Intelは、ノートPC向けのCPUであるCore Ultraシリーズ2を発表しました。直近のノートPC向けCPUとは少し違い、少ないコアで高い性能を出しつつも消費電力を抑えた製品となっています。この記事ではCore Ultraシリーズ2の特徴をかんたんに解説します。
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概要
IntelはPC向けCPUのCore iシリーズを昨年より改称。現時点ではノートパソコン向けCPUのみを、高い処理性能やAI性能を持つ最新鋭のモデルを「Core Ultra」シリーズ、安価なモデルを「Core」シリーズへ改称し販売しています。
なお、全モデルがCore iシリーズからCoreシリーズに変わったかと言われればそうではなく、デスクトップ向け、およびデスクトップ向けCPUをベースとして高い性能を発揮する高性能ノートPC向けのCPUでは「Core i」の名称を現在も冠しています。
主な特徴
「Core Ultra シリーズ2」という名前にもある通り、今回のCPUは改称後2世代目にあたるモデルです。先代Core Ultraもかなり多くの改良がありましたが、今回はそれ以上に多くの変更点があります。できるだけ分かりやすく説明します。
コア数が大幅削減。HTTも廃止し、ArmベースCPUみたいな構成に
Core Ultraシリーズ2の最大の特徴は、近年のノートパソコン向けCPUで起こっていた多コア戦略のリセット。
初代Core Ultraシリーズは、最大で高性能なPコアを6基、低消費電力なEコアを8基、そしてほかのCPUとは別の場所に配置された低電力Eコアが2基と、最大16コア22スレッドを搭載していました。
しかし、現時点で発表されているCore Ultraシリーズ2はPコアにLion Cove、EコアにSkymontを採用し、全モデルで4P4Eの8コア構成になりました。さらに、1コアで仮想的に2コアを実行するHTTを廃止。これの影響に関しては次の項で説明します。
マルチ性能は基本低下するも、ノートPC向けだと考えれば悪くない
Core Ultraシリーズの初代と比べて、今世代はコア数が半減し、ハイパースレッディングという概念は消失しました。普通に考えれば、複数のCPUをフルで活用するようなマルチ性能は大きく下がってしまいそうなところです。Intelもそれを一部認めていますが、それでも多くの場合で性能が向上したとアピール。
それは消費電力を制限したとき。ノートパソコン向けCPUは、メーカーの思想によってCPU全体の消費電力を調整できます。これは、例えばメーカーが超薄型で熱処理に余裕がないPCを作ろうとした際などに活用できるもの。
ブランディングやデバイスの性格によって自在に設定できるのは良い点ですが、一方でユーザーが求める性能がデバイスに備わっているのか図りづらいという問題はあります。
話を戻すと、SoC全体で利用する電力を23Wに設定した場合、先代の16コア22スレッド搭載モデル(Core Ultra 7以上)と比較して、8コアのCore Ultraシリーズ2のマルチ性能は6%劣ってしまう一方で、電力を17Wに設定すると同じCPUよりも10%高いマルチ性能を実現できるとのこと。
また、Qualcommが発表したArm製のPC向けSoCであるSnapdragon X EliteのX1E-80-100よりも40%弱低い電力で同等以上のマルチ性能を実現できるとしています。
ノートパソコンはデスクトップPCと違い、ただやみくもに性能や消費電力だけ上がればよいというものではなく、バッテリー持ちや熱問題が顕著に絡みつきます。
パワーを出しても消費電力が低く抑えられるのは、駆動時間や排熱などの理由から歓迎すべき。そういう意味で、先代モデルよりも日常の使い勝手が向上したと言えます。
シングル性能は競合より大幅に高いとアピール
シングル性能も順当に進化したとしており、また他メーカーの競合製品よりも高速であることを強調しています。
PC向けベンチマークとして不動の地位を築いているCinebench R24でのスコアは、Arm製SoCのSnapdragon X Elite(X1E-78-100)より20%高く、また最も強く競合しているAMDのRyzen AI 9 HX 370よりも16%ほど高い性能を実現しているとしています。
内蔵GPUとして世界最高をアピール、ゲーム性能も大きく向上。
近年の内蔵GPUはPCゲーミング需要の高まりにより、かなり大きく性能が向上。ある程度の3Dゲームでも動作するようになってきました。
Core Ultraシリーズ2の内蔵GPUにはXe2(正式表記はXe2)アーキテクチャを採用。Core Ultra 7/9ではIntel Arc 140Vを、下位ではIntel Arc 130Vを搭載しています。
新世代のGPUを内蔵したことにより、競合製品はもちろん先代モデルに比べて非常に大きく性能が向上したことをアピール。
多数ゲームのリフレッシュレートから平均を算出して比較すると、今回のCore Ultraシリーズ2では、初代Core Ultra 7 155Hと比べて31%向上したとのこと。
また、直接の競合であるRyzen AI 9 HX 370よりも平均リフレッシュレートは16%、さらにSnapdragon X Eliteよりも68%高かったとしています。
とはいえ、Snapdragon X EliteはArmアーキテクチャ向けに最適化されたゲームが少なく、計測したうち23のゲームで動作すらしなかったとのこと。まだまだ時間が必要そうです。
メモリ一体化。さらば8GB
これも大きなニュース。Core Ultra シリーズ2ではメモリをパッケージ内に内蔵してしまうことにより、高いパフォーマンスを発揮します。PS5やApple SiliconのUMAの流れに乗るような形ですね。
最上位のCore Ultra 9 288Vを除き、すべてのモデルで16GBと32GBのメモリを搭載したモデルを用意。
Core Ultra シリーズ2が搭載されたPCを選ぶことにより、すでに作業が厳しいものになりつつある8GBメモリを自然に回避することができます。
現在のノートパソコンのメモリは取り外せないものが多いものの、依然としてThinkPadなどの一部モデルではメモリの交換増設に対応しています。しかしCore Ultra シリーズ2の搭載によって、これまでメモリの交換増設に対応していたモデルの後継機で、交換が行えなくなる可能性はありそうです。
モデル名末尾の英字は「V」に統一。カオスが訪れるかも
今回登場したCPUは計9モデル。先代やさらに前のモデルと比べて大きく数を減らしていますが、将来的にメモリを増量したモデルなどが登場する可能性もあるようです。
先代やさらに前のモデルでは、ノートPC向けCPUは消費電力によって型番末尾の英字が異なっており、Core Ultraシリーズ内では高性能なHシリーズと消費電力の少ないUシリーズに分けられており、そしてUシリーズは消費電力を型番1の位によって見分けることができました。
しかし、Core Ultra シリーズ2では全モデルが末尾に「V」を冠し、消費電力ごとに分けないように。その代わりにベース電力を変更できるようにしています。最上位のCore Ultra 9 288Vのみが30W/17W、その他モデルは17W/8Wで調整でき、これで以前のHシリーズとUシリーズの両方をカバーできます。
これはユーザーにとってはすこし混乱する問題を引き起こしかねません。物理ファンを搭載しないタブレットや超薄型PCは、熱処理の問題から低いベース電力のCPUを搭載します。当然ながら性能はそれだけ下がりますが、Core Ultra シリーズ2ではベース電力をメーカーが調整できることにより、一目で性能が抑制されているのかどうかが分かりづらくなってしまう危険性が。また、メーカーがより自由に性能を設定できるため、Web上の性能評価を当てはめづらいという問題も発生しそうです。
消費電力をSnapdragon以上に低減、バッテリー持ちを大幅改善
スマートフォンや小型デバイスに搭載することを前提に設計が行われたArmベースのSoCは、PC向けのx64アーキテクチャよりも消費電力に優れているとされており、いずれはMacのようにx64アーキテクチャからの世代交代があるという声もありました。
しかしIntelはx64でもしっかり戦えるといわんばかりに、そのArmベースSoCであるSnapdragon X Eliteに匹敵するバッテリー駆動時間と消費電力を実現すると自信ありげにアピールしました。
まずは消費電力について。先代のCore Ultra 7 165Hを100%として、Core Ultra 9 288V、そしてSnapdragon X Elite(X1E-80-100)を比較すると、Snapdragon X Eliteは49%の低減を実現している一方で、Core Ultra 9 288Vは53%もカットできたとのこと。
また消費電力が少ないということは、必然的にバッテリー持ちが良くなることを意味しています。Officeアプリケーションを動作させて計測するバッテリーベンチマークでは20時間の駆動を達成。一方でTeamsを利用した会議ではSnapdragon X Eliteが大きく優っています。
また、Core Ultra 9とSnapdragon X Elite、そしてAMD Ryzen AI 9 370 HXを比較しているのが以下の画像。画面の大きさが14インチから16インチと同条件にそろえられていないことが気になりますが、頭一つ抜けた駆動時間を実現しているとアピールします。
もちろん、これらの駆動時間はIntelの大本営発表に過ぎず、Core Ultra シリーズ2に有利なようなルールが設定されている可能性も否めません。実機での検証を待ちたいところです。
販売開始日
Core Ultra シリーズ2はすでにノートPCメーカーなどに対して出荷が行われており、9月24日から搭載したノートパソコンが登場する見込み。
ASUSやLenovo、HPやmsiなどの巨大なメーカーはもちろん、GtuneやDAIV、mouseブランドを持つマウスコンピューターや、パソコン工房を運営しiiyama PCを生産するユニットコム、Dosparaを運営するサードウェーブといった日本企業も名を連ねています。また、80以上のデザインのノートPCが登場するとのこと。