米中貿易戦争といいますか、米国政府による中国最先端産業企業への攻撃が、80年代の「ジャパンバッシング」以上に加熱している昨今の現状。
特に核心的な領域と見られているのが「チップ」分野ですが、次世代「AIチップ」では既に中国各大手企業が次々と参入、次の時代の覇権をめぐる戦いが始まっているそうです。中国通信信息報が伝えました。
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米国企業、続々とAI開発
まず、AIチップはそのイノベーション性から、企業価値と競争力を構築するカギとみなされており、トップレベルのチップ企業はAIの戦いを展開しているところだといいます。
米国半導体大手のクアルコムは、5G対応のAIチップ・スナップドラゴン855を正式に発表、全世界で初の5G商用チップとなりました。
アマゾンウェブサービス(AWS)は先ごろ、機械学習専用チップ「Inferentia」を発表、AIチップ市場参入の象徴でありNVIDIAやGoogleへの挑戦として受け止められました。この前にも、インテル、ARM、華為(Huawei)、Google、Appleなどは既に競ってAIチップに注力しており、今後、チップ業界は新たな局面を迎えようとしているそうです。
本来ならここに東芝やNECが………いや、やめましょう。
AI発展に不可欠な5G、中国が一歩先をゆく?
この背後に、AIチップの発展は5Gを避けて通ることができず、5G端末の発展もインターネットとチップの下支えが欠かせないことがあるのだといいます。
中国国内企業にとって、中国3大通信キャリアが中国全国での5G中低周波数の試験チャンネル使用許可を獲得したことにより、5G商用化が前進したことと、「ZTE危機」という「前車の轍」の例にともない、チップ自主開発の重要性が突出してきたそうです。
AIチップは業界の「標準装備」となることが予想され、端末側の潜在発展力が巨大でありかつ応用可能な場面も多いことから、必ず掌握する必要があり、また、AIチップを搭載していないスマホは主流市場での競争機会を喪うだろう、ともいいます。
米国企業のAI開発
インテルのグローバル副総裁、中国地区総裁の楊旭は中国市場を例として、AI市場の巨大な潜在能力を分析したことがあるそうです。2017年、中国の人工知能市場規模は9億ドル、それが2022年までに90億ドルとなり、5年で10倍になるだろうとしています。市場の潜在力が大きければ、それだけ競争相手は多くなります。AIチップはAI競争レーン上での、全世界科学技術トップ企業たちによる、最初の戦いになるといいます。
中国国外の科学技術トップ企業は先を争うことで、コストの低下を図っているといいます。先日リリースされたスナドラ855はクアルコム初の7mmプロセス製造チップであり、5Gネットワークの千兆桁のデータ速度に対応、一世代前のスナドラ845の3倍のAI性能を誇るそうです。
また、来年のリリースを予定しているアマゾンのInferentia機械学習専用AI推理チップは、低遅延性能かつコスト効率に優れ、「業界の転覆者」と呼ばれているのだとか。業界内では、「従来の高性能競争の形成からみて、半導体メーカーが依然として主導的立場を握っており、インテルとNVIDIAはかわらず新興コンピューターチップ市場を主導している」との声もあるそうです。
アリババ、小米、百度もAI開発
中国国内の企業も「百家争鳴」、負けていないといいます。世界で初めてダブルコアNPUを搭載したモバイル端末チップ、麒麟980のあと、華為はまた今年10月に、2種類の自主知的財産権を擁する人工知能チップ、「昇騰910(Ascend 910)」と「昇騰310 (Ascend 310)」を発表。
昇騰910はNVIDIAの2倍の計算力、昇騰310は僅か8Wの電力消費がポイントでしかもエッジコンピューティング製品最強の計算力を誇るAIチップなのだといいます。
これに先立って、アリババは「杭州雲栖(うんせい)大会」でチップ産業を発展させると宣言、「平頭哥」半導体企業を設立したそうです。主に注力するのは、32ビット高性能低電力消耗嵌入式CPUのIC設計らしいです。
小米傘下の企業は、初のRISC-Vウェアラブル端末「黄山1号」をリリース、「世界初のAIウェアラブル端末チップ」とも号しているといいます。
百度は2018年百度AI開発者大会で、クラウド全機能AIチップ「崑崙」を発表したそうです。
この他にも、多くのスタートアップ企業がAIチップ競争に参入し続けているとか。
各社のAI自主開発決意、転機は「ZTE事件」
これら科学技術関連大手がAIチップへ殺到している背景には、もちろん深い意図があるのだといいます。まず、革新技術に「おこぼれ」はなく、自主イノベーションによってのみ突破できるのだと。「ZTE事件」は業界の自主「チップ開発」の重視を促したといいます。
中国共産党機関紙「人民日報」も、「インターネット核心技術が我々の死命を制する、各新技術が他人の制限を受けていることが我々の最大の隠れた病である」と論評したとか。
また、中国工程院の院士(研究者のなかでも偉い称号)倪光南は、次のように述べているとのことです。チップ販売禁止事件はサプライチェーンにとどまらず、核心技術で首根っこを押さえられていることで、インターネットの安全に大きなリスクが存在していることが明らかになった、よって、チップの高科学技術を持たない企業はそう成長できない。また、技術の進歩と需要のレベルアップは、AI応用の高性能計算の必要を、チップ技術の主要駆動力の一つとさせるだろう。AIチップ発展の機先を制する事で、従来のチップ企業依頼を減少させ、企業内部の従来から優勢な業務と新興業務を有効に融合させることによって、自身のサプライチェーンへの制御を強めることになる。具体的に言えば、クラウド計算ハードウェア市場は巨大だが、クラウド計算と人工知能の各種加速算法の関係は密接であり、将来のクラウド計算ハードウェアはAIチップの加速と不可分になる。よって、Googleやアマゾンなどの大手はまさに、ハードウェアからチップへと、クラウドサービスの戦略布陣を移行させているのだ。
スマホ、AI搭載が前提に
話をスマートフォンに移すと、今やAIはほとんど各メーカーのフラッグシップモデルの標準装備になっている、と指摘します。
クアルコムが今年の年初にリリースしたAIエンジンは、人工知能を端末側のアプリを更に高速、高効率とし、傘下のチップ製品スナドラ845、835、820、660はどれもこの人工知能エンジンに対応しているといいます。
また、Appleは昨年専用神経ネットワーク処理チップA11「Bionic Neural エンジン」を投入、CPUとGPUの計算量を分割し、顔面識別、音声認識などAI関連のタスクを専用チップで処理するようにしました。このことから、AIチップが端末チップへと降りてくることは、全体の趨勢なのかも知れないといいます。
中国AI業界の大勢
では、中国AI業界の大勢はどうか?専門家は、すぐに成功するものではないが、このチャンスを掴む必要があると述べているそうです。
まず、中国政府の産業政策は、チップ業界に利益をもたらしているといいます。紫光集団有限公司の董事長王慧軒は、国家の産業政策は良好に協同しなければならない、それには投資強度、投資集中度、人材育成と招聘などを含む、と述べているとか。
また、チップ企業は継続して努力しなければならないといいます。端末チップの発展を加速させ、端末設備に反映させれば、国内AI産業の発展を「ショートカット」させることができる、と。
最近、中国電信は中国聯通と提携、GSMA TSG端末開発チームの第34次会議で、人工知能端末標準のプロジェクト起動を全会一致で決議したとのこと。これは全世界の人工知能端末の重要な一里塚であると見られており、AI端末標準の国際化、5G+AI産業生態の発展を促すものであるとされているそうです。
挙国一致AI開発の中国、警戒するアメリカ、覇権を握るのはどちらか
こうやってみると、かなり近い将来の最先端技術を握るカギとなる「AIチップ」分野で、米中両国の企業が既に熱い火花をちらしているようですね。
米国トランプ政権が危機感を覚えたのもうなずけますが、一方の中国は官民一体、挙国一致の体制でAIチップ開発に邁進し、現状リードしている米国半導体大手に挑戦しています。
これからの最先端技術で米国勝つか、中国勝つか?「何故日本企業がいないのか」と苛立つところもありますが、どうしようもないものはどうしようもないので、傍から見守ることにしましょう。