、個人・家庭内など私的使用が認められてきたとします。

 しかし私的利用が認められている理由としては様々な説があり、プライバシー侵害になるから、家庭内なんかチェックできないから実効性がないから、家庭内に来る前に(CDなどの時点で)お金を払っているからなど。

 つまるところ、これまではクリエイターが報酬をもらえる・自由に使える、この両者のバランスを取ってきた制度であるとします。

ネット発展により違法アップロード横行、そして漫画村

 しかしネット発展により新たな問題が発生、その典型が違法「アップロード」であった、といいます。動画や音楽などがアップロードされ、ファイル共有を通じて拡散するなど、作品が売れなくなるという状況が発生してしまいました。

 アップロードは故意であり、これを取り締まるための法的強化をしたが、なかなか減らないため、ダウンロード側にコントロールしようという機運が高まり、2009年から録音録画の「ダウンロード」を違法化、2012年には犯罪化。

 リーチサイト・漫画村は、何が問題なのか。運営者らは「違法行為はやってない、アップロード者が別だから、漫画村はそれらをリスト化してるだけで複製もアップロードもしておらず著作権侵害ににはあたらない」などと主張していました。

 こういうものは本来なら、幇助犯として摘発は可能なはず。しかし、まずは主犯を捕まえてから幇助犯を捜査するものなので、難しかったそうです。

ブロッキング頓挫、違法ダウンロード拡大へ

 放置しているわけにはいかず、日本政府の海賊版対策知財本部はサイトブロッキング導入を試みるものの、憲法上の通信の秘密、ISPの電気通信事業法の通信の秘密、これらへの抵触から頓挫。緊急避難もやはり無理筋であったようです。

 海賊版対策会議は政府の会議としては大変珍しく崩壊、取りまとめできず最終報告を出せない、「座長報告」で代替という、とても珍しい状況に。座長報告の中で、静止画DL違法化への検討は共通認識という文言が入れられたことで、文化庁の違法ダウンロード対象拡大が急遽浮上してきた、こういう経緯とのことです。

文化庁中間まとめ

 文化庁の法制・基本問題小委員会中間まとめでは、リーチサイト規制とダウンロード違法化の対象範囲拡大が挙げられました。

 リーチサイト規制については、民事では差止請求には限界、刑事では正犯と独立の立件に疑問がるとし、立法による対応を提案。

 ダウンロード違法化の対象範囲拡大については、自動公衆送信の受信(ダウンロード)、デジタル方式の複製、「事実を知りながら」といった要件で違法とする方針を示しました。

 違法ダウンロード拡大は「対象に静止画も追加した」と伝えられがちですが、実際には従来の録音録画のみだったものの制限をなくすということ。制限をなくした結果として静止画やテキストなどが含まれてくるというわけです。

「客観要件」と「主観要件」

 著作権侵害ファイルを、自動公衆送信の受信で保存した場合、全てが対象かと言うと、必ずしもそうではありません。客観要件での限定により、特定少数は対象外です。たとえば、(不特定多数ではない)個人のメールやクラウドロッカーなど特定少数の送信を受信しても違法とはなりません。

 また、デジタル方式の複製と言っても、視聴・閲覧のみであれば、(表示しているだけ、つまりストリーミングの漫画村は対象外になってしまうのですが)複製はしていないということで対象外。紙への印刷や、印刷のスキャンも対象外とのこと。ブラウザを見ていることでPC内に残るキャッシュも、明文でこれを除外。

 これら客観要件に加えて、「事実を知りながら」違法ダウンロードした場合には違法という、主観要件もあります。

 一部違法が含まれる、つまり違法を指摘するために画像が含まれていたとして、それがダウンロード違法となる可能性があり、除外するため解釈規定を置くとします。

刑事罰の対象は

 刑事罰の対象は有償著作物に。親告罪は維持。目的による限定はせず、私的使用の目的であればすべて該当としていました。

 対象著作物に関する議論の時点で出されていた意見としては、以下のようなものが多数ありました。

 ここでTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の話に。TPPで一部非親告罪化するなど権利保護を強化する際に、刑事罰対象拡大に注意ということで、利益目的で原作のまま複製することによって著作権者に損害を与えた場合にのみ非親告罪化、これを書かないと二次著作に大きな影響が出るため、文化庁は以下のような要件を公式サイト上に掲載していたとのこと。

  • 利益目的
  • 有償著作物
  • 原作のまま
  • 損害発生

 こうした要件があるからこそ非親告罪にして二次創作への影響を最小化した背景があるにも関わらず、今回の違法ダウンロード対象拡大ではそれに対応する要件がないことは問題であるとしました。

肝心の効果は期待薄、警察の濫用の可能性も否定はできない

 権利者によるアクション、民事では、悪質でないものには対応せず、広めに違法性を設定。捜査当局のイニシアチブ、非親告罪では、限定を強めにする必要がある、民事請求・告訴はどちらにせよ可能。こうした2つの制度から、文化庁が重要としているのはメッセージ性ではないか、と推察します。

 漫画村でさえ、自分のサイトは合法であると主張しており、リーチサイトが自らを違法と明記するわけがありません。これを証明するには、内心の事実に関する証明という難題を迫られることになります。捕まえて証言を取って、記録データを捜索して、初めて証明できる話になるでしょう。 

 客観的に「違法」コピーがなされたかどうか、外形的事実で違法行為の疑いがあると、捜査に着手できてしまう、ということにもなります。捕まえて勾留してを繰り返すようなことも合法になり得えるとします。

 違法ダウンロード対象が拡大されれば尚更そうしたものに該当する行為をやっている個人は相当数いるわけです。犯罪の嫌疑、故意はなかったねと言ってる間に別件逮捕ができる、簡単に警察の手が及びやすくなる、そういう可能性に繋がります。

 ひとまずの結論としては、この法整備で損害賠償請求・差し止め・刑事処罰は可能になるかと言うと、期待できない。しかも「活用(濫用)」の可能性は否定できない、としています。

ダウンロード違法化の検証もなされず対象拡大が許されていいのか?

 2012年の法改正時の附則では、「不当に制限されないよう配慮」「軽微な事案まで積極的に捜査する意図はなかった」としていました。

 音楽での違法ダウンロードでは、捕まった人は居ないとされています。では、なぜやるのか。やはり文化庁は国民へのメッセージ性を期待しているのかもしれません。

 音楽映画に関するダウンロード違法化が抑止効果として機能していると文化庁は言いますが、証拠はあるのでしょうか。機能していると言うためには、比較検証、たとえば介入群と非介入群の比較が理想であり、せめて事前事後や、導入非導入の海外と比較などが行われて然るべきといいます。

 政府官庁が検証を試みた形跡すら無いわけで、2012年改正の検証がないままに、それを拡大することが許されるのか?とします。

法体制への信頼すら揺らぐ危険性

 また、法律とは、制裁を予測、つまり捕まる人がいるからこそ初めて抑止効果を持ちます。人々を法遵守へと動機付けています。

 しかし捕まらない、実効性がないとすれば、法律を破っても捕まらないじゃないかという認識が国民に広まることになり、法体制そのものへの信頼=予見可能性を傷つけることにもなり得るとします。

 メッセージを送るため、というのであれば、メッセージを送るというのは法律じゃなくてもできる話で、広報なり補助金なり、方法はあるはずとのこと。法改正の前に、まずは抑止効果を検証すべきというのが法学者としての意見であるとし、大屋先生はお話を締めくくりました。

藤本由香里 (編集者/明治大学教授/日本マンガ学会理事)

(筑摩書房編集者としても活躍されていた日本大学教授の藤本先生は、日本マンガ学会理事でもある)

日本マンガ学会は違法ダウンロード拡大に反対

 中間まとめが出された辺りからTwitterでかなり意見が出され、別の理事からも、漫画の研究に対して非常に大きな問題となると提案され、反対声明へ至ったとのこと。

 日本マンガ学会の違法ダウンロード拡大への反対声明は主に以下の4点。 

  1. 漫画や二次創作など研究を阻害する
  2. 研究や創作においてクリッピングすることは広範囲に行われており、一律に違法化すれば研究や創作の萎縮を招く
  3. 既に違法化されている動画・音楽とは違い、静止画やテキストは判断が難しい。短文SNSで正確な出所が示されていない記事は全て違法と判断され得るためユーザーがダウンロードを控える可能性がある
  4. 漫画村のようなストリーミングを取り締まることができない。逮捕者が出ておらず抑止力が期待されているだけ。静止画DL違法化は悪意ある侵犯者には効果がなく一般人を萎縮させ、研究・創作を阻害する結果が予想される

 また、これらの点が十分に検討されていないのは著作物の私的使用を一方的な便益の受容消費活動と捉えているからだと分析します。

 私的使用は生産行為でもありえます。生産行為を基礎とすることで世界的な発展を遂げてきました。著作権の保護目的が文化の発展にあることから、ダウンロード違法化の対象拡大それ自体に反対する、というのが日本マンガ学会の声明です。

 これら指摘したようなことは委員会でも指摘され、新聞でも取り上げられ、委員会の中でも相当な異論があったようだとするものの、にもかかわらずダウンロード違法化拡大の方向に進んでいることに懸念を示しました。

濫用の懸念、範囲限定を

 主観要件の「違法DLと知りながら」という部分について、著作権に詳しい表現のプロほど引っかかる可能性もあるのではとします。出所がきちんとしていない引用がコンテンツに含まれる場合もあります。32条の要件を知っている表現者側であればこそ「違法だと知っていましたよね」と言われてしまう可能性があるとします。

 濫用の可能性をできるだけ排除するとはされているものの、今後長い目で見てどのような形で法律が使われるかわからないことを考えても、自白の強要につながる可能性もあるとします。

 この際だからグレーも全て違法化、萎縮するぐらいでちょうどいいという考えがあるのではないかと疑ってしまう、国民生活への過度な干渉になってくるのでは、と懸念を述べました。

 中間まとめでは英独仏のダウンロード違法化の例について触れられているとしますが、藤本先生によれば、ドイツの場合は「明らかに違法で公衆送信された」とし、海賊版サイトに有るものに限定され、引用の要件が不十分なものが含まれていないとします。またフランスは、完全な違法サイトからでなければ免責。アメリカはフェアユースで個別に判断。つまり、これらの国をよく見ると、日本の「著作権を侵害する公衆送信」は範囲が広すぎると指摘します。

 対象を限定するのであれば、たとえば「有償の著作物を、(絶版だがネット上にあったものについてのダウンロードへの配慮)、販売されているそのままの形で、(研究など)正当な理由なく、単行本まとめて数話まとめて繰り返しダウンロードする行為」という風に、(非親告罪化の要件のように)厳格に限定を加えるのであれば、ある程度理解が得られるのではないか、といいます。

 むしろ違法アップロードにどう対処すべきかが長らく喫緊の課題であって、開示請求を容易にするなど、立法ではそちらを重要視すべきとしました。

 刑事罰は絞る方向ではあるとの報道も直近でありましたが、これについて、民事でも絞るべきだとしました。

赤松健 (マンガ家/日本漫画家協会常務理事)

(海賊版サイト撲滅のための漫画配信サイトの運営もしている、漫画家の赤松健さん。登壇後、まずは場を和ますために自作「UQ HOLDER!」 新刊19巻を宣伝して笑いを取る)

ダウンロード違法化拡大を「漫画家のため」ということへの違和感、漫画家の声

 ぶっちゃけ反対集会ではあるとし、あまりにも国民全体への影響が多すぎる法改正である割には効果が薄い、それを「漫画家のためにやる」と言われることへの抵抗感を示しました。

 漫画家を守るための政府や出版社の動きは嬉しいが、今回はちょっと問題があるとしました。

 これまでの漫画家側の動きについても総括。ブロッキングでもそうだが、この件に反対・賛成の意見を言う漫画家があまりいないことを問題視。自分の作品に政治的な色がつくのが嫌だ、創作に集中したいから、といった立場から表明しない漫画家が多いのかもしれないと分析しつつ、それは結果的に漫画家自身が困ることにもなるので直して欲しいとしました。

 また、本件について竹宮先生が新聞で大きく意見を述べたことについて称賛しました。 

 出版社の偉い方々から説明を受けた時は、海賊版のデッドコピーを取り締まる性質でありTwitterのアイコンなどは全然大丈夫などと説明されたとする一方、現実には文化庁の事務局が突っ走っていることについて、複雑な心境を吐露しました。

漫画家のHDDの中身は……

 漫画家のパソコンのHDD(ハードディスク)の中身は、ネットで「あっこれいいな」と思ったら創作の資料として保存しているといいます。

 いい色だと思ったらスポイトで画像の点から色を取ってくることもあるそうです。すごい絵師・クリエイターのHDDほど、著作権的にグレーな画像で埋まるとし、そうして拡大再生産して新しいものを創作するとの見解を述べました。

 そういう資料を集めるのが困難になる法整備について、文化庁は「海賊版を参考にして作ることには『疑義がある』」としているものの、しかし現実としてクリエイター側は様々な画像をコレクションした資料を元に作っているのであり、違法化はまずい、というのが現場からの意見であるとしました。

 やはり出版社や文化庁が動いてくれること自体は嬉しいものの、ブロッキングがコケたからか、文化庁事務局が突っ走っているように見えることについて改めて懸念を示しました。

海賊版撃滅、ヒントは「ジャンプ無料配信」にあり?

 集英社は先週、紙の週刊少年ジャンプを月曜発売と同時に、英語・スペイン語版をその日のうちに海外で無料配信すると発表したことを称賛しました。「MANGA Plus by SHUEISHA」として1月28日から日中韓以外の全世界で配信が開始されたもののことですね。

(MANGA Plus by SHUEISHAのアプリ)

 集英社が翻訳する時間と手間、翻訳料を考えると大変だが、これをやることでワンピースなどの人気作品が即読めるとしたら海賊版の意味がなくなるので、すごいことであるとしました。

 ジャンプの海賊版が土日にはネットに上がっていることもあるようで、生のスキャンデータを即翻訳して海外に拡散すれば海賊版に勝ち目があるかもしれないという可能性は指摘しつつも、やはりこの施策によって、「海外で、『日本漫画』といえばジャンプ!」とブランディングできるので効果は大きい上、海賊版を滅ぼせる可能性があるとし、こういうのを出版社と作者がやるべきと太鼓判。ブロッキングや政治で国民を犠牲を強いることには「疑義がある」とし、集英社のような取り組みの拡大に期待を寄せました。

生貝直人(東洋大学准教授)

 情報社会の規制と自由が専門分野の池貝先生。委員連名の意見書に連名で名を連ねているとのこと。

 1月25日の小委員会その他で文化庁に意見しており、前提として表現の自由、文化の創造、ダウンロード情報収集に広く網をかけるのは避けるべきとしました。 

  1. 海賊版対策は「緊急の対策」として始まったのであり、そうであれば悪質な海賊版サイトへの対応であるべき。民事でも悪質なものに限定すべき
  2. 刑事は、メッセージ、萎縮効果しかなく、そもそも導入すべきでない
  3. プロセスの問題として、この議題はわずか3ヶ月、最終報告書も1週間ほどという異例の短期間でまとめられ、様々な検討がしきれていない 

 生貝先生自身、この短期間で委員の職責を果たせているか、確信を持てないとしています。

 やはり漫画家などの当事者がしっかり意見を述べるべきであるとし、院内集会の意義は大きく、本来であれば最終報告に反映すべきであったのではないかと述べました。

落合洋司(元検察官/弁護士)

 こういう刑事罰が導入されても処罰者はなかなか出ないだろう、なぜなら立件されて検察庁に来ても形式的には違法性があっても起訴価値が低い、と落合先生は予測。萎縮効果の弊害のほうが大きいだろうと感じる、としました。

 処罰されないよう限定する「事実を知りながら」に何を込めるか?刑法の世界では、確定的後、未必の故意がある。心理状態、未必の故意か過失か、事案によって微妙。捜査当局が追及すれば立件されることはあり得る。たとえば公安、事件化したいと思えば、なくはないため、この問題は非常に危惧せざるを得ないと感じるといいます。(とりあえず公安担当の極左暴力集団への転び公妨など別件逮捕には使われそうな予感ですね)

山口貴士(弁護士)

 漫画村運営者をCDNから特定した山口弁護士。ブロッキングは、別に罰則はない上にいくらでも回避できるので市民のインターネットへの影響は、静止画DLよりは少ないといいます。ブロッキングは憲法に関わるが、静止画ダウンロードは法律です。実際立件されるかどうかは別として、違法ダウンロード拡大によって市民が皆違法になるという状況を危惧するとします。

 違法ダウンロード拡大によって、法の執行の構成に対する信頼が揺らぐとし、そしてネットで情報収集をしてノート、スクラップという行為が違法になれば経済文化学術など多岐に影響が及ぶため、絶対に反対、止めなければならないとしました。

竹宮惠子 (マンガ家/日本マンガ学会会長)

(「地球へ…」「私を月まで連れてって!」「風と木の詩」といった代表作を持つ漫画家の竹宮惠子さん)

研究がしづらくなる 

 日本マンガ学会員から、由々しき問題であるとして早い段階から反対声明を出すと決めていたとしています。

 守られる側の漫画家でもあり、研究者としての立場でもあり、パブコメは出せなかったが、日本マンガ学会員や、マンガ業界とその周辺コミュニティでも研究がやりづらくなるとしました。例えば周辺コミュニティは今では入手困難な画像を持っているなど、研究に必要であるとしました。

二次創作など周辺コミュニティとの共存共栄崩れる懸念

 二次創作などグレーゾーンで援護射撃をしている人たちはたくさんおり、規制により活動が萎縮することに懸念を示しました。

 漫画のコミュニティと漫画作者は、映画音楽業界のそれよりも、距離が近いとし、二次創作では一部には目を覆うものもあるが、一方で作者への敬意を持ちつつ作者自身にそれを送ったりはしないなど、不文律によって共存共栄に成功しているとの見解を示しました。

 この法案が通ることで、そうした距離・関係が崩れるのではないかという懸念があり、法制化するには十分な配慮が必要としました。コミュニティの活動に対し、文化庁であるならば、そういう点を考えていただきたいと釘を差しました。

山田太郎(前参議院議員)

 反対の集会で閉じてはいけない、もっと国会議員を集めないといけないとしました。国会議員は世論には弱く、選挙を控えた今の時期、著作物をみんなで使えるように、やれることをやっていきますと挨拶しました。

鈴木正朝(新潟大学/JILIS理事長)

 追加資料として、本日、情報法制研究所(JILIS)が発表した提言についての資料が配布。鈴木正朝先生曰く、JILISはブロッキングで当たり前の意見を言ったとは言え、全て反対だと海賊版サイト対策に反対しているかのようになるためしばらく鳴りを潜めていたものの、本日、違法ダウンロード拡大についての提言を発表。

 ブロッキング問題で知財本部にて頑強に抵抗された弁護士の森亮二先生は、あくまでも「あるべき筋論」を言うべきとし、今回の提言に署名はしていないとしています。JILISの資料はこちらで読むことができます。

質疑応答

毎日新聞:前回の違法化でどんな議論があったか?

大屋:当初法制度的な検討で十分くぐったかというと微妙。民事で訴訟はできるようにしよう、これは犯罪化ではない、国民生活への影響は小さいとして通った。実効性がなかったから、訴訟も起きず、被害は減らず、権利者団体からの強い意見で3年後に犯罪化。実は通常文科省の審議会ルートでは、詰めないと危険であるため時期尚早とされていたが、議員立法で修正案として通った。内閣法制局審査を経ていない。ある意味では「立法されちゃいました」と我々からは言いたくなる。

朝日新聞:漫画特有のコミュニティの懸念、二次創作も含まれるか

竹宮:法案はもっと大きな形で作られており、二次創作的なものも含まれると考えている

朝日新聞:漫画を育ててきた漫画周辺に関して

竹宮:今でも違法と感じながらグレーゾーンでやっている人たち。 黙認されているとやっているだけでもプレッシャー。本当に漫画のルーツは江戸時代から民間から出てきたもの。基本海賊版のような側面。自覚しながらやっている。大きな法ができると萎縮する、それを懸念する。刑事罰がつく形はどうしても、効力はあるんでしょうが、他の部分に影響が及ぶのを懸念。

朝日新聞:研究の過程でクリッピング、具体的にそれはどう次の創作に生きるのか詳しく

赤松:本当に漫画家は死ぬほど画像を持ってくる。ローカルで観賞する。二次創作、エロも。ああ、いいよなと思った色をパレットから持ってくるのは不可能で画像からスポイトで拾って色を広げていく。材料として死ぬほどいっぱいある。これが失われればカラーCG・商業漫画家・イラストレーター界は壊滅してしまう。

うぐいすりぼん:文化庁パブコメに関して。創作研究は私的な好奇心、私的な勉強から始まるのではないか、クリッピングのような

大屋:文化庁は二段階を混同している。取り入れることが第一段階。その後表に出なければ私的使用そのもの。引用して論文にするなら、この時点でここは指摘しようとは言えない、そのとおりで、その時点では引用要件などを具備するよう心がけている。取り入れる段階で、出すのか出さないのかは決まっていない。材料になりそうなものは片っ端から取り入れる作業。そこを私的使用ではないという議論は成立しない。

藤本:一般の方の考察が漫画関連では参考になるものが多い。Twitterに資料が多い。たとえばそれが何ページの何コマまで書いてないとしても覚えとしてクリップする。使う段階で、出所を調べて引用にする。引用の要件を満たさないツイッターやブログのものはあるが、役に立つ。あとパクリ検証もあるが、漫画の画像を重ねる加工を施すなど、これを違法使用と言われる懸念もあるが、やらなければ著作権侵害の有無すら検証ができない。今回論文のダウンロードも違法化されるという話。しばらくアメリカにいたときに論文共有サイトを知り合いの研究者も非常に利用している。あなたは著作権者ですか、アップロードしてくれと言ってくる。アメリカで出た論文は著作権者は出版社だったりする。私が著者で出版社が著作権者の場合もある。自分の所属大学が潤沢な予算を持っていて高い論文でも買えるのであればいいが、向こうの英文論文集は高かったりする。図書館になければ共有サイトが重宝される場合がある。今回の文化庁中間まとめではそれもするなという話だが、英語圏の研究でそれが問題になってくる可能性もあるのではないか。

大屋:日本だと著作権は著者に留保したまま複製許諾を出版社。英米は著作権を出版社に移転することを要求、出版社から許諾を得ている。文化庁にその辺りの認識がない可能性がある。テキストの場合は劣化せずOCRするがこの改正だと素通し。法的に大丈夫になる構成、文字ならプリントアウトすればいいんだよねと、紙という地球資源を大量消費。これでは誰にとって幸せかわからない。

弁護士ドットコム:違法アップロードされた漫画がよく読まれている状況について、どう思っているのか?海賊版サイト対策はどうやったらいいのか?

赤松:(サイバーロッカー型の漫画村は)九十数%日本での利用なので潰れてざまあみろでいいが、海外だと、正規版が無いのにそれを潰されて漫画好きまで減っちゃっている。解決策は、ジャンプによる正規版翻訳無料配信。向こうで翻訳がされる文化は歓迎だが売上減った例もある。漫画村が潰れてから、少年漫画については売上が上がった。

竹宮:出版社が直接依頼してきたら出版許可は出す。出版社との作品契約はしてない。海外留学生たちは作品を読んでいるが、海賊版で読んだんですねと訊くと謝られる。それはこちらが出していないのだから仕方なく、読んでもらえることはありがたい。

hon.jp:先程効果が検証されてないというのがあったがWinnyのノード数が明らかに減っているとの結果もある

大屋:そういう調査結果があることは承知している。権利者団体としてはやっておられるのだろうと思われるが、どこからが違法化の効果か、開発者摘発の影響なのか、大学のセキュリティ強化なのか?違法化してない国としている国、バックグラウンドと政策の効果、比較検証が必要。それを文化庁なり文科省なりがやっていないとおかしいという気がしている。

ダウンロード違法化が通ったとして、摘発には海賊版サイトから落とした人を特定して捕まえるのだろうが、それをどうやるのか? 

大屋:摘発できるようにみなさんのパソコンにどのようなファイルを保存したか可視化する社会制度を採用しない限りできない。あり得るとすればアップロードサイトが先に捕まった場合や、家庭の中に裏切り者がいた場合、ありえるとしたらこのパターンぐらい。犯罪の摘発が可能か、逮捕訴追に結びつくか、実効性はない。最初から文化庁は実効性がないのを認めていることを匂わせている。「被害者は出ないからいいでしょ」と。それは法全体執行への信頼が傷つくからやめるべきだ。

朝日新聞:まずCDNに関する対策が有効ではないか。漫画村もクラウドフレアだった。

大屋:その通りだと思う。ファイル共有は分散だが、漫画村は特定少数。CDNへの対策やリーチサイト規制。今回報告書においては法律家はリーチサイト規制に批判していなかった。あれらは故意の財産権侵害のため。

総評

 ブロッキング問題など、これまで肝心の漫画家の意見がほとんど聞かれない状況であったのに対し、今回の院内集会では、漫画家や日本マンガ学会といったクリエイター寄りの声もあり、それを国会議員の先生方含め広く聞いてもらえたというのは、非常に有意義であったと言えるのではないでしょうか。

 私見ですが、根本的な問題点として、文化庁の役人が国民や創作者の標準的なPC・スマホ・ネットの用法を理解していないという点があるでしょう。やはりそれを理解しているであろう当事者が声を上げ、もっと文化庁も審議に当事者を呼ばなければならないのではないか、と感じました。

 この記事を読んで、違法ダウンロード拡大の問題について、今一度読者の皆さんも考えていただけたら幸いです。

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