米政府、Huawei製とZTE製の通信機器を使用しないよう勧告
急速に成長する中国のスマホメーカーですが、前々から「中国政府が端末から情報を吸い取っているのでは」との指摘がなされてきました。本記事ではその真偽について特段の立場をとりません。
しかし先月、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)、米国家安全保障局(NSA)の長官や米国家情報長官らが上院情報委員会の聴聞会にて、Huawei(華為)とZTE社の通信機器(携帯電話・スマートフォン等)やサービス等を使わないように国民に勧告、物議をかもしました。
この件について、立憲民主党の松平浩一衆議院議員(比例北陸信越ブロック・1期)が内閣に対し、日本政府の対応を問う「質問主意書」を提出、3月5日に「答弁書」が公開されたため、ご紹介します。
「質問主意書」と「答弁書」とは
「質問主意書」とは、国会会期中に国会議員が内閣に出す「質問状」です。主意書を受理した内閣府は、質問の内容に応じて担当省庁に「これお前のところの主管業務だろ、答弁書作成しろ」と投げ、投げられた方は「いやこれ、何々省さんじゃないですかね」、と言った具合に、「割もめ」と呼ばれる消極的権限争いを繰り広げます。
なお、「うちじゃない」という意見は「投げられてから一時間以内に突き返さないといけない」という「1時間ルール」があり、他省庁へ投げられたらそこでもまた「1時間」が始まります。最終的にどこが答弁書を作成するか決まるのは、翌未明になることも。
質問主意書の答弁書のなかで、どの項目をどの省庁が答弁作成したのか想像するのも、楽しみ方の一つです。なお、答弁書は正式な「政府答弁」となるため、当然「日本政府公式見解」として「閣議決定」されます。よって、「UFOはいますか?」との質問主意書が提出されれば、それについて閣議決定することになります。
以上、ややマニアックな話になりましたが、本題に戻ります。
質問主意書
平成三十年二月十九日提出
質問第八九号米国情報機関高官により米国民に対しHuawei社とZTE社の通信機器を使用しないよう勧告がなされたことに関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a196089.htm
提出者 松平浩一
報道等によると、二〇一八年二月十三日、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)、米国家安全保障局(NSA)の長官、ならびに米国家情報長官らが、上院情報委員会の聴聞会(Senate Intelligence Committee hearing)において、Huawei社とZTE社の通信機器(携帯電話・スマートフォン等)やサービス等を使わないように国民に勧告を行ったとのことである(以下、「本件勧告」という)。
現代において、通信機器は国民の日常生活に不可欠であり、通信機器を介して日々重要な情報が大量にやり取りされている。また、Huawei社とZTE社の通信機器は日本においても購入、使用が可能である。このことに鑑みれば、本件勧告の背後にある事実関係については争いがあるとしても、国民の安心安全な生活を守るためには、本件勧告は決して軽視できない事態と考える。
このことに関し、以下質問する。
Huawei P10はいいものですが、米政府としては、これらの製品も中国による諜報活動の道具であり、日本としても無視できないものではないか……というお話です。以下、引用します。
一 本件勧告によれば、Huawei社とZTE社の端末について、悪意を持って、情報を改ざんしたり、盗んだり、スパイ行為ができるといったリスクがあるとのことであるが、政府として、Huawei社とZTE社の通信機器およびサービスについて、指摘されているリスクの有無、程度について現時点で把握していることを明らかにされたい。
二 本件勧告に関し、政府として、米国当局と情報連携等は行っているか。行っているとすれば、いつ、どのような情報連携をしたのか明らかにされたい。
三 本件勧告に関し、または本件勧告以前に、政府として、Huawei社およびZTE社に事実関係や主張等について聞き取りを行う等の調査や、両社に関する独自の調査を行っているか。行っているとすれば、いつどのような調査をしたのか明らかにされたい。
四 Huawei社およびZTE社以外に、本件勧告で指摘されたものと類似のリスクが存在するまたはその存在が疑われる通信機器の販売会社等について、政府が把握している情報や、行っている調査等があれば明らかにされたい。
五 政府として、行政機関や国民に向けて、Huawei社、ZTE社またはその他の会社の通信機器について使用を差し控えるように勧告等を発出する検討はされているか。また現時点でその予定はあるか。
はい、消費者としても気になるポイントですね。
答弁書とその解説
なお、答弁書は主務官庁(この場合おそらく総務省)の役人が作成。内閣総理大臣の名義で提出されています。
一、三及び四について
お尋ねについて明らかにすることは、我が国の情報収集能力、分析能力等を明らかにするおそれがあることから、差し控えたい。
二について
お尋ねの米国当局との情報連携等については、事柄の性質上、お答えを差し控えたい。
確かにな、という感じですね。ただ、この答弁の読み方ですが、前提として、一般に外国政府の見解についての論評は「差し控える」と答弁がなされます。そう考えれば、「米情報当局との間に情報交換はなされているが、その内容は公開できない」という意味でしょう。
五について
お尋ねの「使用を差し控える」及び「勧告等」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、各府省庁が情報セキュリティの確保のために採るべき対策等の基準を定めた「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準(平成二十八年度版)」(平成二十八年八月三十一日サイバーセキュリティ戦略本部決定)において、各府省庁による機器等の調達に係る選定基準の一つに、必要に応じて、「機器等の開発等のライフサイクルで不正な変更が加えられない管理がなされ、その管理を府省庁が確認一できることを加えること」を定める等の取組を行っているところである。
「お尋ねの~の意味するところが必ずしも明らかではない」は、日本の口語に翻訳すると「質問が意味不明」であり、答弁作成が面倒くさい場合には「~ため、お答えするのは困難である」(同「知るかバーカ」)と続けられます。
なお、このやりとりでの「意味が明らか」とは、語句の意味が法規法令等によって定義されているかどうかになります。まあ、なにせ「日本政府公式答弁」なので、定義が明らかではない語句に対してホイホイ解釈をすることはできないため、当然でしょう。
ただこの答弁では、「質問の意味はよく分からないけど、こういう基準でやってるんだからね」と、ツンデレな感じで答えてくれていますね。
「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準(平成二十八年度版)」に華為やZTEが合致するのかは、たぶん質問しても答弁は出てこないでしょうが、基本的に外国メーカーは弾いているのではと想像します。
官公庁といえば富士通の地盤でしたが、ファンドに売却された今、調達先はどこになっているのでしょうか。いずれにしても、「官公庁では華為やZTEは使わないからご安心ください」という答弁かと思われます。その結果、クソ端末を使用するハメになるとかは、別の話ということで。