いよいよ発売されるシャープの新型廉価スマートフォン「AQUOS sense6」。取扱事業者のNTTドコモとKDDIが価格を発表したことで、業界に衝撃が走っています。
au版のAQUOS sense6の価格が4万470円である一方、なんとドコモ版の価格は5万7024円となっており、1万7千円ほど高くなっているからです。
発表時点でシャープは前機種の「AQUOS sense5G」程度と話していたので、 率直に驚きました。キャリア版の価格はキャリアが決定します。ちなみにsense5Gは、ドコモ版が3万9600円、au版が3万9890円でした。au版sense6に関しては概ね想定どおりの価格と考えられます。
なお、「AQUOS sense6」の残価ローン型購入プログラムを利用した場合の「実質」価格は、au版が3万2430円、ドコモ版は3万9864円となっています。端末代金を非常に高額にした上で購入プログラムで買わせることを前提にしている姿勢が垣間見え、事実上のロックイン効果の高さが伺えるところでしょうか?
両社向けには大きな差異はなく、対応周波数帯の違いは当然としても、むしろau版で対応しているeSIMをSH-54Bは削っているので、高額なドコモ版の方が劣ってるぐらいです。
廉価帯で有機EL、Snapdragon 690 5G、優れた電池持続時間を誇っている「AQUOS sense6」自体は魅力的で、4万円は納得の値付け。(関連記事)本来は競争力の高い機種ですが、5万7千円となれば全く話が変わってきてしまいます。
なぜドコモ版はこんなにも高額なのか?複数の要因が考えられます。
まず思い浮かぶのは2021年10月から正式開始された総務省の「SIMロック禁止」ですが、所詮SIMロックはこれまで無料で解除できていたものに過ぎず、それとは別に、他社周波数帯を利用できないことによる事実上のロックが存在するため、主要因とまでは考えられません。
筆者が最も重要な要因だと考えているのが、公正取引委員会の介入です。
これまで携帯大手各社は販売価格と店舗卸値がほぼ同額が常態化。原価率が100%に近いような端末を売っても携帯ショップは当然、運営できません。このため販売代理店は端末販売それ自体ではなく、端末販売と同時に通信契約を獲得することに応じて携帯キャリアから得られるインセンティブ=補助金によって、ようやく経営を成り立たせられます。そういう商売の設計をしているのはもちろん携帯キャリアです。
こういう状況では代理店は「通信契約を必ずつける(=端末単体販売の拒否)」「副商材を『提案』する」「端末代金に『頭金』を上乗せする」といったことをせざるを得ません。
公正取引委員会はこうした携帯キャリアと販売代理店との関係、取引方法、販売価格、ノルマ等にメスを入れ、大手携帯三社は様々な改善策を発表。
このうちドコモは、販売代理店による端末価格設定が自由であることを周知するとともに、販売代理店への卸価格がオンライン直販価格を下回るように価格設定をすると声明していました。
これを受けて一般紙は、割安に販売できなかった代理店が自由に値引きできるようになるなどと報じていました。
ところが実際に出てきたのは、1万7千円値上げされた端末でした。
内訳はどうなっているのか?「SH-54Bから卸値がオンライン価格より7000円/台ほど安くなったので、利益は出るようになった。ただ卸値を下げるべきところが本体価格を吊り上げている(販売代理店関係者)」といいます。
これまでの「頭金」が価格に転嫁されているようなもので、ドコモユーザーにとっては非常に不利です。確かに「頭金」を販売代理店が別途上乗せする必要はなくなり、ドコモショップによる値引き余地はできたと言えますが、これでは本末転倒でしょう。
しかし卸値の時点でau版販売価格よりも割高となっており、著しい値上げです。
他の要因として経営基盤の悪化による影響も考えられます。菅政権による強力な圧力で大手携帯会社は値下げを強いられ、各社メインブランド値下げやネット専廉価ブランド導入を実施。各社決算等からもわかる通り、ドコモも例に漏れず通信収入が減少しているからです。
SoftBankも「他社に比べて端末代が高い」と批判されることがしばしばあるものの、そのおかげもあって実は減収分を補うだけ非通信分野や端末販売で利益を上げている側面もあります。ドコモも値上げすることでこれに倣うつもりなのかもしれません。
他社の廉価ブランドとは異なり、ahamoの顧客は、ドコモオンラインショップでの予約や機種変更が可能です。減収主要因でもあるahamoの利用者が使えるドコモオンラインショップでは高額な端末代を設定し、ドコモショップでは端末を「安く」買えるとすれば、辻褄は合います。
オンラインよりも「安く」とはいっても、そもそもオンラインの価格が高すぎるのであまり意味がありません。携帯「通信」料金が値下げされた分、端末「本体」代金が上がってしまった構図でもあります。菅政権は携帯業界の悪癖を次々と一掃し大きな成果を上げた一方、値下げを急ぐあまり強力な圧力も加えた結果、弊害も出てきていると言えます。
今後どの機種も必ず一律金額で値上げされるというわけではないにせよ、値上げ傾向は否定できません。SoftBankもブランド力の高い機種ほど割高に値付けされがちなところ。
なお前述の関係者によれば、ただでさえ1万7千円高い機種にもさらに1万6500円ほど「頭金」を上乗せしようとしている代理店も存在するといいます。「頭金」を上乗せする必要は薄れたとは言え、価格裁量はある以上、利益最大化のためにとんでもない価格で販売する店は出てくるというわけです。割を食うのは利用者です。
もはや利用者は安易に実店舗で端末を言われるがままに買うばかりではなく、積極的に公開市場向けSIMフリー版を含めて幅広く検討するべきだと言えそうです。