2020年1月初旬、NTT docomoの実店舗「ドコモショップ市川インター店(兼松コミュニケーションズ運営)」にて、不適切メモ事件が発生しました。
メモはセールスシートであり、客を「親が支払いしてるからお金に無トンチャク(無頓着)」「つまりクソ野郎」と侮辱した表現でメモした上で、なので「Disneyベタ付け(=月額制動画サービス『ディズニーデラックス』を絶対付けろ)」や「いちおしパック」加入を部下に指示した内容。これを客に渡したことで発覚、炎上した事件です。
とんでもない話ではあるのですが、この店だけに限った問題なのでしょうか。
携帯キャリアのショップというのは、そのほとんどが直営店ではなく様々な代理店によって運営されています。
このドコモショップを運営していた兼松コミュニケーションズは、代理店としてドコモショップ以外にもauショップ、ソフトバンクショップ、Y!mobileショップも運営しています。
他の携帯キャリアのショップでは、他の代理店のショップでは、こういったことが起き得るのか?ショップでの不適切な販売を是正するよう総務省が介入して数年経ちましたが、販売現場の現状はどうなっているのか?
携帯ショップで5年勤務し、最近まで働いていた店員Aさん(仮名)にインタビュー取材を敢行しました。
Index
ドコモだけじゃない、店員が語る携帯ショップの「惨状」
クソ野郎メモ「起きるべくして起きた」「業務システムで指示する」
――まずは自己紹介をお願いします。(太字部は筆者、以下同じ)
昨年秋まで他キャリア、他代理店のショップで勤務していました。(店員A、以下同じ)
――早速ですが、今回の不適切メモ事件についてどう思いますか?
特に驚きは無いですね。起きるべくして起こった事件という印象です。
私のいた店舗では顧客対応に入る前に契約状況を一通りチェックしており、そこで得られた情報から「どれだけ商材提案の余地があるか」を判断します。
メモにもあった一括請求の子回線というのは、確かに「金に無頓着」という認識を持たれがちなので、毎月の支払いに高額なアクセサリ商品等を「割賦(分割払い)」で組み込むよう提案する指示が下されることも多いです。
ただし、そういった指示は業務システムを通じて対応するスタッフに渡されるので、紙ベースでやり取りしていたというのはアナログすぎてリスキーだなとは感じます。
――なるほど。オプション以外にもmicroSDなど副商材の販売手法の問題も取り沙汰されていましたね。こうした販売現場での問題は、やはり組織的なものと言えるわけでしょうか。
そうですね。3万円もするmicroSDカードをいかに上手く誤魔化して売りつけるかの技量が、スタッフの質として求められていたフシがあります。
キャリアからの評価指標を基に、商材獲得の達成率に応じて店舗ごとにS〜Dのランク分けがなされ、それによって支給される奨励金が大きく変動するのですが、ランク変動のボーダーライン付近にいる店舗はまさに死にものぐるいでオプションやアクセサリを提案していました。
保証のオプションなんかはほぼ100%の獲得が求められていたので、保証を付けたがらない顧客は「クソ」認定されてしまいます。ですので、これらの問題は明らかに組織的な体制が招いたものだと言えます。
最近はとってつけたように顧客満足度を重視するような方針を打ち出していますが、奨励金を稼ぐ手段と顧客満足度を高める手段が相反しているので現場は困惑するばかりでした。
「奨励金カット」「店頭デモ機配備せず」で追い込む
――ドコモショップの場合、指標を追えないと代理店上層部がキャリアに呼ばれて怒られ、評価によって営業権剥奪の可能性があるとITmediaは伝えており(記事)、キャリアから実質的にやるように追い込まれている実態もあるようです。Aさんのキャリア・代理店でもこうした実態はあったのでしょうか?
ほぼ同じだと思います。こちらのキャリアでは、エリアごとに店舗を担当する営業担当がおり、基本的に彼らが本部の伝達役になっていました。
キャリア側がプッシュする商材の獲得率が思わしくない場合は本部から叱責を受けた営業担当が、申し訳無さそうに各店舗に指示を出して回っていました。
営業権については、上記のランクでC〜Dに入ってしまうとほとんどの奨励金がカットされ、店頭展示のデモ機等も配備されなくなるといった厳しいペナルティが課される為、実質クビ宣告のようなものでした。
一時期のキャッシュバック合戦の中には、Cランク落ちを避けたい店舗が優良顧客から獲得したアクセサリ商材等の利益を原資にキャッシュバックの資金を捻出していたという話もありました。よってキャッシュバックも規制された今、顧客基盤の弱い店舗は潰れるのを待つのみです。
低賃金、インセ目当てで商材押し売りも
――これまでの話の中で携帯キャリアに問題があることがわかります。しかしこれらはキャリアと代理店の関係性です。販売現場の実感としてはどうでしょうか?オプションや副商材を売らないと「店員自身が」キツイということはありますか?
そこは代理店によって大きく変わってくる部分があるとは思います。
体育会系の代理店なんかは平気でコンプラ違反スレスレの販売(ろくな説明もせず高額アクセサリを割賦に組み込む等)を店員に強要したり、実績の低い店員には顧客対応に入らせなかったりすることもあったようです。
私のいた代理店はそこまでひどくはありませんでしたが、それでも、顧客のニーズに合う合わないは関係なくとにかく数字を挙げなければいけないという風潮はありました。
商材をまんべんなく提案しろと言われますが、取り扱う商材がどんどん増えていくので当然対応時間も長くなり、どの店員も疲弊しているのは目に見えて明らかでした。中にはあまりにもアレやコレやと提案されるせいで疲れたり、怒ってしまうお客様も少なくなく、それを気に病んで休職や退職してしまう店員も少なからずいました。
あとインセンティブですね。基本の給与がとても低く、また昇給の見込みも少なかったので、インセンティブや残業で稼がないとまともに生活できませんでした。
私自身、インセンティブ欲しさにインターネット商材等を半ば無理矢理売りつけたこともありました。
――「インセンティブ」と「インターネット商材」について少し詳しくお願いできますか?
商材ごとに、獲得に応じてインセンティブが設定されていました。
例えば携帯キャリアの光回線サービス契約を成約させると3000円、クレジットカード獲得10枚ごとに1000円、といった感じです。給与に上乗せされます。これは私のいた代理店独自のものでしたが、似たような制度を採用している代理店は多いと思います。
インターネット商材は、携帯キャリアの光回線以外にも、ケーブルテレビや他社の光回線の契約も含みます。あらゆるインセンティブの中でも、インターネット商材獲得によるインセンティブが一番高額でした。
――なるほど。インセンティブは少なくとも退職直前まで存在したわけですか?
ありました。ただ5年ほどの勤務の間に、目に見えてその額は減っていっていました。入社当初と比べて退職時は半分〜3分の1くらいしか貰えなくなりましたね。(店員Aここまで)
総評
以上インタビューでした。やはり携帯ショップの惨状はドコモショップに限らないようです。
以前は携帯キャリアが高い通信費を原資に機種を安く叩き売るため下に金が流れる仕組みがありましたが、総務省がここにメスを入れ、現在は携帯3社以外の選択肢も増えてきたわけですから、以前ほど携帯ショップで機種が売れるわけではないはずです。
金の流れを握る携帯キャリアがお金を下ろさないのに、過酷な販売目標だけは依然として強い続けているというミスマッチが浮き彫りとなりました。実情に合わせて、端末販売や商材以外の接客やサポートなどでも評価するよう仕組みを改める必要があるでしょう。
そして代理店のブラックな状況も改善する必要がありそうです。数字やインセンティブのために押し売りをしなくても良いよう、給料を上げてホワイトな職場環境にすることで、現場の店員も心に余裕を持って接客できるのではないでしょうか。