2018年8月27日、菅官房長官は記者会見の中で、携帯料金に関する質問を受けて回答しましたが、本日8月30日、再び会見内で携帯に関するやりとりがあったのでご紹介・解説します。
日経記者の質問とその解説
質問
日経:携帯電話の通信料についてお伺いします。昨日SoftBankが端末代を割引しない代わりに通信料金を安く抑える分離プランを発表しました。これによって携帯大手3社がそれぞれ分離プランを適応したということになりますが、特にSoftBankはそれによって通信料が2~3割程度安くなるという風に発表しています。このような流れに対して受け止めをお願いします。
解説
携帯キャリアは、ユーザーの端末購入と同時に、通信料からの割引を設定してきましたが、これを廃止したプランがいわゆる「分離プラン」です。NTT docomoは「docomo with」、KDDIは「auピタットプラン」「auフラットプラン」を導入。そしてSoftBankは昨日「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」を発表しています。
まず「3割値下げ」という大本営発表がそのまま報じられている現状ですが、予め突っ込んでおくと、今回の新プランで主に安くなるのは大容量を消費し特定サービスを多く使うヘビーユーザーです。それ以外のユーザーはこの限りではなく、真の数字を隠し、期間限定・条件付きの割引を最大限盛った数字を前面に押し出して煙に巻いているに過ぎません。(監督官庁はキャリアがこういう詐欺的な価格表記でメディアも消費者も騙していることこそ問題視すべきでは?)
さらに新プランでは通話定額は別途オプションとなっている・LINEやFaceboolのIP電話はカウントフリー対象外であること、月月割が事実上廃止されるといった注意点も多数。現行プランやおてがるプランもフェードアウトは時間の問題。ちゃんと計算すれば明白ですが、値上げになるユーザーも多いはずです。
新プラン自体は、ネット中立性を議論前から破壊したい悪意が見え隠れするのはさておき、どうせ文句だけは言うくせに他社に動かない中高年からは巻き上げるだけ巻き上げ、他社の若者を根こそぎ奪うポテンシャルがあるカウントフリーの新プランを中心に集約していくというところで、営利企業としてはまあ正しいのでしょう。
今回SoftBankが行ったのは値下げではないことを指摘しつつも、しかしSoftBankにはただの格安看板に過ぎない「Y!mobile」や傘下の「LINEモバイル」があるので、そちらで官房長官のボールをどう投げ返すのかをチェックしていくのが正しい態度と言えます。値下げ・安売りの役目はそれらに担わせ、SoftBankはARPUを上げていくのは見えていますし。今回のプラン自体も、割引や見せ方こそ官房長官に受けがいいように工夫はしたかもしれませんが、概ね官房長官発言前から検討されていたものに過ぎないでしょう。
また、端末代と通信料の分離は大きな一歩ではあるものの、端末販売を依然としてキャリアが牛耳っているという悪癖が修正されたわけではないので、この辺りがどうあるべきか、引き続き考えていく必要はあるでしょう。また、割引のフェードアウトによって端末販売数への一時的な悪影響は考えられるので、こちらもあわせて注視しておきたいところです。
菅官房長官の回答とその解説
回答
以下、日経記者の質問への菅官房長官の回答。
菅官房長官:まあ個別事業者さんの措置について答えることは控えたいと思いますけども、ただ一般論として申し上げれば、携帯電話事業者が利用者の理解が得られるように取り組んでる、こういうことは大事なことだという風に受け止めています。
ただ携帯電話については公共の電波を利用し提供される中で、料金が不透明、諸外国と比べて高いという指摘もあります。政府としては総務省を中心に公正取引委員会、ここと連携しつつ様々な取引慣行の是正、さらには中古端末の流通促進、こうしたことに取り組んでですね、競争がしっかり働く仕組みとすることで利用者の皆さんにとってわかりやすい納得できる料金サービスの実現に努めていきたいという風に思います。
このところさらに手続きに時間がかかりすぎるという国民の皆さんの声も多く寄せられています。そういったことも検討すべきだと思います。
解説
SoftBank個別への言及は避けつつも、流れとして歓迎する意向を示しています。
MNOの携帯料金が高いというのはその通りですが、しかし通信品質を加味して、諸外国と比べて高いかについてはどうでしょうか。少なくとも官房長官の挙げていたイギリスなどは通信品質という点では大して良くはありません。現時点でも品質を妥協して価格を下げる選択肢としてMVNOやMNOのサブブランドが存在しますので、そちらに乗り換えやすくするのが正しい政策です。
競争をしっかり働かせるという観点では、楽天の参入が控えていますので、今後も既存寡占3社による悪質な囲い込みや競争阻害要因を排除する政策を引き続きしっかり行っていくほかないでしょう。
総務省がぶち上げた「中古端末の流通促進」、これをまるで魔法の杖であるかのように扱うことには疑問です。端末販売がしっかりと分離され、端末そのまま他社に乗り換える上で障壁がない、健全な状態であれば、必然的に中古端末は盛り上がります。つまり健康な競争環境かどうかのバロメーターのひとつとして中古端末市場を見るのは意義深いことですが、中古端末市場さえ盛り上げればすべて解決するのだという認識は思い違いであるので、その点はくれぐれも勘違いせず、市場環境整備の取り組みを続けるべきですね。
特にSIMフリー機でKDDI回線を使うことが困難で利用者の妨げになっている問題など、利用者の乗り換えやすさを主眼として解消すべきでしょう。顧客の利便性を上げ、乗り換えが増える、つまり顧客の流動性が向上することこそが、競争、ひいては値下げに繋がっていくからです。
手続きに時間がかかりすぎるというのは、MNOの実店舗を使い続ける限りはその通り。混んでいて、無駄に並ばされて時間を取られることも多いです。
しかし現在はオンラインから手続きができる項目が増え、手数料を抑えつつ機種購入をオンラインで完結できるオンラインショップという選択肢もあります。オンラインなら知っている部分を読み飛ばして時間も短縮できます。手続きに時間がかかりすぎると考えている人は実店舗ではなくオンラインを活用しましょう。
未だにプラン変更や解約の事前予約はできず、解約やMNP予約番号発効をオンラインで出来ないなど、意図的にユーザビリティを上げないことで利用者のスイッチングを妨害するキャリアに対して、オンラインで全部やれるように求めるという話なら、別に間違ってないと思いますし、実際、2019年6月までにオンラインMNPが実現されるよう、最近ようやく義務化されたばかりです。
しかし、実店舗で注意書面や丁寧な説明を省け、ということになると、話が少し違ってくるのではと思います。そもそも杜撰な販売現場による高額請求トラブルの類から、消費者を保護するために書面交付義務が課されるようになった経緯を踏まえるべきではないでしょうか。
携帯値下げ問題に関する菅官房長官諸発言 https://t.co/mI4IzhYA5J
— すまほん!! (@sm_hn) 2018年8月30日