最近、iPhone 5のチップセットにはSamsungのGalaxy S IIIにも使われているExynos 4 Quadが採用される——そういったニュースが散見されます。
しかし、冷静に考えると、そうとは思えない部分が多く見受けられるため、現在の情報を元に考察をしてみました。
1.過去のApple製品とはGPUコアが違う
AppleはiPhone、iPadなどのiOS製品でずっとGPUコアにPowerVRシリーズを採用してきました。iPhone3GではPowerVR MBX、それ以降のiPhone及びiPadではPowerVR SGXシリーズを採用しています。
しかし、Samsung Exynos 4シリーズに組み込まれているGPUコアはARM社のMali-400というGPUコアであり、今までのApple製品の中では採用された例がありません。
文字だけではわかりづらいので、今までのiPhoneシリーズで採用されたGPUコアの移り変わりを表にまとめてみました。
iPhoneシリーズ | iPhone 3G | iPhone 3GS | iPhone 4 | iPhone 4S | iPhone 5? |
GPUコアの種類 | PowerVR MBX | PowerVR SGX540 | PowerVR SGX540 | PowerVR SGX543MP | Mali-400? |
しかし、過去のiPhoneで確かにSamsung Exynosが採用された例はありました。iPhone 3GSにはExynos 3(当時はHummingbird)のCPUクロックを800MHzに抑えたものが利用されていました。ただし、当時のExynos 3に搭載されていたGPUコアはPowerVR SGX540でした。
また、GPUは CPUとは違い、一部命令(OpenGL API)の動作(描画結果)がGPUによって異なることがあり、GPUへの徹底的な最適化を行い、高品位なゲーム体験やあの独特のスムーズで快適な動作感を実現しているiOSが、今更GPUコアの変更なという面倒なことをするとは到底思えません。
2.iOS SDKにMali-400を示す文字列が見つかっていない
iOS SDK 4.3 betaが公開された時、PowerVR SGX543のドライバが含まれていたことを覚えている方はみえるでしょうか。
事実、このあと発表されたiPad2及びiPhone 4SにはPowerVR SGX543が採用されていました。
ただ、このGPUドライバについてはiOS 4.3 beta3以降削除されましたので、「Mali-400が搭載されない」という確実な証拠にはなりませんが、1と合わせてみてみると、それなりの信頼性・関連性はあるかと思われます。
3.ExynosのGPUコアよりApple A5XのGPUコアの方が性能が良い
Galaxy S IIIに搭載されているSamsung Exynos 4 Quadも非常に高性能なチップセットですが、GPU性能に関してはApple A5Xに劣っています。
もちろん、タブレットということで消費電力に余裕があるためクロックを上げやすい・コアが増やしやすい・・・・・・といったことも考慮すべきかもしれませんが、Samsung Exynos 4 QuadのGPUであるMali-400はただでさえオーバークロック状態であり、これ以上の性能向上は見込めないものと思われます。
また、過去にAppleはiPadとiPhoneにて部品を共通化することで、コストの削減を図って来ました。そんな中、iPhone 5にExynos 4 Quadを採用してしまえば、次期iPadにもExynos 4 Quadを採用せざるを得なくなり、iPhone5よりも高いGPU性能が要求されるタブレットで性能向上が見込めないExynos 4 Quadを搭載する意味はあまり見えてきません。
4.AppleがCPUベンダーのPA Semiを買収した理由の無意味化
もう忘れてる方も居るかと思いますが、Appleは2008年に米国の省電力CPUベンダであるPA Semiを買収しました。
もっとも、PA Semi社はPowerPC系のアーキテクチャを主体とするCPUベンダでしたが、あくまでもCPUベンダ。回路設計技術者等はもちろん保有しており、これによってAppleはApple A5シリーズの設計を行うことが出来たものと思われます。
しかし、Apple A4まではSamsung Exynos 3(当初はHummingbirdと呼ばれていた)を拡張したようなプロセッサでしたので、これについてはあまり理由として意味を成さないかもしれません。
ここまで見て、「じゃあiPhone 5に搭載されるのはExynos 4 QuadのGPUをPowerVRに変更しただけの物なんじゃないの?」と思う方も居るかと思われます。
しかし、搭載するGPUコアが変わればチップの設計そのものが変わります。それはつまり、Samsungが自社のARMチップセットブランドとして販売している”Exynos”では無いのです。この場合は「Samsungに製造委託をしたAppleのARMプロセッサ」という事になります。
いかがだったでしょうか?私個人としては上記のような理由からiPhone 5にSamsung Exynos 4 Quadを採用するとは思えないところですが、果たしてどうなるのでしょうか・・・・・・。
デザインや機能だけじゃなく、内部部品という観点でもワクワク感を与えてくれるAppleとiPhone・iPadには「さすが・・・・・・」と言いたい所です。
(共同編集:高橋ノゾム)