製品のアフリカ市場ローカライズと、超低価格を武器にアフリカ携帯電話市場で圧倒的なシェアを誇る、中国・ 伝音。
4月27日に公表された2021年度と今年第1四半期の決算報告によると、伝音HDの今年Q1の営業収入は110.55億元で前年同期比1.75%減、株主に帰属する当期純利益は7.96億元,前年同期比0.7%減となりました。
伝音は広東・深圳に本社がありますが、中国国内携帯電話市場での競争を避け、こっそり海外で大儲け、従来型携帯電話でアフリカ市場での足場を固めました。 中国国内でA株上場後、アフリカ市場での「美黒撮影機能」や「4連装SIMカードスロット」といったローカライズ戦略の成功が、中国国内でも語られるように。
市場での足場とローカライズ能力を武器として、 伝音はアフリカ携帯電話市場のスマホへの転換を主導。 伝音のアフリカスマホ市場シェアは47%に上り、20%で第2位のサムスンを大きく引き離しています。
しかし、 伝音は現状に満足していないようで、携帯電話ハードウェアに続いて、インターネット産業でも攻勢をかけようとしているようです。中国「鳳凰網科技」の記事をもとにお伝えします。
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南アジア市場、家電製品へも手を広げる
伝音の業績は、アフリカ市場での業績と強く結びついています。昨年第4四半期、アフリカ市場のスマホ出荷台数は前年同期比7%減となりましたが、 伝音の出荷台数もほぼ同じ。
2021年度の業績で見ると、 伝音の成績はまずまず安定。営業収入494.12億元で前年同期比30.75%増、株主に帰属する当期純利益39.09億元、前年同期比45.52%。ところが、収入構造を見ると、成長分はほとんどがアフリカ以外の市場で、アジア業務の営業収入はすでにアフリカ市場よりも多くなっているようです。
伝音はとくに南アジア市場で猛攻をかけています。パキスタンスマホ市場シェア40%以上で首位、バングラデシュでは20.1%で第2位、インドは7.1%で第6位といった具合。
携帯電話のグローバル市場が飽和の時代に突入しており、成長が大きい新興国市場でも、激烈な競争が展開されています。シャオミ、OPPOもアフリカ市場に進出を始めているほか、一方の 伝音もパキスタン、インドで中国勢との交戦を開始。
携帯電話市場の頭打ちを目前にして、 伝音はほかのハードウェアにも力を入れています。2014年にデジタルアクセサリーブランドOraimo、2015年にミドルレンジ・ハイエンド家電ブランドSyinixを設け、2019年からは家電業務で多ブランド戦略を採用、入門家電ブランドitel、Infinixを新設し、スマートテレビ業務の準備も進めています。
携帯電話同様に、 伝音の大多数の家電製品もハイコスパを売りにしており、低価格でもって市場を拡大。製品力でもローカライズイノベーションを継続。例えば、アフリカは電圧が安定しないため 179V-265V対応エアコンであるとか、アフリカの猛暑に対応して冷水浄水器つき冷蔵庫などがあるそうです。
アフリカ家電市場のこれまでと課題
アフリカの家電市場は、これまで2度の主要ブランド交代がありました。最初は、1990年代から2010年頃までの間、韓国メーカーがハイコスパで市場の80%を握っていました。2010年頃から2017年までは、海星、TCL、美的、創維といった中国勢が海外進出に乗り出し、やはりハイコスパ戦法で韓国メーカーをシェア10%程度まで追いやりました。
ところが多くの中国メーカーはアフリカ市場をあまり重視しておらず、かつハイコスパ路線も貫徹しなかったため、中国メーカーがアフリカ市場を占領するには至らず、群雄割拠の情勢に。中国ブランドのアフリカ市場でのシェアはたったの15%、サムスン、LG、ソニーで合計10%、残りの70%は現地の中小メーカーといった状況。
サプライチェーンの面では、比較的経済発展しておりマクロ的市場環境も比較的安定しているエジプト、南アフリカ、ナイジェリアを除き、ほとんどのアフリカ国家の家電製造業は上流原材料サプライヤー不足で整備されておらず、これも 伝音が家電分野参入にあたり直面している難題。
決算報告によると、家電を含むその他セグメントは2021年に少し伸びたものの、営業収入に占める比率はまだ4.7%。アフリカ諸国が全体的にインフラが十分に整っておらず、サプライチェーンが完結しないことからも、 伝音の家電業務は短期間で目覚ましい発展を、というわけにはいかなそうです。
伝音は家電だけでなく、中国企業の発展経験をもとに、ソフトウェアにも力を入れ始めています。
中国大手との提携経験をひっさげて音楽配信サービスに参入
「黒人は呼吸までリズムをとる」と言われるアフリカユーザーの嗜好から、 伝音は音楽アプリ「Boomplay」を重要な切り口として位置付けています。3カ月でダウンロード数10万を突破。
当初、経験のなかった 伝音はネットイースと共同出資で会社を設立し、 伝音はネットイースクラウドミュージックが国内市場で取得した音楽配信権が少なかった教訓を吸収しました。
(豆知識:中国市場ではネットイースとテンセント、アリババなどの音楽ストリーミングサービスが「独占配信」の争奪戦を展開、テンセントが優位、ネットイース劣勢、アリババ撤退といった情勢になりましたが、最近中国政府が「お前ら独禁法なめんなよいい加減にしろ」とブチ切れて、独占契約が原則禁止されました)
Boomplayのビジネスモデルは、ストリーミングもダウンロードも基本的に無料、広告で収益化し、課金ユーザーは広告が出ない仕組み。正規版音楽を提供するとともに、アフリカのミュージシャンに許諾料を分配することで貢献。
Spotify、Apple Musicが普及しない市場にこそ勝機あり?
アフリカの音楽ストリーミングは発展段階にあるとはいえ、企業にとっては「博打」になるとか。海賊版天国(中国も今では取り締まりがクソのつくほど厳しくなりました)の市場、しかもインフラ設備が薄弱で、パケット単価が非常に高く、収入の少ない一般庶民は小さくない負担となり、これがSpotify、Apple Musicに勝つカギになるといいます。
アフリカは依然としてインターネット空白地帯のあるブルーオーシャン市場ではありますが、インターネットがある場所も、速度が不安定か、料金が高額なため、多くの人にとってストリーミングサービスはぜいたく品という位置づけ。
大手グローバルサービスは、アフリカ市場にうまく適応できていない様子。Spotifyは南アフリカで6アカウント月額5.35ドルの家族割プランを投入しましたが、これでも大多数のアフリカユーザーにとって高すぎるようです。
現在、 伝音のBoomplayはユーザー数2.1億、月間アクティブユーザー数6800万人でアフリカ市場首位。ユーザー数は多いものの、収益化はまだ道半ば。Boomolayの幹部によると、アフリカのオンライン決済の普及率はまだ低く、海賊版への対応もまだまだ進んでいないところ。
Baidu人材加入でインターネット事業のテコ入れ
Boomplayのほかにも、 伝音には一日当たりアクティブユーザー数3000万、「アフリカのTikTok」・Vskitがあり、本家TikTokと競争を繰り広げています。
さらに、 伝音はポータブルサイトScooperも展開しているほか、テンセントとの提携でブラウザPhoeniをリリース。しかしこの2つの分野では、これまた中国企業崑崙万維のOperaとOpera Newsが市場の大部分を握っているようです。
アクセス数とチャネルは組みあがってきていますが、ところがまだ収益化はできていません。信達証券の予測によると、昨年3四半期の間、伝音のアフリカ地区モバイルインターネット業務の営業収入は1.3億元、総収入の1%にもなりませんでした。
ソフトウェアの収益化問題解決へのテコ入れとして、今年1月、百度の前高級副総裁を招いてモバイルインターネット事業部総裁に据えました。3月にはモバイルインターネット事業を 伝音グループの三大戦略の一つに位置付けたとのこと。決算報告によると、昨年、モバイルインターネット業務の営業収入は5.1億元となりましたが、広告収入の占める割合は16%にすぎず、広告収入の底上げがカギになりそうです。
総評
「アフリカ携帯電話市場の王」で満足することなく、南アジア携帯電話市場、アフリカのインターネット市場、音楽配信と、次々と新たな手を打っている中国 伝音。
今後、シャオミやOPPOのアフリカ市場での展開が進むと、開発技術力ではとても太刀打ちできないのではともささやかれていましたが、先手を打ってソフトウェアでもシェアを握ってしまおうという考えでしょうか。