ここが無根拠、非科学的。スマホやゲームを規制する「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を点検 すまほん!!

 香川県議会で「ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定しようとする動きがあります。これは18歳未満によるスマホやPCなどでのゲームやネット利用を制限する内容です。

 この条例に関して科学的見地から専門家が見るとどうなのか?「ネット・ゲーム依存症対策条例について考える講演会」を2月9日、うぐいすリボン、エンターテイメント表現の自由の会、コンテンツ文化研究会が文教シビックホールで共同開催しました。講演したのは社会学・精神医学を専門とする井出草平大阪大学非常勤講師。

 井出草平先生自身は同年代に比べるとゲームをあまりする方ではなく、あくまでゲームが悪いという言説に科学的見地から同意できないという立場から、エビデンス中心に講演。

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ゲーム障害になるのは一部に過ぎない

ゲームをしても9割以上は依存にならない

 14歳以上のゲーム利用者902人を2年追ったドイツの研究によれば、実に91.6%の人がゲーム使用に問題がなかったといいます。そして元々問題がなかったのにゲームによって依存になったのはわずか1.7%。

 そしてゲーム依存ではなくなった者は2.8%。一時的に依存だった者は1.8%。つまり計4.5%は自然に治ったということになり、ゲーム依存は強固な依存ではないと考えられます。

 香川県条例では一律の時間制限を想定しており、これは9割以上の無関係な人を巻き込むことになります。

ゲーム障害は国によって大きく異なる

 ゲーム障害はどのくらいの数がいるのか?これは国によって大きく異なります

 アジアでは高い傾向ですが、これは文化的背景があるのではと推察。欧米では違法薬物などにアクセスが容易、つまり他に依存できる対象が多いため、ゲームに依存する必要がない可能性が考えられます。

ゲーム障害は病気か?

そもそもゲーム依存は、病気ではない

 そもそもゲーム依存は、病気なのか?まず精神医学の基本的な考えとして、鬱病も統合失調症も病気ではない、よってゲーム依存も病気とは言えないといいます。

 2013年、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」でインターネット・ゲーム障害が「今後の研究のための病態」として採用。そして2019年にゲーム障害がWHOの診断基準「ICD-11」に採用。両者は別組織によるものだが、アメリカ精神医学会のDSMを元に、ICDを作っているため、ほぼ同じようなものと考えてもいいとのこと。

 ところが、ゲームのやりすぎは病気であるとの誤解が蔓延しているといいます。「病気だから治療しないといけない」は間違い。

 ゲームを少し長くやった子供が病院に連れ込まれる事態が予想でき、既にそういうケースもあると聞いているとのこと。

 多くの人は病気と精神障害を混同しているといいます。あくまで精神障害は「症候群」。これは原因は不明だがある特定の症候のあるもの。原因がわかっているものは、症候群ではなく病気になるとのこと。

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 たとえばDSM-4(1994)に掲載されていたレット障害は、遺伝子の突然変異によって起こるという原因がわかったため、DSM-5(2013)においては削除。精神障害ではなく神経障害に分類されるようになりました。

 うつ病は脳だろうとは推測まではできるが、具体的に脳のどこが悪いか、病原がどこなのかわからないため、あくまで症候群と定義がされるわけです。

道徳的な意味での「病気」

 医学的ではなく、道徳的な意味合いとして「病気」という言葉が使われる場合があります。ゲームは悪だという価値観から、「病気」は「異常だから治療されるべき」という考えに変換されかねません。言葉に気をつけ、「ゲーム障害は病気」と安易に言うべきではない、と戒めました。

精神障害の要件

 精神障害の3つの要件として1)症候的妥当性、2)社会職業的機能低下および臨床的苦痛、3)除外診断があるといいます。

 このうち2の社会職業的機能低下は「通学通勤など社会生活が送れない」、臨床的苦痛は「精神的肉体的に苦痛がある」を意味します。つまりいくらゲームをしていようが顕著な問題なく社会生活を送れている分には、ゲーム障害にはならないと言えます。

香川県議の主張する「ドーパミン仮説」は正しいか

 条例検討委員会の議長を務める大山一郎香川県議は、「(ゲーム依存症の)原因のドーパミン量が、最近の研究ではゲームをしたときと覚醒剤を一定量投与したときと同じであるという研究結果まで出てきているわけでございます」と発言。(国と地方の協議の場 令和元年度第2回 における協議の概要に関する報告書 P18)これについてはどうなのか?

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 ドーパミンが放出されること自体は事実であるものの、楽しいことをしている時にドーパミンが放出されるのは当たり前のことで、何なら外でスポーツをやっていようが放出されると指摘。そして以下の図からもわかるように、ゲームと覚醒剤が同レベルでドーパミンが放出されるというのは事実とは言えません。せいぜい食事の2倍程度の放出量に過ぎません。

(ドーパミン放出量の比較。左から食事、ゲーム、ADHD治療薬アンフェタミン、メタンフェタミン)

 さらに、仮にドーパミンが主犯なら統合失調症治療に用いられるD2阻害薬など拮抗薬で治療できるはずですが、副作用が出るだけで無理がある話だといいます。また、ネット・ゲーム障害の治療に使った臨床研究は一つもないとのこと。

 また、同県議が参考にしている岡田尊司著「インターネット・ゲーム依存症」で紹介されているドーパミンダウンレギュレーション仮説についても言及。ドーパミンが多いと受容体そのものが減少するとの内容です。

 これについては、たしかにアルコール・ドラッグ依存ではダウンレギュレーションは見られるが、これは摂取薬物の投入量が多いため。しかし非物質性のギャンブルやゲームで起きるのか?同書ではゲーム依存での報告を引用しているものの、これには依存前のベースライン測定なし。つまり元から受容体が少なかった可能性があり、エビデンスとして信頼性は不明であるといいます。

 ダウンレギュレーションには大量の薬物が必要であるのに対し、食事の2倍程度のドーパミン放出量に過ぎないゲーム程度で生じるとは到底考えにくく、しかもあくまで一時的なもの。減薬すると受容体も元に戻ることから、依存の継続性を説明には不十分だろうと指摘。

 ゲームの習慣化から依存に至る段階に関連する神経伝達物質は不明であり、ドーパミン含む脳内神経物質でゲーム障害を説明することは現段階では難しいといいます。

「ゲームは1日60分」のおかしさ

スマホ利用時間と成績のデータが元

 条例ではゲームを1日60分に制限するとの条文があります。この60分制限の根拠は、平成30年香川県学習状況調査にある「スマホの利用時間と成績」の話。ゲームでもないし、ゲームの依存の話でもありません。これを根拠にゲームを規制するのは二重に間違えることに。

(平成30年香川県学習状況調査)

疑似相関

 そもそも成績に関係するものはゲームだけなのか?そうではありません。「毎日の朝食の有無」であれ「保護者と学校での出来事を会話しているか」といった調査結果でも成績と関連していると言うことができます。

 スマホ利用と同じような関連が質問の9割以上で見られます。「スマホが原因で成績が落ちる」というのは、「近所の人に挨拶をしなかったので成績が落ちる」と言うのと同じであり、何なら近所の人に挨拶をする条例でもよかったのではとチクリ。スマホ利用のデータだけ取り出してきたのがそもそも恣意的と言えるわけですね。

 同じような関連を示す項目が多くある場合、正しい因果関係を見つけることが必要です。気をつけるべきは疑似相関。たとえば灰皿と肺がんの発病率です。両者は相関はするでしょうが、「灰皿をたくさん持つと肺がんになりやすい」は説明として明らかに変。こうした疑似相関ではないかどうか、スマホと成績も調べる必要があります。

ゲームは依存度が低い

ゲームの依存性はギャンブルよりもはるかに弱い

 2020年1月21日の四国新聞で和田秀樹氏は「特にゲーム依存はギャンブルやアルコール以上に依存性が指摘されている」と発言。

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 しかしこの発言のエビデンスは見つからず、むしろ「インターネットゲームはギャンブルよりもはるかに中毒性が低い」といった真逆のエビデンスのみ確認できたとのこと。

ゲーム依存を止めたら、他のものに依存するだけ

 依存症になる人は他の依存症にもなりやすく、臨床的に考えるとゲーム制限は他の依存症への移動や併存を招く可能性も。

 違法薬物は逮捕、アルコールは身体破壊といったリスクがあるので、ゲーム依存のほうがマシという見方もできるといいます。

条例での規制は可能か

ネット依存になる子供の家庭ほど条例守らず?

 全国の15~39歳計3287人を内閣府が調べた「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」を読み解くと、ネット依存はそれだけで成立している現象ではなく、不登校、いじめ被害、成績不振、家庭の厳しいしつけ、両親不和、虐待体験などが背景にあるといいます。小さい頃から習い事に参加していたなど、家庭教育に熱心な家庭で育つとネット依存になりにくいと言えるとのこと。条例でゲームやネットを規制するより、いじめ対策や不登校対策が先決であると指摘します。

 むしろ条例を守るのはしっかりしている家庭。家庭教育に熱心な家庭ほどネット依存は少なく、条例を守らない家庭にこそネット依存が多く起きるわけで、条例で定めても実効性が不透明ということに。

そもそも親が判断できない

 条例案18条に「ネット・ゲーム依存症につながる」ものを制限とあるものの、その判断主体は親。しかし専門家にすらネット・ゲーム依存症の判断は困難であり、素人である親は言わずもがなというわけです。

 多くの親がゲームそのものを禁止するか、学校や医療機関に通報することしかできず、家庭教育を充実させていく方向とは逆に作用するのではと指摘します。

ゲーム依存症は治療できるのか?

ゲーム依存は治療できない。治療できるのは、その背景にある精神障害

 子供のゲーム依存の背景にある精神障害としては、うつ病、不安症、ADHDが主。

 また、子供の精神障害は大人とあまり違わないと、国内外データで出ているとのこと。

 また、ゲーム依存は治療できるかという根本的な問題ですが、ゲーム依存そのものは治療不可能。あくまでも治療できるのは、ゲーム依存の背景にある精神障害。

 ネットゲーム障害への薬物治療としては、ブプロピオン、エスシタロプラム、メチルフェニデート、アトモキセチンの4種類の薬剤で有効性が確認されたとされていますが、これらは抗うつ、ADHD治療薬です。つまりネットゲーム障害の背景にあるうつ病やADHDを狙って投薬したのだと考えられます。全般的に健康度が上がり、ゲーム依存もマシになるというわけです。

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 心理療法として最も効果が高いのは認知行動療法とブプロピオンを併用した研究で、ゲーム障害の背景にあるうつ病に介入している可能性が指摘されているといいます。家族療法や、日本の文科省事業であるセルフディスカバリーキャンプも有効かもしれないといいます。ただ転地療法なので「摂食障害が海外で治った」と同じであって、効果がどれだけ持続するかは不明。薬を使わない割には有効だろうとしています。

精神障害の予防はできない

 ゲーム障害を予防するという話については、そもそも予防医学はごく一部の分野でしか成功しておらず、精神医学分野での予防の成功例は(デメリットを甘受して大量の投薬を用いるものを除けば)無いといいます。

 ネット・ゲーム依存の予防のエビデンスはゼロであり、スマホやゲームを奪っても他のなにかに依存するだけなので、治療法としても最悪の部類としています。研究によれば、それよりも子供の自律的発達、クラスへの社会統合・包摂を促すのが良いとのこと。

 ゲーム時間の制限についても、韓国の例を見る限りは効果がないといいます。韓国では16歳未満に対してゲーム会社がサービスを提供してはいけないとの法律が2011年に施行されましたが、その後2011年よりもむしろ利用時間は増加し、ネット中毒や睡眠時間への影響はなかったため、シャットダウン政策はインターネット使用を削減できなかったため政策立案者は異なる戦略を取るべきと結論が出ているとのこと。

専門家の受け入れ体制もない

 専門家に相談しようにも、香川県にどれだけ依存症対策の専門家がいるのか。一般の精神科医は統合失調症を治療する人たちであり、ネット・ゲーム依存治療ができると考えるのは誤り。世界的にもそれができる人は少ないことから、治療資源の観点から言えば勇み足どころではないといいます。

 専門家の数が一定数増えればと前置きしつつ、依存症になるのは数%であろうことから、地味な方法だが学校を通してIDGS(自記式質問紙)で調査、依存に近いと判断された子供をピックアップして、専門家を交えた家族面談を行い、継続的フォローをしていくといった方法ならありえると提案します。

 また、先行研究から「家庭問題」「学校の問題」「背景にある精神障害の問題」の治療が可能であり、行政が介入し得るのは「学校の問題」「精神障害の問題」。一方で精神障害の治療に関しては香川県条例では触れられておらず無視される可能性が高いと危惧します。

ゲームやスマホを制限する根拠はない

 ここまでみてきたように結局のところ科学的研究・エビデンスを見る限りは、ゲームやスマホを制限する根拠はないといいます。

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 やはりゲームやスマホを叩きたい、時間制限そのものが目的なのではないかと推測。規制の歴史は繰り返すからです。

 明治時代には小説を読むと、特に女性は「極度の堕落」とされ、落語の寄席に行くことも諌められたといいます。また、1970年から漫画の有害図書指定運動が起き、1990年には有害コミック規制運動が行われました。時にはテレビがバッシング対象となったことがあり、これは日本だけではなく、アメリカでも1976年に子供のテレビ中毒を批判する内容の「Plug-in Drug」なる書籍が出版。

 一方で、今となっては小説を読むことや寄席に行くことは良い行動だとされ、漫画離れが指摘、テレビは既に若者の娯楽の中心ではなくなりつつあります。「ゲームを規制するぐらいならテレビも規制することが(先生自身がそうすべきと言うわけではないが、論理的には)妥当」とも言えるわけですが、テレビを見ているような世代がゲームを規制したい側なのでそうはならないというわけです。

総評

 以上、井出草平先生の講演でした。現時点ではゲーム依存症を条例で規制するというのは科学的見地からは厳しそうに見えます。

 また、香川県のゲーム依存対策条例は久里浜医療センターの主張のみに依っている現状は不健全であり、様々な専門家からの意見を踏まえて、より慎重を期して政策を議論していく必要がありそうです。

(今回の講演会には山田太郎参議院議員(写真左)、たるい良和元衆参議院議員(写真中央)、ふじすえ健三参議院議員(写真右)、西沢けいた都議、おぎの稔大田区議、栗下善行都議、やぶはら太郎武蔵野市議、小泉しゅうすけ寒川町議といった政治家も党派を超えて駆けつけました)

 なお、3月10日に行われた参議院内閣委員会で、厚生労働省は、言うまでもなく科学的根拠に基づき政策を進める必要があるとしつつ、ゲーム依存は日常生活に影響を及ぼす可能性があるので、一つの見解に偏らず一般依存症に関する知見や有識者の意見などを踏まえて対策を進めていきたいと答弁しています。

 一方で、このままでは香川県議会にて条例が通過する可能性もあり、依然として予断を許さない状況です。

訂正2020年3月12日18時55分:初出時、14歳から39歳まで902人との記述がありましたが、14歳以上の902人であり、該当箇所を訂正させていただきました。