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arrows N F-51C レビュー。企画から不協和音

 企画・部品選定からも聞こえる、致命的な不協和音。

 NTTドコモは、FCNTのAndroidスマートフォン「arrows N F-51C」を2023年2月10日に発売しました。価格は9万8780円。発売日に購入したのでレビューしていきます。

外観

 化粧箱はFSC認証紙やバイオマスインキを採用。そのまま箱ごと捨てられると謳っていますが、中古市場で販売する時にも箱は必要なので一応取っておいた方が良いと思います。

 ベゼルは太め。パンチホールはやや大きめ。前面両端は平坦。

 側面は再生アルミフレーム。筐体はMIL規格対応なのも安心です。全体として非常に良好な手触りで、さらさらとマットで好印象でした。グラデーションの色合いもなかなか良いのではないかと感じます。

 arrowsといえば音量ボタンが電源ボタンの下にある変則的な配置で使いにくいのですが、本機はしっかりと音量ボタンが電源ボタンの上にあるオーソドックスな配置で使いやすいです。側面の電源ボタン兼用側面指紋認証も問題なく使えます。なおインカメラの顔認証での解錠も可能。

 ミッドレンジモデルはイヤホンジャックを搭載する機種が多いですが、本機はイヤホンジャック非搭載となっています。

 背面は、ソニーのように中央メーカーロゴとは異なり、本機は中央にドコモロゴを配置。筐体背面は再生プラスチック。ブラッシュネイビー特有の白い線は、開封済みで傷でも付いているのかと思って非常に驚きましたが、再生プラスチックをイメージしたとのこと。想像していたものとは違いましたし、好き嫌いがわかれそうなところですが、独創性がありこれはこれで趣があるように感じられるので、個人的にはそこそこ好きです。

 気になったのも背面で、初日はさらさらして心地良くて好感だったのですが、終日使い終える頃には手垢でベトベトになって目立つ状態になってしまいます。かなり汚れやすいと感じています。すりガラス調のハイエンド端末はもっと指紋がつきにくく目立ちにくいです。

 こういった汚れやすさとそれが目立ちがちなのは、サラサラ感のある質感をポリカーボネートとポリウレタンを配合した素材で実現したZenfone 9においても感じるところ。Zenfone 9でもそうしていますが、再生プラスチックのarrows Nも定期的に綺麗に洗うことが必要かもしれません。洗浄対応を正式に謳っているだけにあまり遠慮がいらないでしょう。両者、シャワーを浴びる時などに洗ってタオルで擦れば汚れは取れます。ただ風呂場での使用は自己責任で。

 ただし3ヶ月間、適宜洗うなどして使ってきたZenfone 9では質感の変化も感じます。長く使うほど嫌な感じにどんどん劣化してしまうのではないかという懸念は少しあるものの、日本メーカーは加工や塗装の技術には長けている傾向にありますし、実際に富士通時代には傷に強い塗装のウルトラタフガードを導入しており、FCNTはこの機種を4年使えると謳っていますので、この点はドキドキしながら長い目で見ていくしか無いのかなと思います。個人的には、指紋ギトギトで見た目も持ち心地も気持ちよくはない光沢プラスチックなどよりかは、非光沢系やすりガラス調、挑戦的な新素材の方が好きですので、本機は今後も使ってチェックしていこうかなと思っています。

 なお側面の再生アルミニウムではここまで汚れが顕著ということはなく、よく仕上げていると思います。

性能

 動作感は悪くありません。高駆動のSnapdragon 695機の中ではむしろ健闘している部類です。やや重めのTwitterでもスクロールは概ね快適です。

 とはいえ長く使っていると、アプリ起動/ホーム画面に戻る際や、通知バーのクイック設定パネルなどがフレームレートが低下して重くなるような場面も無いことはないので、過度な期待もまた禁物かもしれません。過度に期待しなければ、結構良いなと思うでしょう。

  • AnTuTu v9.4.4:398757
  • Geekbench 5.4.4 Single-Core:664
  • Geekbench 5.4.4 Multi-Core:1765
  • Sling Shot Extreme OpenGL ES 3.1:2937
  • Wild Life Extreme Unlimited:354, 2.1fps

 CPU性能は全然高くはないけど、低すぎることもない。じゃあ意外と行けるんじゃないかと思うところですが、そんなことはありません。やはり価格帯に見合うSoCを搭載していなければ、後述するように様々なところに破綻が生まれがちです。

画面

 画面はSamsung製OLEDを搭載しており、わずかにビビッドな発色ですが基本的には美しいと感じます。

 おそらくパネル自体はHDRにも対応した比較的高品位なものだろうと思います。非HDRソースの動画で確認すると、Galaxy S22 Ultraと比較しても画質面では大きく遜色はないと思います。

 ところが、せっかくの高品位パネルなのにHDR動画には非対応となっています。なぜならSnapdragon 695自体がHDR動画に非対応だからです。せっかく高いコストをかけてパネルを調達しているのに、宝の持ち腐れで本当にもったいないと感じます。

 また自動輝度調節センサーは搭載しているのですが反応が機敏ではなく、部屋を暗くしてもなかなか低輝度に遷移しにくいように感じる場面もあり、不便に感じました。

ソフトウェア

 最近は各社Android 13へのアップデートを配信していますが、本機の出荷時OSはAndroid 12。ここから最大3回のアップデートを公約しているので、最大実質2回分が期待できそう。セキュリティ更新は4年間。

 ホーム画面はドコモLIVE UX、arrowsホーム、シンプルホームの3種類。

プリインストールアプリ一覧

復活の「浮気モード」は踏み込みが甘い

 Fのガラケーといえば強力な「シークレットモード」を備えた浮気ケータイとして評判でしたが、スマートフォンではこうした機能は長らく削除されていました。

 これはarrows Weにてプライバシーモードの名称で限定復活しています。プライバシーモード有効化時に、浮気相手からの連絡を「隠す」ことが可能に。arrows Nにも継承されています。

 ただし電話番号ごと・アプリごとしか隠す指定ができません。たとえば特定の写真を非表示にしたり、電話帳内の特定の人だけを非表示にしたり、LINEの特定ユーザーだけ非表示にしたりといったことはできません。アプリをまるごと隠す必要があります。

 また、Googleフォトやプラスメッセージ、電話などのアプリはそもそも非表示指定が不可能。あまり実用性は高くありません。とりあえず出会い系アプリぐらいは隠せると思いますが、写真や動画を完全隔離したり、サブアカウントのメッセージングアプリを作って同時運用して片方を適宜隠すといったことは不可能。ここは他社の同種の機能の場合は、OSのマルチユーザー機能やアプリ複製を用いるなどして強力に実現しています。arrows Nのプライバシーモードはまさに核となる機能が不在のため、お飾りになってしまっている印象。

 今回、Xiaomiの「特定の指での解錠にプライバシーモード割当」を模倣した上で、さらに独自に「位置情報に準じて、プライバシーモードを自動ON/OFF切替」など着想のいい補助機能も実装しているだけに実に惜しく、もう少し踏み込んで開発すべきだったと思います。

FASTフィンガーランチャーは指単位がおすすめ

 FASTフィンガーランチャーは画面内指紋認証の機種ではアリな機能でした。指紋部分に指を置いて、そのままフリック方向に応じて、任意に割り当てたアプリを即時起動できたので、スムーズだったからです。

 しかし側面指紋認証の本機種では、そのメリットは消えています。親指を側面に置いて解錠後、画面上にランチャーが出てくるので、持ち直してそれを押す、という工程が発生してワンテンポ遅れてしまうためです。むしろ解錠するたびにランチャーが出てきて邪魔ですらあります。

 ただし本機種では「指ごとに任意の単一アプリの起動」を割り当て可能。常用する親指ではFASTフィンガーランチャーによるアプリ起動を一切割り当てず、他の指に単一アプリの起動を割り当てることで、便利に使えそうです。たとえば「親指ではただのロック解除。人差し指ではTwitter、中指ではPayPayの即時起動」といった具合です。

 ロック画面からメモアプリをできる独自機能もありますが、良くも悪くも不要ですね。好きな汎用のメモアプリを割り当てればいいだけだからです。

 昔のPDA系端末は余ったキーで「短押し、二度押し、長押し」に任意のアプリ起動を割り当てたものですが、そうした良さを現代に、セキュアに復活させるのなら、こうした機能のような試みになるでしょう。一連の独自機能の中では最も優れたものだと思います。

地味だが覚えておきたいアプリピン留め

 地味に便利な機能が「アプリピン留め」。履歴ボタンを押した際、アプリ右下のボタンを押すと、そのアプリだけを利用可能な状態に。電源ボタン短押しで指紋認証を行うまで、それ以外のアプリに切り替えられなくなります。

 予測変換の文字列が見えるなど完璧ではないものの、スマホを人に渡す際には他の操作を防止できてある程度便利だと思います。ただ、Android純正のアプリ履歴画面の全消去ボタンは、左端に追いやられて非常に使いにくい一方、他メーカーが「アプリピン留め」の位置に全消去ボタンを配置していることを考えると、何とか全消去ボタンもあわせて配置して欲しいところではあります。

文字列選択に邪魔すぎる傲慢不遜なdショッピング

 文字列選択時、いちいちdショッピングが表示されて邪魔です。

 「利用しているから出てくる」ならまだわかりますが、そもそもプリインストールされていませんし、後から自分でインストールしたということもありません。入っていないdショッピングの機能が混入されているという意味不明な仕様です。Web版にリンクを投げるだけ。平成の高齢者のPCに入った広告入りツールバーだらけのInternet Explorerではないのですから、これは流石に……。

見せ方がおかしいFAST App Drive

 よく使うアプリを実行メモリ上に保持して起動速度を上げる機能は、よくOneUIや中華端末ではアプリ履歴内から起動状態の保持として実装されていますが、arrows NではFAST App Driveの名称で設定画面から呼び出す仕組みに。ここは正直、OneUIや中華端末のような実装の方が直感的に、随時アプリを指定/解除できて便利だと思います。

 しかもFAST App Drive指定アプリは起動する度に謎のアニメーションが出てきて邪魔です。本機のような基本性能を抑えた端末であれば本来は有意義な機能ですが、実装が悪いと思います。

起動保持程度で毎回いちいち1.8秒間アニメーションで阻害する演出を食らうのはストレス

一筆書きは割り切りか、スライドインランチャー

 競合他機種によくある画面端からの機能呼び出し。マルチウィンドウ制御や小窓表示など様々な機能を兼ねている他社と比べると貧弱ですが、単機能にしたことで「一回のフリックだけでアプリ起動ができる」という強みは持ちます。

Super ATOK ULTIAS

 本機の標準IMEとなっているSuper ATOK ULTIASは手書き入力がすぐに呼び出せるなど、文字入力に慣れない高齢の既存顧客の繋ぎ止め用なのはわかるのですが、クセが強く、QWERTYキーボード最上段の数字キーの下フリックで最下段の英字が誤入力しがち、キー入力バイブがわずかに遅れてくる違和感などが気になりました。

 使いにくさを超えられるほどの変換の賢さというのもそこまでは感じられず、筆者には合わなかったので、Gboardに変更して使っています。前述の問題点もあるのでより幅広い層に馴染みやすいであろうGboardを標準にしつつも、もちろん今後も既存顧客用に存置し、初期設定画面でどちらも選べるようにしておくと、新規既存両顧客に喜ばれるのではないでしょうか。

 これはもう完全にドコモが悪いのですが、絵文字が貧相でダークモード非対応で不便というだけでなく、「IME内・入力文字・表示」で絵文字が一致していないのが本当に厳しい。全くユーザーのことを考えていないと思います。

カメラ

全体的な水準は低い

 これまでのarrowsのカメラはかなり水準の低いものでしたが、本機も高いとは言えません。

 以下、左が広角、右が超広角。超広角は極端なパープルフリンジとノイズが。広角は空が完全に飛んでしまっています。

 広角レンズは撮像素子を1/1.55型へと大型化しており、画質処理の介在余地の低い光量のある日中屋外ではそれなりに見れた写真も撮れます。

周辺やビルの解像などは気になるし、モアレが。レンガ部分のディテールは何とか残っている。

 ぼけやすくもなっています。

昼間ガラス張りの明るい店内にて、料理判定時それなりに美味しそうに撮れた。海老や南瓜を見たらわかりやすいがボケやすくなった分撮りにくい場面があることには注意か。

 レンズが力不足なのか解像感が乏しい印象も受けます。ただスマホ程度の光学系は全般的に解像感やシャープネスが不足しがちな傾向ではあるため、主に画質処理側の問題が大きいだろうとは思います。以下、左がarrows N、右が同サイズの撮像素子を搭載した同価格のZenfone 9。全体的に薄まった印象の画、シャドウは高感度ノイズがかなり出ているなどがあるものの、これでもまだなんとか健闘している方です。

 いずれもオートによる撮影なのですが、問題が深刻になってくるのが光量の少し減ってくる場面で、ノイズリダクションが酷く滲んだようなノイズ、さらにディテール・テクスチャが飛ぶなど基本的な画質処理が稚拙な写真が見受けられます。以下も同じく左がarrows N、右がZenfone 9。

木彫モチーフのぽすくま銅像が、まるで粘土に……。

 画質処理をサボる言い訳として実装されているとしか思えないAdobe Photoshop Expressモード。これは今回RAW受け渡しにようやく対応したらしいのですが、特に品質の向上は感じません。光学性能の低いプアなカメラで短時間のシャッターで撮った1枚を、現像を得意としない汎用アプリに投げるだけでは、やはり発想自体に無理があるのだと思われます。何より画質が良くないのにシャッター押して処理に7秒、次の撮影まで操作できないのに、大した成果が得られないのは実用的とは言えません

 さらに動画撮影は60fpsには非対応で最高画質もFHDまでとなっており、10万円のスマートフォンとしては考えられません。これも誤ったSoC選定に由来する制限です。

画質以外も体験から悪い

 カメラUIは相変わらず現代的ではなく使いにくいです。普通に下部のタブでモードを切り替えられればいいのに、モード切替は一旦左のタブをタップさせられるので若干の煩わしさも感じます。メインの写真タブも固定ではなく、最終仕様のカメラアプリモードがしばらくデフォルトになります。しかし画面消灯時から即時起動した場合には写真モードがデフォルトに戻ります。よくわかりません。予めよく使う項目を複数選択して並び順を設定し、タブを並ばせて、スムーズにスライドして切替できれば十分だと思います。

 特に使いにくいのが画角変更。アイコン位置がシャッターボタンの近くではない場所に位置固定(縦持ち時:右中央部、横持ち時:上中央部)なので、左手のみで操作している場合には切り替えにくいです。シャッターボタンを有するわけでもないのに画面回転方向も反時計回りのみ、というのも意図が不明です。

 そもそもズーム倍率変更のボタンすらないため、両手前提でピンチイン/アウト必須。横持ち時には画角変更アイコンも上部に移動するため手が画面に被ります。さらにズーム中にはやたらAFが揺れて合焦しにくく画質も非常に大きく低下します。

 そして露出補正を可能にする設定を有効化すると、AIシーン認識のみならず夜景モード認識やHDR撮影まで使用できなくなるという不便な仕様まで存在します。

 さらにシャッター音がやたら大きいのみならず、AF音もやたら大きく、撮影にまるで集中できません。撮影中にAF音で通行人が怪訝な顔でこっちを覗き込んでくることもありました。自主規制の内容はシャッター音を鳴らすことであって、大音量で鳴らすことではありませんし、合焦時の音は不要です。音自体もガラケーのようで安っぽく、さらにいまいちなスピーカーで不快感を増幅します。撮影体験からほとんど全てが良くないので、本気でカメラに取り組んでここ2年間で評価が大幅に向上したシャープのように、カメラUI含めて抜本的にゼロベースで作り直すぐらいの覚悟が必要だと思います。

暗くても撮影できるようになった

 ただ唯一といっていいほどですが、少し感心した部分がありました。従来のarrowsは夕方以降や薄暗いバーなどでそもそもまともに撮影できない問題がありましたが、夜景モード実装によって改善が図られています。以下、左がarrows N、右がarrows Weで夕方撮影。手ブレしてまともに撮れないことの多々ある2万円のarrows Weと比べれば雲泥の差です。

固定時間や処理時間を長く要し、処理をバックグラウンドに回す工夫すらないため次の撮影を大きく阻害するといった弱点や、荒い細部、明るくしすぎて薄まった色、高感度ノイズがそのまま乗ったような屋根などまだまだ甘いが、従来機種からは考えられないほど夜景の画質は飛躍した。最大の課題の一部を克服する重要な第一歩を踏み出した開発者には敬意を表する。

 夜景モードがHUAWEI P20シリーズに登場して6年、汎用ライブラリを活用して導入しやすくなり廉価モデルでも対応が当然の機能となっている昨今、むしろ今まで無かったことがおかしくはあるものの、arrowsとしてはようやく努力した点と言えます。単に撮像素子を大型化しただけではダメ、PSXモードのような飛び道具に逃げてもダメ、結局は画質処理で解決するしか無いというスマホカメラの基本を、本機をもって開発陣も身に沁みて理解できたと思います。事実、夜景モードもまだまだ未熟ではあれども大きな手応えを感じたはずですし、おそらく数少ない画質処理に気合を入れたであろう「映え」需要の強い料理モード時はホワイトバランスやシズル感を含めてそこそこの打率を得ています。

 12万円のarrows 5Gのカメラは率直に言って、使って大きな絶望に打ちひしがれました。10万円のarrows Nもまた暗闇、暗中模索ではあるものの、その中でも一筋の希望の光は差し込んでいると感じます。次回以降、カメラ全般の抜本的改革を願いたいところです。より画質処理能力のあるISPを備えたSoCの選定することも当然重要になるでしょう。

音響

 ドルビーアトモス最適設定が出荷時設定で有効。スピーカーはモノラル。音質は悪いと思います。こもったような音ですし、特定の音域を鳴らしきれておらず、価格には噛み合っていない印象。

 4万円程度で本体サイズの制約からスピーカーはそれほど良くはないだろう水準のXiaomi 11 LiteやRakuten Hand 5Gといった廉価モデルに比べても音量が小さく、音質も近い水準なのが微妙に感じてしまうところ。流石に音質は2万円のarrows Weよりクリアです。音量はarrows Weよりも小さいですが、シャワーでギリギリ聞こえるライン。ユーザーが動画を作っていて音量にバラつきのあるYouTubeなどでコンテンツを楽しむときにはややストレスを感じる場合もあるかもしれません。

 起動音や通知音は少し風変わりでこだわりを感じる部分もあるものの、スピーカーで損をしている感があります。

電池

 充電は遅いです。残念ながらarrows 5Gからそれほど進化していません。充電し忘れが多い人や、ヘビーに使う人には不向きです。

 一方で低速充電や一定量での充電停止といった、電池パックの寿命を労る機能は搭載。ASUS ZenfoneやノートPCでは定番の機能ですが、arrowsもこれを備えています。筆者は使っていませんが、4年使えるという謳い文句に惹かれた人は、この点もチェックして適宜有効化しておくと良いでしょう。

 ただ本来なら充電仕様ではなく制御機能によって電池を労る充電時間を担保しつつ、急速充電を重視する選択肢もあって然るべきだろうとは価格を考えても強く感じます。

通信

 これもSoCの制約のためかDisplayPort Altモードにも非対応。10万円の端末だと対応していることがほとんどですが、自分のようにNrealのグラス端末などを活用しているユーザーは注意してください。

 SIMスロットはarrows 5G/NX9の時代にはSIMピンで開けるタイプに変更していましたが不評で、特にNX9ではSIMピンを奥まで突っ込むと破損する不具合を持っていました。ところがarrows NではXperia同様、爪で蓋をひっかけて開けるタイプに戻りました。こちらの方が使いやすいと思います。

 物理SIMはシングルSIM。eSIMにも対応したデュアルSIM仕様ではあるものの、通信はあくまでドコモの周波数帯に最適化されておりほとんど無意味に。昨年からミッドレンジ~ハイエンドモデルは他社バンドへの対応も進み、障害や災害時のローミングの話題も総務省で議題にあがっている情勢を無視した本機の仕様は残念です。

 筆者は多数の機種の同時接続や大幅な帯域の必要なPCVRの無線伝送を考えて、Wi-Fi6ルーターを導入しているのですが、Wi-Fi6非対応の機体の接続が不安定な場面がまれにあり、Snapdragon 695搭載の本機にもそれが見られる場面がありました。それでも格安機種ならば我慢できるのですが、当然ほかの10万円クラスの機種ではWi-Fi6に対応しておりこうした事象は一切起きずに快適であるため、ここは正直に言って不満に感じます。

総評

 同価格の製品が並んでいる時には、環境配慮はひとつの判断基準になり得るかもしれません。しかし相場の2倍以上の価格を肯定する要素にはならないと思います。そもそも環境持続性自体は目新しいものではなく、以前からApple、Google、Samsung、SHARPなど各社取り組み続けている課題、既に始まっている業界トレンドに過ぎません。

 arrows特有の使いにくさがマイルドになっていたり、光る部分はあったりするものの、総じて他社に劣っている部分が多い印象です。まず価格10万円に見合う品質を担保すべきです。

 CPUだけではなくGPUや通信モジュール、ISP、AIプロセッサなど、様々な部品が一体となったSoCが現代スマートフォンの中核部品です。Snapdragon 695はCPUだけは「そこそこ」に見えますが、それ以外の仕様がダウングレード、劣っています。arrows Nの様々な「不協和音」のいくつかは、部品の真価を発揮することすら妨げるSoCが原因です。昨年の端末の「ハズレ石」と呼ばれたSnapdragon 695は、定価2万円~5万円の機種に搭載されるSoCで、どれだけ贅沢に作った端末でも6万円台が限度だったのは、ちゃんとした理由があったというわけです。

 次回作には期待したいものの、本機種を推奨することは難しいです。4年後もある程度の処理能力、動作感も期待できる適正な価格の他社Snapdragon 8シリーズ機を推奨します。

 arrows 5Gやarrows Nはドコモ側の意向が色濃い企画でしょうが、いずれも企画からして微妙であり、特に2023年にこれは無理があります。仮にメーカーの本来想定した値段が違うレンジであったとしてもあくまで10万円の端末として評価されます。やはり過度なキャリア依存を脱却し、B2B感覚ではなく個人消費者に真摯に向き合った企画を練り上げて他MNOやMVNO、公開市場販路に向けてメーカーが挑戦できるか否かが今後の命運を左右すると思います。適正に挑戦した時、市場と利用者はその環境への取り組みを含めて評価してくれるでしょう。

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