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環球時報、日本政府のHuawei締め出しを論評
日本政府が華為(Huawei)とZTEの製品を政府調達リストから排除した件について、中国共産党機関紙「人民日報」系の国際メディア「環球時報」が伝えました。
環球時報は、日本政府による今回の決定について、「米国の政治圧力に屈した」、「日本自身の利益を損なう」と批判した一方で、「両国関係雪解けの流れを止めるべきではない」と、中国国内の反発に対して抑制的な姿勢を求める社説を、12月10日に発表しました。
環球時報の位置付けとは
中国では、国際関係に関する論評記事を好きに書いてはいけないことになっており、環球時報の社説は「中国共産党の正確な観点と主張」を発信している、という位置づけです。
なお、環球時報の総編集は、米中貿易戦争が激化する中でもiPhone7Plusで微博への投稿を続け、「スマホを買い換えろ胡錫進」と突き上げられている胡さん。そういう親しみも込めて、社説を見てみましょう。
「米国は日本を盗聴している」
12月10日の日本政府決定について、共同通信などの報道を引いた上で、まずは次のように論評しています。
「日本は、中国企業の通信設備を使用しないとの米国による号令に応じた最新の国家となったようだ。これは明らかに日本の国家利益に合致せず、日本は米国の政治的な圧力に屈服し、日中関係改善の重要な時の後退は、負の動きを生み出す第一歩になるかもしれず、日本の安全の助けになるとは限らない。米国が同盟国に対して監視盗聴をしていることは周知の事実であり、その中には日本の政界要人、国家機密と日本の大企業も含まれる」
「華為とZTEはいずれも日本と大量の提携をしており、日中電気通信業の交流は深く広く、華為とZTEの排除が日本の5Gネットワーク建設の発展に与える負の影響は明らかに見て取れる。日本企業はこれについて特に冷静な見識を有しているはずである」
後段については元CIA局員のスノーデンがウィキリークスで明かした件についてですね。平たく言えば、「日本は中国の通信設備が安全保障上問題ありと米国に言われたかも知れないけど、そもそも米国は好き放題日本の情報をとってるだろ」という話かと。多分事実でしょう。
「米国の覇権主義に日本は従うな」
また、米国による華為・ZTEへの「攻撃」の動機と、日本にとっての「利益」については、次のように述べています。
「中国の通信会社をやっつけるのは米国の新戦略であり、米国は「閉め出し」により中国の高度科学技術の発展を阻止すると、一部の人間が軽率に主張している。米国は全面的に覇権国家の地位を維持するために、このように極端な衝動が生じたのである。しかし日本の利益はどのようにしようとも高度に米国化することはできず、日中協力を制限することは、日本にとってとても不味い選択肢だ」
「中国の現在の市場は日本より遥かに大きく、今後はきっと米国市場よりも大きくなるだろう。日本が世界の覇権を握ることができるわけでもなし、自身が世界の大型市場で正当に業務を展開できる状況を確保するのが、日本が最も防衛すべき権利の一つである。日本は一方の外部の力による、誰と商売していい、誰と商売してはいけないという命令を聞いていてはいけない、日本はこのような決定を日本の国家主権内でできるよう確保しなければならない」
上から目線が若干不愉快ですが、「身も蓋もない」分析ですね。
対米従属からの脱却を
「日本と中国は一衣帯水であり、経済の長期的な前途と中国市場の状況と日中市場の連動性質は、密接な相関があり、その種の相関はそれと米国市場との相関性を次第に上回っている。日本がもし、どのように中国と協力するかの決定権を今米国に与えてしまえば、米国への従属はさらに強まり、永遠にそれから脱する日は来ないだろう」
この指摘自体はかなりの程度事実かと思いますが、「対米従属からの脱却」というテーマで中国から煽られるのも、なかなかおもしろいですね。なお、「一衣帯水」は昭和47年に田中角栄総理が北京を訪問した際に出された「日中共同声明」で使用されたワードで、今般の安倍総理訪中の際にも中国国内報道で頻出しました。
「事実として、米国は中国への対抗姿勢を露骨にして、盟友の協力を必要としており、日本はさらに自己の独立性を保持する能力を必要としている。日本の利益は明らかに、できる限り米中2大市場の中間点に立つことにあり、どちらかを選んで立つものではない。ベトナムやフィリピンすらもこの道理を理解しており、日本は重要なアジアの大国として、米国の方へ偏らず、中国ボイコット戦略の意義をさらによく理解しなければならない」
まあ実際、大統領の思いつきのような米中貿易戦争の矢面に立たされてはかなわないので、首相も北京まで出かけたのでしょう、多分。首相訪中についても、次の段で触れられています。
「安倍首相は近来日中関係の改善に努力しており、日本政府の大局に対する認識が明晰であることを表明した。しかし東京も知ってのとおり、華為とZTEへの態度は中国社会に『言行不一致』の猜疑心を再燃させるものであり、日中関係改善の進度と質に影響する」
「いったん日本が実質的に華為、ZTE製品を差別する政策に陥れば、中国側が相応の制裁措置を採るのは不可避である。双方のこの種の衝突は米国が仕掛けたものであり、日本は米国側の極端な要求を満足させるために行った。もし日本の対中経済提携に米国の利益のタガがはめられるとすれば、日本の長期的な将来が割り引かれることにならないか?」
大筋の論としては「そうでしょうね」としか言いようがありませんね。ただ、華為の製品から見つかった「要らないもの」によっては、話がかなり変わってきますが。
国内向けメッセージ
以上は「日本向け」のプロパガンダですが、最後は次のように、国内向けのメッセージになっています。
「中国は日本の突出した動揺に対して、どのように反応すべきか?我々の主張として、中国側はまず原則を維持した反応をすべきである、報復すべきは報復しなければならない。一方で、我々はこの件の影響を拡大させ、日中関係雪解けの流れに八つ当たりすべきではない。それはそれ、これはこれとして、日本に華為、ZTE製品ボイコットの対価を払わせつつ、双方による今回の衝突の意義を際限なく高めてはならない」
「中国社会が今よりも自信をもてば、このような事で簡単に日中関係に大きな影響を与えることはなくなると、我々は信じる。同時に、中国は対日関係において原則を堅持し、実際の行動に移す能力が増加するだろう。日中両国は相互に尊重し、外部要素の干渉を極力排除し、双方の協力を共同して規則を遵守する基礎の上、不断に発展させなければならない」
以上、これで反日世論が盛り上がるのを抑制しようという意図が明らかな論建てになっています。
中国ネット民の反応
なお、こうした中国共産党による「正確な観点」からの社説に対して人民からは、「日本車をボイコットしろ」「米国の犬」「日本鬼はアテにならない、幻想を捨てろ」などの罵声が浴びせられていました。まあ、インターネット世論はだいたいどこでも、こんなものでしょう。
「中国企業による情報窃取」を主張する米政府と、「中国圧殺を企てる米国の戦略、だいたい米国も情報は抜いてる」と主張する中国、なんだか泥仕合という観の強い一連の騒動ですが、日本はどこまでコミットするのでしょうか。5G商用化は刻々と迫っていますが、どのような影響が出るのかも注目ですね。