EUのデジタル市場法(以下DMC)は、AppleやGoogleといった大手IT企業に対し、EU市場における独占的な地位の濫用によって、ユーザーの権利が脅かされることを防ぐための法律であり、2022年11月に制定された法案です。
この法律の遵守期限が2024年3月7日に迫る中、Appleは新しい法的用件に適合するための動きを加速させているようです。
米Bloombergの記者であり、Apple関連情報に精通するMark Gurman氏によると、Appleは、AppStoreをEU加盟国向けとその他の国向けの2つに分けようとしているとのこと。
DMAの影響により、Appleは今後、EU圏内におけるAppStoreのポリシー等を複数変更する必要があります。この変更を全世界に適用するのではなく、対応が必要なEU圏内にのみ制限することで、影響を最低限に抑える狙いがあると見られます。
DMAによりAppleが許可する必要がある機能として挙げられるのが、サードパーティ製決済システムの許可。現在、AppStoreからアプリを提供する企業がApp内課金によるサービスを提供するためには、Appleの決済システムを介す必要があります。これにはもちろんApple税、つまり手数料がかかるわけで、サードパーティ製決済システムの利用が許可されることで、この手数料を支払わずに済むようになる可能性があります。
ただし、思い通りにはいかない可能性も。Appleは先日、米国向けのAppStoreにおけるガイドラインで、サードパーティの決済システム利用を許可しました。ただし、Appleの決済システムによるApp内課金の代替手段としてしか表示できないほか、外部決済システムへの遷移時に警告画面が表示されます。
さらに、米国版AppStoreにおいては、サードパーティ製決済システムを使用した課金に対しても、12%ないし27%の手数料が請求されます。Appleは続けて、米国向けAppStoreでは、数十万もの開発者がアプリを提供していることから、全員からの強制徴収は、多くの場合不可能であるとも言及。
サードパーティ製の決済システムを使いたい理由のほぼ100%がApple税を逃れるためであるのに、外部決済を使用しても手数料がかかるのであれば、導入をする意味がありません。もっとも、「強制徴収は多くの場合不可能」とはされていたとしても、AppStoreのポリシーに遵守しない限り、アプリ公開の取り下げなど何があってもおかしくありません。
EUのDMAは、かなり厳格に定められているため、AppleがEU圏内で同様に「外部決済からも手数料を徴収」を行う可能性は低いと考えられます。ただ、これに準ずる決まりや制限を導入する恐れがあり、Appleからも、タダではやらせねえぞ、という強い意志が感じられます。
また、外部決済だけでなく、アプリのサイドロードも許可する必要があります。Appleは今日まで、サードパーティ製アプリストアからのアプリのインストールを許可していませんでした。これについて同社は、「ユーザーの安全を最大限に守るため」としており、EUだけでなく同様の動きを見せる各国の捜査機関に対して猛反発を繰り返しています。
現状、これらのDMAに遵守するための変更についてAppleは何も発表していません。PhoneArenaは、今後、期限の3月7日までの数週間で詳細が明らかになる可能性があると予測。AppStoreに対する変更を適用するためのアップデートが配信される見込みです。
先述の通り、AppStoreが2つに分割される可能性があるため、外部決済やサイドロードが利用できるのはEU圏内向けiPhoneおよびiPadに限られると予想されます。ただし、日本国内でも、公正取引委員会がAppleに対してサイドロードの許可を義務付けるための動きを加速させており、こういった動きは世界に広がっています。Appleの苦肉の策の効果も、長くは続かないかもしれませんね。