苦節5年。「iPhone 3GはNTT docomo」から出ると言われていたにも関わらず、日本でiPhoneに一番乗りをしたのは孫社長のSoftBankでした。
あれから早5年経つわけですが、ついにNTTドコモが、悲願となるiPhone 5Sの販売に乗り出します。これまで、なぜiPhoneはドコモから出なかったのでしょうか。
iモードとの競合
NTTドコモは、iモードを軸とした強力なエコシステムを構築しました。各メーカーもキャリアの意向に従って、iモードに対応した携帯電話を作ってきました。音楽や動画を手軽に携帯電話で楽しめるようになりました。アプリケーションやさまざまなサービスが、こうした携帯電話に合わせて作られることになります。携帯電話の決済とコンテンツの課金システムを活かし、キャリアが莫大な利益を得ることに成功してきたのです。
海外ではPDAを源流とするスマートフォンが台頭してきた時も、日本ではあくまで傍流に押しとどめられてきました。(SigmarionシリーズやWindows Mobileもありましたが、決して主流にはなりませんでした) なぜなら、iモードなどのキャリアが作ってきたシステムに組み込みづらいからです。海外とは異なり、日本の携帯業界はキャリアが主導してきたため、キャリアの意向に沿わないものは売りづらい背景があります。
日本でAndroidが主流になってきたのも、NTTドコモで言えば、spモードやdマーケットといった、キャリア独自のサービスを自由に展開できるからです。Androidはオープンなプラットフォームのため、キャリアやメーカーごとにカスタマイズの自由があります。これまでの成功体験をAndroidスマートフォンに引き継げるのです。
iPhoneの場合、既にAppleがiPodから構築してきたiTunesによるエコシステムがあります。音楽や動画などのコンテンツも、Appleが売る、垂直統合のモデルです。日本ではキャリアの構築した垂直統合のビジネスモデルと競合するため、そうはいかなかったというわけです。これまで交渉が難航してきたのは、iPhone上でNTTドコモの求めるコンテンツビジネスが展開できないという点が大きかったものと思われます。
しかし、ついにApple側も妥協を見せつつあります。つい先日、KDDIの音楽サービス「LISMO」がAppleの審査を通過。ドコモ版iPhone 5Sでは、dマーケットやドコモメールが動くようになると報じられています。
厳しい販売台数のノルマ
Appleは、iPhoneの取り扱いを行う通信事業者に対し、販売台数の半分をノルマとして課すといわれています。極めて厳しいノルマのため、導入キャリアは、販促費を投じ、料金面でもiPhoneを安く販売して優遇するといった措置を強いられてきました。
NTTドコモは、そうした販売方法は呑めないと、断ってきたのでしょう。NTTドコモに機種を卸しているメーカーからの反発が予想されるからです。加藤薫社長は、iPhoneは「販売数全体の2~3割程度なら受け入れる」と繰り返し発言しています。
しかし、NTTドコモは今年の夏モデルより、「ツートップ戦略」を打ち出しました。SONYとSAMSUNGの機種に対して、販促費を投じ、料金面でも優遇するという販売方法です。
単に「iPhoneを優遇する」ではメーカーの反発が予想されますが、「人気機種を優遇する」という前例を作り、「iPhoneは人気があるので、人気機種のiPhoneも優遇する」という建前にすることで、メーカーの反発を和らがせる意図が垣間見えます。
「ツートップ戦略」によってXPERIA Aの販売台数は、3ヶ月で130万台です。もし、仮にXPERIA Aが1年間売られるだったとしたら、単純計算で520万台です。
産経新聞の報道によれば、NTTドコモとAppleが合意したiPhone 5Sの目標販売台数は、500万台。「ツートップ戦略」の導入により、NTTドコモとAppleは現実的に販売できるiPhoneの台数を決めることができたとも言えそうです。ちなみに、この500万台というのは、2013年のドコモの販売台数の1600万台のちょうど3割程度となるため、加藤社長の「2~3割なら受け入れる」の発言に沿う数となります。
ドコモロゴをどうするのか
NTTドコモは、キャリアのロゴ「docomo Xi」を端末のどこかに入れることをメーカーに強いています。
しかし、デザインを最重視するApple側がそのような要求を受け入れるとは到底思えません。
キャリアの型番を付けずに販売されてきたBlackBerryでさえ、NTT docomoのロゴを端末の下部に入れてきました。
また、NTTドコモのロゴが控えめだったXPERIAシリーズでさえ、LTE対応以降、docomo Xiのロゴが前面の下部に目立つよう刻印されるようになってしまいました。ロゴを付けずに販売されてきたSONY Tabletも、XPERIA Tablet Z以降はdocomo Xiロゴを入れています。
非常にどうでもいい話にも聞こえますが、NTTドコモは3G通信のFOMAを開始した直後は、とにかく目立つようにデカデカとロゴを刻印してきた過去があるので、LTEのブランド docomo Xi(クロッシィ)に対してもよくわからないこだわりをドコモが強く持っていることが伺えます。
事実、AppleとNTTドコモが交渉で最後まで膠着した争点が、ドコモロゴであるとロイター通信が報じています。
NTTドコモが本当に恐れているのは、ここでもやはり「メーカーからの反発」ではないでしょうか。なぜiPhoneだけdocomo Xiロゴを付けなくてもいいのか?他のメーカーからは、ドコモがAppleだけを特別扱いしているように映ります。
私は、iPhoneにdocomo Xiのロゴが付いて欲しいとは思いません。個人的には、他のAndroid端末でもロゴを控えめにして欲しいと思います。(XPERIA Zでも、メーカーの開発者はロゴまで気を遣ってデザインしていると言っていたのに、国内版はドコモロゴが前面に大きく入っていて、少し複雑な気分でした)
両社は一体どこまで歩み寄ったのか、答え合わせまであと2日と少し
Appleの製品発表会のため、加藤社長が渡米することが明らかになっており、ドコモからのiPhone 5Sが発売されることは確実な趨勢です。
ドコモのビジネスモデルをiPhoneに持ち込むことや、販売台数のノルマに関しては、両社がそれぞれどこまで妥協し、合意したのか、おおよそはわかってきました。
9月10日(日本時間で9月11日の午前2時)にAppleの発表会が行われ、NTTドコモからも発表があるので、もうすぐ全貌が明らかとなります。答え合わせが非常に楽しみです。
[訂正]初出で6年としておりましたが、3G発表からはまだ5年と数ヶ月です。お詫びして訂正させていただきます。