拙速すぎる文化庁の違法ダウンロード拡大と阻止、一体何があったのか?委員振り返る すまほん!!

 情報法制研究所(JILIS)は2019年6月15日、第3回情報法制シンポジウムを東京大学伊藤国際学術研究センターにて開催しました。

 「海賊版サイト対策と静止画ダウンロード違法化問題」について報告したのは、小島立九州大学准教授。

 海賊版サイト対策とブロッキングの問題から派生した、違法ダウンロード拡大問題。従来は音楽と映像に限定されてきたダウンロード違法化の範囲を静止画やテキストなど全てに拡大しようとする著作権法改正案。規制範囲が広すぎる、表現や研究、国民の日常利用が萎縮するといった問題を抱えていたあの法改正、結局最後はギリギリで阻止されました。

 文化庁は議論を拙速に進行、その手法については当時批判の声も多く聞かれました。

 あの問題について、文化庁文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会の委員も務めた小島立九州大学准教授が振り返ります。

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違法ダウンロード拡大、攻防を振り返る

異例づくし、法改正への懸念高まる

 2018年12月に明かされたダウンロード違法化対象範囲拡大の中間まとめと論点整理案について、パブリックコメントが2018年12月10日から2019年1月10日の間に募集されました。この時、文化庁著作権課が「参考資料」なる文書も同時に公開。予め想定される慎重意見に対して前もって反論する「留意事項」が列挙された異例なものだったとします。

 718件提出されたパブコメのうち534件が違法ダウンロード拡大に関するもので、どれぐらいの反対かはわからないものの多くは批判的だったと聞いているとのことです。

 当初この問題について真正面から対応できていない状況で、第7回の法基小委に出席はしたものの、的を射た発言をできず、深く反省しているといいます。

 委員しか見ていない、1月18日段階での文化庁著作権課の報告書案は「正直に申し上げてなかなか凄い」内容であったと回顧します。非常に広範な規制範囲であると共に、私的使用など複製のための法改正を適切に進めるため不可欠な著作権法の概念に対する理解が、一般的な研究者とは異なる記述が散見され、流石にそういった部分は委員からの指摘で削除。無事、日の目を見ていないとのこと。拙速さやこういった部分から、委員から法改正への懸念が高まっていったそうです。

危機感を持った法基小委委員、審議会紛糾

 2019年1月中旬になって、規制範囲限定のために法基小委の委員が連携すべきではないかとの動きが出始め、第8回法基小委前日の夜にメールでやり取りし意見書の提出を決め、1月25日の第8回法基小委では生貝直人委員や前田健委員、そして報告者である小島先生含む6名の委員が共同意見書を提出。意見書は、刑事罰の部分について報告書案の取りまとめに反対し、引き続きの検討を求めるものでした。委員連名の意見書をこういった形で出すことは少なく、この時の審議会は「荒れた」とのこと。

 文化庁著作権課は、法改正の方向性として、まず民事では対象を全著作物へ拡大を企図。限定は主観要件で対応。刑事罰については要件加重。議論が紛糾し、最終的には主査預かりで議論を打ち切ったとのこと。その時、委員は皆押し黙っていたといいます。意義ありとは言えず、ごく一部の委員が「異議なし」と言い、重苦しい雰囲気の中、議論は打ち切られたとのこと。

 文化庁は報告書案の修正版を1月29日午前2時過ぎに委員に送信、それに対する意見提出の締切は1月30日18時だったとのこと。つまりわずか42時間以内を要求。文化庁の拙速ぶりが改めて伺えます。

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 8名の法基小委委員が共同意見書を1月30日に提出。後の議論でよく見るようになった「原作のまま」「著作権者の利益が不当に害される場合に限る」といった要件を報告書案に記載するよう求める内容。文化庁のプロセスについても問題視。締切を伸ばし、各委員との相談を強く求めました。

 2月4日に取りまとめ。2月5日に報告書が公表。法基小委の親会である著作権分科会に持ち越されました。

小島先生の考え

 この段階で、静止画やテキストへのダウンロード違法化拡大について、小島先生の考えは「(スクリーンショットを撮影するなど)国民の生活や情報収集にも密接に関わる部分であり、ここを規制するならばやはり要件はかなり厳密に絞り込まれるべき」「私的使用のための複製に著作権が及んでいるという前提に疑う余地があるのではないか」「知的生産活動に深く関わっており、文化政策や文化芸術基本法の観点からも慎重に検討をするべき」「多様なアクター(漫画家から建築家まで文化芸術活動の当事者)を包摂した法制度設計をすべき」というものであったとのこと。

漫画家からも懸念の声が上がる

 漫画家からも懸念の声が上がり始めており、1月に日本マンガ学会から声明。2月8日にはうぐいすりぼんとコンテンツ文化研究会から永田町の参議院議員会館で院内集会を開催。(この件については詳しくレポートしているのでこちらの記事をご覧下さい。)

院内集会では赤松健氏、竹宮惠子氏といった漫画家も参加)

 同日、JILISは「原作のまま」「不当な利益」要件を加えるべきとの提言を公表。小島先生は2月8日という日を意義深い日と振り返ります。院内集会でJILISの鈴木正朝理事長と会い、JILISに参加することを決めたとのこと。

 2月13日の著作権分科会でもまた議論が紛糾、複数の委員からダウンロード違法化範囲の限定をすべきという意見が出されたが、報告書は取りまとめられてしまったとのこと。

舞台は政治へ、法改正実現へ着々と進む

 この後、議論の舞台は政治過程へと移ります。内閣提出法案については、国会提出前に、与党審査というプロセスが存在。与党審査は1回目の「概要審査」、2回目の「条文審査」を経て、部会における審査で異論が出なければ政調審議会、総務会へと進むそうです。

 2月13日の著作権分科会で報告書が取りまとめられたわずか2日後、2月15日から著作権法改正案の与党審査が、自由民主党文部科学部会と知的財産戦略調査会の合同会議で開始。特に異論も出ず「無風」で通過。3月1日閣議決定を目標にしていたと聞いた当時「このままでは来週で決まる、残された時間がない」との強い危機感を感じたそうです。

 これまで小島立九州大学准教授はクリエイティブ産業についての教育研究を行ってきており、このまま座視して規制されれば、支援してきたはずのアクターに対して申し訳が立たない、もうクリエイティブ産業を研究する資格はない、腹をくくるしか無いと感じたとのこと。政治家への働きかけしかないと考えたといいます。

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 知り合いの建築家松岡恭子氏を通じて、古川康衆議院議員にコンタクト。古川議員から文部科学部会の有力者に働きかけるべきとの助言を受け、馳浩議員を紹介され、2月18日に馳浩議員に面会して説明。馳浩議員は2月20日に著作権課長に面会。

 なお、2月19日には多数の専門家による緊急声明が出されており、国会議員の先生方にこの緊急声明の内容を伝えたとしています。

 2月22日には最後のチャンスとなる与党審査2回目にあたる条文審査が実施。ダウンロード違法化拡大について、馳議員、古川議員、山田美樹議員、三宅伸吾議員が異論を唱え、部会は全会一致が原則であるため、その場での了承にはならなかったものの、一任された文部科学部会長が原案どおりで了承してしまったとのこと。ここで「万事休すか」と感じたとのことです。なお、2月22日の部会で文化庁が提示した資料は、無限定な対象拡大に積極的な意見が少数派であったにも関わらず多数派かのように誤認させる不正確なものであったと、弁護士ドットコムが報じています。

MANGA議連会長の古屋議員動き、風向きが変わる

 ところがここでMANGA議連(マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟)会長の古屋圭司議員が懸念を抱き始め、2月21日に緊急声明発起人の高倉成男教授、中山信弘教授、金子敏哉准教授に意見を求めたとのこと。3名は意見書を2月25日に古屋議員に提出。ここから古屋議員が活発に動いてくれたとのこと。

 2月27日には日本漫画家協会がダウンロード違法化対象範囲見直しに関する声明を公表。これまで「漫画家のためだ」と主張してきた文化庁ですが、当事者である漫画家たちからの反対が増えることで、法改正の大義名分が問われていくことになります。

 こういう情勢の中で3月1日、自民党の運営と国会活動に関する重要事項を審議決定する常設の最高意思決定機関である自民党総務会が開催。通常15分で終わるところを、古屋議員が時間を大幅オーバーする大演説を行い、総務会が了承を先送りし、文部科学部会に差し戻したとのこと。ここで、うまく阻止できたように思われました。

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文化庁案のまま国会提出か

 しかし、3月6日には、自民党文部科学部会と知的財産戦略調査会の合同会議のヒアリングが実施。

 このヒアリングで漫画家になぜ訊かないんだと問われた文化庁は、「パブコメが出てないから」と回答、しかし当事者なのだからパブコメが出ていようがいなかろうが訊くべきで、そもそも赤松健先生は個人で「漫画家をヒアリングしてくれ」とパブコメを出しており、やはり今回の結論ありきの進め方はおかしいことが伺えます。

 そして最終的に、文化庁案のままの国会提出が認められたとのこと。当時、推進派の甘利議員は「政治論だ」と語っていました。これで本当に「終わった、万事休すだ」と覚悟。附帯決議を付けるぐらいしかないのでは、と考えたといいます。

オセロのように二転三転する情勢

 しかし、別ルートでの働きかけがあり、3月8日に産経新聞は「違法ダウンロード規制の項目を削除へ」と報じました。該当記事には安倍首相が削除を指示と書かれていました。8日の前の時点でこの情報を知ってはいたとしつつも、にわかには信じられず、このまま阻止できるとは思えなかったとのこと。朝起きたらオセロのように情勢が変わります。

 3月9日には、やはりこのまま文化庁案のまま押し切られるとの情報が小島准教授の耳にも入ったとのこと。当事者がさらに声を上げるしかないと感じたそうです。

 3月11日には日本建築学会古谷誠章会長がダウンロード違法化対象範囲見直しについての緊急声明を公表。日弁連は何をやっているのかという小島准教授の声に対して、日弁連は規模が大きいのでなかなか動けず、では有志でやろうということで、3月13日には100名以上の弁護士による緊急声明が発表。同日、日本学術会議有志による意見書も公表。これらは著作権法だけではなく表現の自由や刑事手続などの問題も指摘していたことが重要であるといいます。

ついに国会提出見送りへ

 どっちに転ぶか全くわからない状況、3月13日の文化部会と知財戦略調査会の合同役員会にて、著作権法改正案の国会提出見送りが決まったとのこと。これを朝8時に電話で聞いたものの、ここまで何度も二転三転しているので、本当かどうか確信が持てなかったといいます。朝9時の朝日新聞の号外など各メディアが報じ、赤池議員もインタビューに答えており、本当に止まったと信じたそうです。

 ただし同日、産経新聞は「次期臨時国会に向け再検討」と書いているため、参議院選挙後に同様の法案がゾンビのように再登場する可能性もゼロではないとしています。

公明党が決定済みだった

 この自民党の議論の終盤における問題の厄介な点は、公明党だったといいます。

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 古川議員から教えてもらったところによると、なんと、実は公明党は自民党に先んじて了承していたとのこと。法基小委取りまとめの翌日の2月5日、公明党が与党審査を行っていたとのことです。2月4日までに取りまとめたいと文化庁事務局が焦ったのは、もしかすると5日に公明党の与党審査があったからかもしれないと小島先生は推測します。その後になって自民党で揉め始めたので、公明党から見ると「一体何が起きてるのか」となったそうです。

 自民党でいう総務会に相当する公明党の中央幹事会も了承していたので、国会見送りが決まった後、「自民党の岸田文雄政調会長から3月13日に電話で『公明党の手続きが終わっているのに、(見送りとなり)申し訳ない』と伝えた」と産経新聞が報じています。

今回の攻防の教訓

 まず研究者が研究面で果たすべき役割として、私的使用のための複製(著作権法第30条)などについて理論的検討が不十分だった、本来は、将来問題になりそうな事柄については研究し、社会で問題が起きた時に指針となる情報を提示することも研究者の仕事だといいます。

 次に研究者が審議会員として果たすべき役割について、多様な意見が入力されることが重要なので、「平時」においては特定の政策の方向性を志向すべきではない、本来は国会議員への働きかけも禁じ手であるといいます。しかし今回のように官庁が相当数の審議会構成員の意見を反映していない報告書を作成し法改正を志向する「有事」においては、違う振る舞いをすることを問われるとします。

 また、著作権法というわかりにくい法律について、負の影響を当事者にどう伝えるのかの難しさを痛感したとのこと。

 一億総クリエイター、生涯学習、イノベーションの民主化が進む現代社会において、当事者はもはや一部のクリエイターだけではない、多くの国民の関わるものだといいます。

 著作権法の政策形成過程。多くの国民に関連する事柄ではあるものの、立法府を構成する国会議員から見れば、自らの選挙区からは程遠い問題であり、著作権法の課題に一生懸命取り組んでも選挙の再選には繋がりにくいという問題もあるとします。つまり、今回のように真摯に考えてくれる国会議員の動きによって著作権法改正を阻止できたのはあくまで「幸運」であり、このプロセスを常には期待すべきではない、としました。

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 著作権法が国民みんなに関係する法になっているものの、一般条項型の権利制限規定(フェアユース)には非対応の日本の著作権法。過剰規制を防ぐにはどうすべきか。そこが問われているのだとします。

質疑応答

 ウイルス罪に関し、プログラマーにとって切実な問題、受益者が薄く広くいるという状況、どう戦ったら良いのかという質問。これに対し、審議会の前田先生や生貝先生の動き、古屋先生の動きなど、これらが続いたからうまく止まったとし、どんな問題であっても連帯や声を上げ、メディアの力を借りる、数の力、最終的には国会議員といったレバレッジが重要、馳議員に面会を取り付け5分で説明できるよう資料を準備したことを挙げ、泥臭いことをやるしか無いのではないかとの回答でした。

 また、審議会でのプロセスについての質問に関連し、結局、違法ダウンロード拡大問題の黒幕は誰か?誰が裏で糸を引いていたのか?これはわからないとしつつも、着地点が予め決められており、文化庁がこれに突っ走ったのは事実だろうと評します。

 違法ダウンロード拡大と阻止から学ぶべき点や考えるべき点が非常に多かったと改めて感じます。

2019年6月16日23時58分訂正:初出時、パブコメに関する記述で、534件の全てが批判的かのようなニュアンスの箇所がありましたが、該当部分をより正確な「違法ダウンロード拡大に関するもの」で、「多くは批判的だった」という表現に訂正いたしました。