ロシアのウクライナ侵攻と、各国によるロシアへの経済制裁、ルーブル暴落のニュースが毎日もちきりとなっていますが、ロシアのスマホ市場への影響はどうなっているのでしょうか。
ロシアの小売業者M.Video-Eldoradoグループの調査によると、2021年に中国ブランドのスマホ販売シェアはロシア市場で50%を占め、上位5ブランドに小米(Xiaomi)、Realme、栄耀(Honor)がランクイン。MTSのデータによれば、2021年6月に小米は31.2%のシェアでトップになりました。
これが「戦前」の数字ですが、中国「志象網」が、在露スマホブランド責任者・王天鳴(仮名)、現地生活20年の華人、商務部の元貿易担当者、泰和泰法律事務所顧問に取材し、ロシア市場の現状と今後の影響についての予想を報じています。
現状影響は少ないが米国追加制裁リスクが大きい
短期的には、スマホ小売店は正常に運営されているものの、最も直接に影響するのはルーブルの暴落で、メーカーは新規出荷を停止しており、問屋は在庫を販売している状況。王天鳴によると、「いまのところ誰も値上げをしていない。腹の中では考えているだろうが、先に動くものがいないところ。あと半月もして在庫がなくなれば、明らかな変化が見えてくるだろう」とのこと。
最大の不確定要素は、米国の輸出制限政策。今のところはロシアの軍事関連分野が対象となっていますが、法律事務所顧問によれば「もし制裁範囲がハイテクや電子消費品に拡大されれば、米国製品や技術を使用しているスマホはロシアへ輸出できなくなる。(輸出すれば)刑事責任が生じる」といいます。
Apple販売停止は中国勢にとってチャンス?
ロシアでは、小米、栄耀、Realme、Samsung、Appleといった海外メーカーが現地メーカーよりも人気があり、海外メーカーの市場シェアは80%。
3月1日、米国Apple社はロシアでのApple製品販売を停止するとともに、アップルペイ支払い機能を一時的に停止すると発表するとともに、同日、ロシアのApple公式ホームページもアクセス不能になりました。
王天鳴によると、Appleはロシア市場で台数シェア15%、売上シェア35%を占めており、ロシアでとても人気があるそうです。
Strategy Analytics高級総監・隋倩によれば、Appleはロシアで年間400万台のiPhoneを販売していたが、2022年には200万~300万台に減少する見込み。
王天鳴は「短期的に見れば、Appleの販売停止は中国スマホブランドにとってチャンスになる」としながらも、ロシア市場全体が経済的打撃を受け、ルーブルが暴落している状況からは、「もしこれまでの価格を維持するなら、必ず赤字となる。しかし、今値上げをするというのも、多くの不確定要素を抱える。まず、どれだけ値上げすればいいのかわからないし、次に、もし自社だけが値上げしたら、売れなくなる」と、頭を痛めています。
中国メーカーも対露出荷停止
中国のスマホメーカーは、一般に海外事業の決済は香港にて米ドルで行っており、問屋へ卸すのも米ドル決済。よって、これまでの取引はルーブル暴落の影響を受けなかったものの、今後の取引は為替レートや制裁など多くの要素を考慮する必要があります。
志象網の取材によると、多くの中国メーカーはすでにロシアへの出荷を停止し、現地の小売商は在庫を販売している状況。
ロシア生活20年の華人Danielによると、「食料品や日用品はどれもまちまちの率で値上がりしている。平均して15%くらい」とのこと。
王天鳴によると、中国企業にとっては中国工商銀行をつうじて国内と両替が可能なものの、ルーブルのレートが安定しないことが、最大の問題だそうです。
捨てがたいロシア市場の魅力
ロシアは中国スマホメーカーの激戦地で、小米、栄耀、Realmeが5大人気ブランドとして定着、中国メーカーで半分のシェアを占めています。
今次戦争で最も大きな影響を受けたのは、栄耀かもしれないといいます。
2019年、栄耀はロシアスマホ市場販売台数首位に立ったものの、2020年に華為が米国による制裁を受けたことで、栄耀もロシア市場での競争から脱落、空いた分は小米にもっていかれました。
2021年に華為から完全に分離したことで、栄耀は復活。上位5メーカーへの復帰を目論んでいましたが、現状シェア率は4%程度と、戦争がなくても目標達成は容易ではない状況。
まとめ
現状、中国のスマホメーカーはロシアで既存在庫の販売を継続しており、値上げにも踏み切っていないものの、ルーブルの今後の値動きが見えないことと、米国による追加制裁のリスクもあることから、新規の出荷を見合わせている状態。
Appleに続いてSamsungも出荷を停止していますが、この分ではロシアの市場から新品スマホが消えるのも、時間の問題かもしれません。