中国ハイテク警察解体新書1:基礎から始める人民警察

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 プライバシー無視のハイテク捜査を得意とする、中国の人民警察。情報のリンクなど、なぜあんなにも捗るのか?その理由は、法的な権力の強さと、警察行政範囲の広さにあります。

 シリーズ全体で中国人民警察のハイテク捜査や監視社会を解説するにあたり、まずこの記事では、中国の警察制度についてご紹介したいと思います。

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中国の警察の任務

中国の憲法

 最初に中国における「治安維持」の位置づけについて、中国の主要な法律から紹介します。

 まずは国家の最高法規、憲法から簡単に。中華人民共和国憲法は幾度も改正を繰り替えされてはいますが、旧ソ連の1936年スターリン憲法を基礎としており、西側諸国の憲法とは、国家政権の位置づけが根本的に異なります。中華人民共和国憲法には、国体について以下の規定があります。

第一条 中華人民共和国は労働者階級の指導する、工農聯盟を基礎とした人民民主独裁の社会主義国家である。社会主義制度は中華人民共和国の根本制度である。いかなる組織或は個人も社会主義制度を破壊することを禁止する。

  中国の憲法解釈上、「労働者階級」は労働者階級の前衛党である「中国共産党」と読み替えられており、共産党による独裁は、憲法第一条により明確に規定されています。よって、治安関連法規上登場する「国家安全」の「国家」は、当然に「中国共産党政権」を指すわけです。「憲法は人民の勝ち取った権利を記すもの」というような発想はありません。

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 治安関連についても、憲法において次のように規定されています。

第二十八条 国家は社会秩序を維持し、叛国(国家叛逆)とその他国家安全に危害を与える犯罪活動を鎮圧、社会治安への危害及び社会主義経済の破壊とその他犯罪活動を制裁、犯罪分子を懲罰及び改造する。

  以上のように、国家叛逆者の鎮圧と、社会治安に危害を加える者への制裁は、国家の任務として憲法上明記されています。「改造」というと「なにそれ怖い」という感じがありますが、日本では「矯正」という表現を使用しており、言っていることは同じですね。

日本の警察法

 次に「人民警察法」における警察の任務に関する規定を紹介しますが、その前に、比較対象として日本の警察法を見てみましょう。

第二条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

 以上、日本の警察法では「その他公共の安全と秩序の維持」によって、大抵の行為を「正当業務行為」として合法化可能な立て付けになっています。便利ですね。

中国の人民警察法

 一方、中華人民共和国人民警察法はどうでしょうか。なお、中国では「公安」と「警察」の呼称が混用されていますが、「公安機関を警察と呼称する」と理解すればいいでしょう。

第二条 人民警察は、国家安全の維持、社会の治安秩序の維持、公民の人身安全、人身自由及び合法財産の保護、公共財産の保護、違法犯罪活動の予防、制止と懲罰をもってその任務とする。

 概ね日本の警察法と大差ありませんが、公共の安寧秩序にかかわる条文が筆頭に掲げられているのが、目を引く点でしょう。それと「懲罰」ですが、これについては、捜査に加えて、「治安管理処罰法」において、刑事処罰には至らない好ましからぬ行為について、公安機関が行政拘留或は罰金の治安管理処罰を下すと定められています。調書が出来上がるのと同時に処分が執行される、スピード感あふれる制度です。

 例えば、旧日本軍のコスプレをすると、治安管理処罰法に引っかかります。注意しましょう。

警察行政の範囲

警察の部局

 警察を主管する官庁、国務院公安部の組織及び各部局の任務については、1998年8月11日の国務院弁公庁通達、「公安部职能配置、内设机构和人员编制规定」により定められていますが、現在の部門名は明らかにされているものの、当該通達の全文は非公開となっています。情報開示もクソもありません。第一、部局によってはそもそもホームページがありません。

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 では、どのような部局があるのでしょうか。公安部では、「一局」、「二局」というように、部局の通し番号がふられているので、主な部局を見ていきましょう。

公安部一局(日本でいうと公安)

 まずは一局、国内安全保衛局 。名前からして強そうですね。日本でいえば、警察庁警備局に相当する部局です。所謂「公安警察」というやつですが、中国の国内安全保衛局は略して「国保」と通称されています。中国語では「国保」と「国宝」の読みが同じため、「パンダ」という隠語もあります。

 参考までに、1994年3月24日の国務院弁公庁通達「公安部职能配置、内设机构和人员编制方案」(国办发[1994]45号)に規定されている、前身の「政治保衛局」の職掌を見てみましょう。

 敵情と社会の政治動向を掌握する。

 反革命とその他国家安全に危害を加える事件、反動宗教団体と非合法組織、違法出版活動、国際テロ組織、域外(国外及び香港、澳門、台湾)反動勢力による浸透活動、宗教を隠れ蓑とした犯罪活動、民族分裂活動及び「心理戦」破壊活動について、調査研究、情報資料を収集、対策を立案し、業務指導を強め、厳格に偵察及び制御する。

 香港、澳門の警察当局と社会情況の調査業務を負う。業務上の便宜のため、当該局は必要に応じて対外的に「公安部台港澳弁公室」の名義を使用すべし。

 はい、やはり凄そうですね。とても中二病的な心をくすぐられます。なお、「反革命」や「反動」については、1997年の刑法改正時に「反革命罪」が「国家政権転覆罪」に改められ、99年の憲法改正でも「反革命」の文言が削除されたため、現在は表現が改められているはずですが、基本的な任務は変わらないでしょう。

 ちなみに「反革命罪」とはブルジョワ革命後に登場した概念で、多くの国家では「内乱罪」と規定されています。中国で「反革命罪」の名称が改められた理由は、外国政府との司法協力上の必要からだそうです。たしかに、「反革命罪容疑者の引き渡し要求」とか、ちょっと引きますね。

公安部三局(日本でいうと生活安全局)

 次に、治安管理局(三局)。各地にある派出所を管理指導している部局で、日本でいえば、警察庁生活安全局に相当します。

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(江蘇省蘇州市某所の派出所)

 「派出所(交番)」のイメージからすると、「ずいぶん大きいな」という感じがしますが、大きな違いは、戸籍(日本では法務省)や居民身分証(日本では総務省)も公安部治安管理局が主管している点です。

 ここで、深圳市公安局のホームページを見て見ましょう。

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 今風のデザイン、「個人業務」と「法人業務」という区分がまずジワジワくるところですが、出生、転入届、出入国などの手続きがインターネット上でできるようになっています。

 日本だと「区役所に行く」ような用事が、中国ではたいてい派出所へ行くことになっています。つまり、住民情報は基本的に警察によって管理されています。捗りますね。

公安部六局(日本では法務省の入国管理局)

 なお、出入国管理(日本では法務省)も公安部出入境管理局(六局)の主管になっています。今年から外国人が中国に入国する際は指紋の登録が必要になりましたが、入国審査の際に、スマホの指紋認証登録のような形で、執拗に全ての指の指紋が読み取られます。

 何に使うのかと疑問でしたが、私も実際、観光地の受付で身分証の提示を求められ、パスポートしかない旨告げると、指を機械に当てるよう指示されました。すると、読み取った指紋から、私の個人情報が呼び出されるというシステムでした。外国人は中国公安部の管理する身分証はありませんが、その代わりに指紋を「生態身分証」のような形で登録して、個人情報をデータベース化しているようです。21世紀ですね。

 やはり、全てが警察管理だとかなり捗るようです。

公安部十一局(日本でいうと警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課)

 それと、やはり目を引くのは公共信息網絡安全監察局(十一局)でしょう。「網絡」とは「インターネット」という意味であり、要はサイバー警察です。「網監」と通称されています。

 インターネット上の犯罪活動全般を対象としており、コンピューターウィルス、ハッキングなどのほか、インターネット上のコンテンツ内容も摘発対象としています。「内容が低俗」などの理由で、けっこうフランクにブロッキングします。

効率的なハイテク警察、秘訣は権限集中

 「プライバシー無視」のハイテク情報収集・捜査で有名な中国警察ですが、技術力だけでなく、強大な権限が効率的な情報運用を可能にしている面も、無視できないでしょう。

 日本のマイナンバーカードとか、もう少し使い勝手がよくならないものでしょうか。

 次回から、より中国警察のハイテクぶりへと迫ります。次回の記事は「都市の一体管理システムについて」を予定しています。

編集部雑感
自由主義陣営の民主主義国家に住む我々からすると信じられないことばかりだが、国の成り立ちからして異なる中国だからこそ、社会の効率化が一気に押し進められたのは間違いない。諸々の弊害を考えれば恐ろしいと思いつつ、しかし(京都府警以外)サイバー捜査能力の低い日本警察には見習うべき部分もあるのではとも。あとどうでもいいですがキャプション画像の顔認証メガネを装備した中国女性警官は私が描きました。