どうなるモバイル業界。関連事業者パネルディスカッション
今年8月の菅義偉内閣官房長官「携帯電話料金4割下げられる余地がある」発言、回線と端末の販売分離、中古スマホ普及……と、大きく揺れる通信・モバイル業界。
MMD研究所とイオンモバイル共催による、来年、2019年の通信・モバイル業界についてのメディア向け勉強会イベントが、東京都江戸川区のイオン葛西店にて開催されました。
イオンリテール株式会社商品管理本部モバイル事業部の井関定直事業部長、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)取締役の島上純一CTO、アシュリオン・ジャパン株式会社新規事業開発本部の渓井亨本部長の3氏が、それぞれ事業者としての立場から意見を述べた、パネルディスカッションについてお伝えします。
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菅義偉内閣官房長官による「携帯電話料金4割下げられる余地がある」発言について
株式会社インターネットイニシアティブ・島上純一氏
島上純一氏は、「一消費者としての視点から考えると、4割値段が下がるのは大歓迎、素晴らしいということになるかと思います」としながらも、「実際にビジネスをやっていて、売価を4割下げられる余地があるというのは余程美味しい商売、普通こんなことはありえない」と、チクリ。「自由主義経済のなかで、政府の方から値段を下げろという圧力がかかることに関しては、非常に不思議だと思います」とも。
とは言え、「消費者にとって値段が下がるのは悪いことではないので、異議を唱えるつもりはありませんが、自由主義経済というのは競争によって値が下がっていくもの、そういった中で値下げの余地が残るということは、競争が活性化していないという証左なのかなという理解です」と、価格の競争原理が十分に働いていない面を、ある程度認めているようです。
「そういったなか、MVNOが導入され切磋琢磨していると理解しています。ある程度競争環境を作っていかないと、競争が成り立たないというなかで、MNO(docomo、au、SoftBankなど)が下げるとともに、MVNOもしっかり競争のできる環境をつくることで、よりよい移動通信市場ができていくのではと考えています」と、こちらは一般論。
「下げる余地」については、MNO事業者としての立場から、「総務省の研究会もあり、接続料について議論しているところではありますが、正々堂々と戦える環境を作っていただければと考えています」とのことです。
アシュリオン・ジャパン・渓井亨氏
続いて、端末のアフターサービスなども提供している、米国本社のアシュリオン・ジャパン・渓井亨氏。
「通信会社に下げる余地があるかは答えられないが、各種努力、圧縮をして財源を捻出する必要があり、MVNOにとっても厳しい戦いになるのではと思います」と前置きをしつつ、「それ以外にも施策が必要になってくると思います。そこは我々のサービスをご活用いただいて、消費者の方にサービスを提供することで寄与できるかなと思っています」と述べました。なんだか、話の方向性が見えてきたような気がしますね。
「米国でも、アフターサービスにお金をお支払いいただくような、日本とは違ってサービスに対して高い料金を支払ってもいいというお客様がいらっしゃいます」、「通信料金が下がったとしても、別のところに余地があるのでは」とのことです。
おそらく、平たく言えば「通信料金で稼げなくなるなら、サービスで稼げばいいじゃない」ということでしょう。事業者目線での方向性としては、「なるほど」と感じましたが、具体的に言えば、そういうオプションサービスがつくようになるのでしょうか。
イオンリテール・井関定直氏
続いて、小売、MVNO事業者の立場から、イオンリテールの井関定直氏。
「一言で言うとチャンスだと受け取っています。お客様目線、事業者目線ともにチャンスだと。お客様目線だと、これだけ菅さんが何度も何度もテレビで(料金が)下がるといい、実際に下がってきているわけですよね。お客様にとってはメリット、いいこと」、「事業者としては、やはり暗黙の認識として事実、高止まりしているというのは、あるかなと。それが下がる、競争環境が生まれる」と指摘。
「考えてみれば私達も2014年の増税時、新しいサービスを生み出すことに成功して、そこから事業成長につながりました。今回の増税のタイミング、今回の発言で、色んな環境があるなかで、通信環境が下がっていくんだ、という流れは、いいものを生み出していくチャンス」だといいます。
「格安スマホ」をアピールポイントとするMVNO業者としては、通信料金に注目が集まる環境というのは当然、攻めどころというわけでしょうか。
通信料金と端末代金の完全分離
次のお題は、行き過ぎた期間拘束の是正などの、「通信料金と端末代金の完全分離」について。
端末代が高くなる、過去にも似たことが(イオンリテール 井関氏)
最初に答えたのは、イオンリテールの井関定直氏。
「(通信料金と端末代金の分離については)やってますと。ただ、どうしても端末価格が高くなる、これは自明なのかなと。そうなったとき、不利益を受ける顧客層もいるんじゃないかなと。昔、同じことがあったわけですよね。端末が高くなって、自分も消費者として、買うのが嫌になった時期もありました。ある程度期間をコミットすることで、安くして欲しいというのニーズはある。どう対応するのか」と、いいます。
確かに、このテーマは良し悪しの話で、4年縛りとかは論外としていいと思いますが、キャリアによる端末代金の割引がないと、iPhoneは買わないという人は多いのではないでしょうか。とはいえ、結局割引は利用者の通信料金からお金が捻出されているわけで、差し引きするとどうなのか、というところから、不公平感もあります。
また、販売代理店としての立場から、「過去、同じようなことがあったときに、販売台数がガクンと落ちたんですよ。3割減くらい。適正価格はあるんだけれども、市場のニーズを阻害してませんかと」と、熱を込めてのコメントがありました。
高額な端末が売れやすい、という意味では意味のあるシステムだったようですが、その結果として日本市場でしか(或いは「ですら」)売れない、低パフォーマンス高価格ブランドを無競争のぬるま湯で甘やかしてしまった元凶なのでは、という気もします。
回線端末分離、導入背景への考察(IIJ 島上氏)
次は、株式会社インターネットイニシアティブ・島上純一氏から、「回線端末分離」の背景も含めたお話。
「消費者からすれば、わかりずらいですよね。すべての発端はここだと思います」、「セット販売だと、選びたいものが選べない、何故選べないか、合理的な説明がつかないのを改善してほしいというのはある」と指摘。
「一方で、販売施策上、縛りすぎるのもどうなのか。この問題は一言でいい悪いは言いづらい」、「やりすぎて、一部の人にしかメリットがない、というのでは意味がない。やりすぎたことの反動が出ているかも」とのこと。
分離で、端末の保証は物販事業者が?(アシュリオン・ジャパン 渓井氏)
アシュリオン・ジャパンの渓井亨氏からは、端末の保証という観点からのお話。
「回線端末販売分離は、これまでセットだったのがバラバラになる、そうすると通信事業者が端末を保証するというサービスを提供していたのが、必ずしも続くわけではない」、するとどうなるかと言えば、「物販している事業者が端末を保証する形へなる可能性はある」といいます。例えばイオンで言えば、イオンで販売している端末に関しては「どのキャリアの端末もイオンさんが保証するということにもなるのでは。端末の保証をキャリアが提供していたのが変わる可能性がある」とか。
「端末は端末」で購入するのであれば当然に見えますが、従来制度からの変化は小さくありませんね。
中古スマホ活性化について
次のテーマは、来年9月から中古端末を含めSIMロック解除が義務化されることも見据えた「中古スマホの活性化」について。
中古端末の品質の課題(アシュリオン・ジャパン 渓井氏)
「海外のケースで考えると、日本の消費者よりも中古に対する嫌悪感がなく、活発に流通しています。メリカリ以外でも個人間で売買したり、中古端末の買い取り下取りも日本より積極的」だとか。
また、国内についても、「今まで国内に流れていなかったものが、国内で流通する可能性も増えてくる」といいますが、「中古端末を安心して使えるようにどうするか?どういう品質なのか、消費者は外側から見えないので、バッテリーがへたっていてもわからない」と問題点を指摘しつつ、「事業者間で評価をバラバラでやるのではなく、国内のスタンダードをつくる。このグレードでこの価格、という統一された品質基準ができれば、消費者にとっても安心して買えるようになるのでは」といいます。
(もし仮に統一された品質基準を決める団体ができたとしたら、やはりアシュリオンさんも入りたかったりするんでしょうか?)
買い方・買い替えサイクル多様化(IIJ 島上氏)
「製品の寿命が長くなっている、モノが良くなって、いまは3年くらい経っても十分使えるので、そうすると、他のことにお金を使いたいというニーズも出てくることで、そういった方がMVNOのユーザーになっているという部分もあるといいます」、「1年前の端末を中古で買うという選択肢もいいのではないかと。以前は周波数帯が問題になったが、今ではどのキャリアでも使えます。消費者の選択肢が広がるのはいいこと」だといいます。
中古端末、予想以上の反響。(イオンリテール 井関氏)
中古端末の販売状況については、「初年度、予想以上の反響と売れ行きという印象です。売り方を、ショーケースに入れて比較的にきれいにやっているのもあって、お客様から不安みたいな印象はないです」とのこと。「今後、売り方をもっと良くしていきたい取り出してお客様に触ってもらってというのも考え」ているとか。「グレーディング(商品の格付け)やSIMロック解除も含めて、流通は活発になっていくかなと」、来年に向けて手応えを感じている様子。また、今後の展開についても、「中古端末は実績も出ているので、拡大していくつもり」だとか。
2019年の展望ですが、気になる通信契約を条件にした端末の値引きについて、イオンリテールの井関定直氏は、「総務省とのやり取りは、まだしているわけではない」としながらも、「どの部分までが総務省や消費者の『だめよ』なのか。どこまでならいいか。お客さんの反応を見て、2年契約なら端末がお求めやすくするなど、ここだなという線引き」を、「欧米の事例」などを参考にしつつ、模索しているとのこと。
おまけ:年末年始リツイートキャンペーン
ちなみに、年末年始のリツイートプレゼントのキャンペーン、「大盤振舞」についても発表があったので、ついでにご紹介します。はい、ワオンちゃんが手に持っていますね。
本日、イオン葛西店にて「どうなる!?2019年の通信・モバイル業界」と題した勉強会を開催!
勉強会の最後には28日からスタートする #大盤振舞 キャンペーンの概要を発表!
予告ページをアップいたしましたのでチェックしてみてください♪▼#大盤振舞 予告ページhttps://t.co/okficE1694 pic.twitter.com/l9vkoyMcfx
— AEON_MOBILE (@AEON_MOBILE) 2018年12月26日
……だ、そうです。現場からは以上でした。