Appleは6月3日(現地時間6月2日)にカリフォルニアで開催したWWDC14において、iOS 8を正式発表した。その中で開発者へのAPIを4000追加したことを発表。より自由なアプリ開発が可能となった。
特に注目に値すべきは、共有やウィジェットなどを開発者に開放したことにある。従来各アプリケーションは隔離されて動作していたが、その橋渡しが増え、アプリ間の連携が強化される。たとえば特定の限られたアプリしか共有できなかったものが、iOS 8では容易に他のアプリに共有できたり、開発者が適切なアクションを追加することができる。
Androidでは、このようなアプリ間連携機能(インテント)をかなり初期段階から実装しており、iOSよりもAndroidを使いやすいと感じているユーザーは、この部分に惹かれている人も多いのではないだろうか。
また、情報をすぐに閲覧できるウィジェットがホーム画面に置けることも、Androidの美点としてしばしば語られる。今回の発表によれば、ホーム画面上でこそないものの、iOS 8では通知バーに設置可能なウィジェットを、開発者が自由に開発できるようになっている。Androidでは定着した有用な機能だが、iOSの文化ではどのように受容されていくのだろうか。本家のAndroidをも超える、素晴らしいウィジェットが多数登場することを願いたいものだ。
また、普段からiOSのIMEにストレスを感じているユーザーにとって最大の朗報は、サードパーティ製のキーボードアプリを利用可能になることだ。
日本語入力の変換の精度の低さ、細かい使い勝手の悪さについてよくコアユーザーから非難の声があがっているが、必ずしもこうした事情は日本特有のものではない。あらゆる言語で、各個人に、適切な入力方法というものは存在する。特に英語圏では、文字をなぞるだけで、優れた変換精度で文章を入力する、Swype入力方式が支持を集めつつある。これは日本語入力で言えばフリック入力のような、英語圏における革命的な文字入力方式として受け入れられているが、従来のiOSではこのSwype方式のキーボードを使うことはできなかった。国内外を見ても、標準のIMEで満足しているユーザーばかりではないことは明白だ。もちろんAndroidは、言うまでもなくIMEを自由に入れ替え可能だ。
日本では、ワープロからPCまで、プロユースにも耐える日本語入力ソフトをジャストシステム社がATOKにて提供しており、これはAndroidでも販売されている。しかしiOSでは、キーボードが開放されていないことから、ATOKはただのメモアプリというお粗末な状況があった。しかし今回の発表を見る限り、こうした状況が改善される可能性が高い。
GoogleはAndroid向けに、インターネットに慣れ親しんだ日本のユーザーにはありがたいIME「Google日本語入力」を提供しているが、こちらも圧倒的な語彙力に定評があるものの、iOSへの提供には至っていなかった。こちらの登場もあわせて切望したいところだ。
さて、はっきり言って、キーボードや共有、ウィジェットの解禁といったものは全て、所詮Androidの後追いでしかない。しかしAndroidを強力に支持するコアユーザーたちが、その支持理由として挙げる部分を、ピンポイントで狙っていることも確かだ。今回のiOS 8の発表冒頭部分でティム・クック氏は、マルウェアの蔓延するAndroidからiPhoneに乗り換えたユーザーが多いと強調していた。
プレゼン中の社外製のキーボードの動作デモにしても、セキュリティに強く配慮する場面が見られ、動作やセキュリティを優先する「Apple流」のこだわりが垣間見えた。AndroidのキーボードソフトShimejiが、入力した文字列などを中国のサーバーに無断で送信していた問題などは記憶に新しく、そのような問題でAndroidのセキュリティに危機感を持ったユーザーの心を、射止める効果もあったと言えるのではないだろうか。
自由だがマルウェアの蔓延するAndroidと、不自由だがマルウェアの脅威に晒されることなく、徐々に自由が拡大していくiOSの対比が、鮮明になった形だ。
筆者は、発売日にiPhoneを購入してはいるものの、結局のところはAndroidスマートフォンをメイン機に据えているバリバリのAndroidユーザーだ。しかし開発の盛り上がりによっては、iPhoneをメイン機にするのもやぶさかではないと、WWDC14を見て強く感じている。今回のAPIの開放を受けて、iOSデバイスがどのように盛り上がっていくのか、1ユーザーとして楽しみながら見守りたい。