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前のめりで行われたブロッキング
政府知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は、海賊版サイトへの緊急方針として、法整備までは民間の「自主的な」ブロッキングを適当とし、実施のために関係事業者、有識者を交えた協議体を設置することで体制整備を行うことについて触れました。
今回のブロッキングは憲法違反・電気通信事業法違反の疑いが持たれており、主婦連合会や弁護士なども訴訟に動いています。参議院総務委員会でもプロセスが不透明であると厳しく追及。
さらに総務審議官が虚偽説明で携帯キャリア三社に直々に要請したとする日経クロステック報道や、首相指示で総務省役人が、過去の違法行為(通信の最適化)を暴露されたくなければブロッキングするよう携帯キャリアに迫ったとするFACTA報道も出ています。
JILISの論点整理
さて、ここで一旦立ち止まって、それでは今後、どのように憲法と電気通信事業法を守りながら海賊版サイト対策が進められるべきなのか?それを冷静に考える一助となるのが、一般財団法人情報法制研究所(JILIS)の情報法制研究タスクフォースの発表した、ブロッキング問題に関する論点整理です。
今後の協議体等での検討において踏まえるべき観点、検討すべき論点が提示されています。今後、ブロッキング問題は立法化の段階に動いていくでしょうから、これを読んでじっくりと考える必要があるでしょう。
以下に載せるのは要約ですので、できれば原文を読んで下さい。
現行法下で可能な措置の精査と実践
そもそも出版社が現行法上可能な措置を取ったのか不明であり、インターネット技術者や専門の弁護士などの助言の下、可能な法的措置を行うべきとしました。
筆者補足:たとえば、ブロッキング騒動の直後、技術者・専門家たちが、海賊版サイトの運営者情報や配信元に国内サーバーがあることを特定したり、海賊版サイトの資金源を絶つよう広告差し止めに働きかけるなど、大きな効果を上げる動きがありました。 |
また、現行法に課題があるとすれば、権利侵害に加担する海外事業者への民事訴訟・執行法制そのものの不備である可能性があるので、より大きな視点から早急に見直すべきとしました。
自主的取組の推進
日本では著作権侵害も含めインターネット上の違法有害情報対策は、フィルタリングなど自主的な取組を中心として行われてきており、こうしたアプローチが追求されるべきとしています。
特に海賊版サイトを支えている広告収入を断つため、関係事業者の取組が効果的であるとしました。
ブロッキング立法の課題
現行法下で可能な対策を実践し、その効果を見極め、十分な効果が得られないことが確認されて初めて立法措置を行うべきとしました。
立法事実の十分な検討
ブロッキングは通信の秘密や表現の自由を大きく侵害する措置であり影響も大きいので、ブロッキング以外では対策できないことが必要。このため売上がどの程度回復したかなども含めた効果測定や、海外でのブロッキングが上手く効果を上げているのかの確認が求められるとしました。
他のブロッキング主張に対する影響の考慮
著作権侵害でブロッキングを認めるなら、他の知的財産権侵害対策についても同様な主張がなされ、ブロッキングが際限なく拡大していくおそれがあります。インターネットの自由が大きな変容を迫られることを十分に考える必要があるとしました。
制度設計における課題
著作権保護と通信の秘密・表現の自由と、憲法レベルでの較量に基づいた比較、たとえば著作権侵害がどの程度であればブロッキングが正当化されるのか、オーバーブロッキングのおそれの除去、他の手段が尽くされているのか(補充性)を考慮すべきとしました。
海外でのブロッキング制度の事例では以下の3種類に大別。それぞれ問題点もあります。
- 裁判所決定に基づく司法型:個々のプロバイダごとにブロッキング命令を得なければならない手間
- 行政機関の命令に基づく行政型:どのようにして判断の中立性・客観性を担保するのか・検閲に当たるのではないか
- 立法を基礎に具体的な制度設計を民間に委ねる共同規制型:多数の事業者の参加が得られるかどうか
また、いずれの方式においてもISPは費用がかかるので、国または著作権者が費用負担すべきとしました。