中国で「販売禁止令」受けたiPhone、なぜ未だに売られている?北京の地裁が解説

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中国で「販売禁止」後も、なぜか販売し続けられているAppleのiPhone

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 先日、クアルコム社が「福州市中級人民法院で勝訴、Appleのスマホ複数モデルが中国市場での販売禁止で大勝利」と宣言しましたが、どうやら今でもiPhoneの各モデルは中国で販売されている模様。

 「あの勝利宣言はなんだったんだ」と、よくわからないところですが、そもそもの判決について解説する記事が中国共産党機関紙「人民網」に掲載されていました。執筆単位は、北京市石景山区人民法院。たぶんというか、この記事で述べられていることが間違いなく正解でしょう。ということで、法律の話になりますが、ご紹介します。

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「訴中臨時禁令」とは、つまり日本でいう「仮処分命令」

  さて、まずクアルコムが主張している「訴中臨時禁令」とは何か?「訴中臨時禁令」とは舶来の呼び方で、中国の法律用語に置きかえると、「訴中行為保全」だそうです。案件の受理後、裁判の前に裁判所が一方の当事者に対して一定の行為或いは一定の行為の禁止を命じ、当該当事者が今まさに実施或いはこれから実施する行為によって申請者に対し挽回不可能な損害を与えることを防止するものを指すと。この他、訴状の中の行為保全と対応して、もし訴訟を起こすあるいは仲裁を申請する前に、申請者が状況が緊急を有するために行為の保全を申請する、すなわち訴訟前の行為保全を構成するものである、といいます。日本で言う「仮処分命令」ですね。

 「訴中行為保全」と「訴前行為保全」は訴訟行為保全制度を共同で形成する、注意しなければならないのは、行為保全は永久性をもつものではなく、期限のあるものであり、自身の権利保護が侵害を受けない臨時の措置にして、同時に、一方の当事者が裁判所が行為保全をとることで、もう一方の当事者が必然的に敗訴することを意味しない、といいます。

 つまり、「販売差止め仮処分命令」が出たからと言って、「販売禁止判決」が出るわけじゃないよ、という理解でいいでしょう。

行為保全制度の背景

 知的財産案件の「行為保全」制度は西洋先進国から来たものであり、中国へ入ってからは20年にもならないといいます。2000年、中国の特許法、商標法、著作権法が相次いで制定され、知的財産訴訟前行為保全制度の関連規定が設けられたと。この後、最高人民法院が《关于对诉前停止侵犯专利权行为适用法律问题的若干规定》と《关于诉前停止侵犯注册商标专用权行为和保全证据适用法律问题的解释》(規定名を訳してもしようがないので省きます)を出し、特許侵害訴訟と商標侵害訴訟中の訴前行為保全制度を細かく規定したそうです。

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 この部分は中国の知的財産権保護に関する裁判制度の最近の発展についてなので、専門的な語句を繰り出してドヤりたいときにご活用ください。2012年に改定された民事訴訟法において、訴中保全と訴前保全の区別をしたのに加えて、実質的に行為保全制度を確立したといいます。2015年に公布された司法解釈関連条文によって更に進んだ解釈と説明がなされ、ここにおいて、訴訟行為保全制度が知的財産権領域からその他の民事・商事案件の訴訟に拡大していったそうです。2018年11月26日、最高人民法院は《关于审查知识产权纠纷行为保全案件适用法律若干问题的规定》を発布、2019年1月1日より施行。この司法解釈は知的財産権紛争を正確に審理するために、行為保全案件を更に精緻、具体的にする弁案規範であり、適時、有効に当事者の合法的権益を保護する堅実な保証が提供された、ということです。

  法律的に見れば、訴中行為保全を運用し、ある行為の禁止を通じて、自己が損害を受けない或いは損害が継続して拡大しないよう保護することは、自己の権益に対する非常に有効な保護措置であるといいます。

異議申し立て中でも、裁定執行停止はできない

 裁判所が一旦法律に基づいて訴中行為保全裁定を出して、一方の当事者による一定の行為の禁止、例えば輸入、販売、販売許諾等を禁止したとすれば、その当事者は当然に遵守ならびに執行しなければならないといいます。もし保全裁定が不服ならば、中国民事訴訟法の関連規定にもとづいて、当該当事者は裁判所に対して異議申し立てが可能ですが、申立期間に裁定の執行が停止されることはありません。

 よって、今回の紛争から観ると、アップル社は「訴中臨時禁令」に対して異議申し立てはできるものの、保全裁定は送達された時点で効力が生じるため、異議申し立てをしても裁定の執行を延期することができないこととなります。保全裁定が覆る以前においては、アップル社は厳格に「禁令」を執行しなければなりません。そうでなければ、案件の審理継続にあたって不利な影響があるにとどまらず、民事訴訟妨害の嫌疑にもつながるとか。関連法律規定にもとづき、Apple社とその経営陣は罰金、勾留などの処罰を受けることになり、もし犯罪を構成する程度のものと見られれば、刑事責任を追求されることになるといいます。

なぜiPhoneが未だに販売されているのか、その答え

 はい、ここまで法律的な話が続きましたが、ここからが「結局、なんでまだApple製品が中国で売られているのか?」という話の結論。

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 現実的な話として、これは行為保全裁定に法律上の遡及力がないため、要は「禁令」が効力を発した以前に、既に輸入、販売、販売が許諾されたAppleのスマホ製品に対し、「禁令」は法的効力を持たず、川下の販売業者は依然として在庫を継続して販売することが可能であり、更に「禁令」はAppleの中国子会社4社に対してのもので、川下に当たる販売業者を対象にしていない、ということです。

 この他、訴訟行為保全、とくに訴中行為保全の「殺傷力」ですが、「戦わずして勝つ」ことにもなる、特に生命周期の短い製品或いはサービスだと、訴中行為保全は直接関連企業の業務が正常に展開できない自体を招き、商業上の重傷を受けることとなって営利能力に制限を受け、相手方の当事者に妥協せざるを得ない状況にもなり得るといいます。

 と、いうことで、「クアルコムの勝利宣言」と、「なぜまだiPhoneの全モデルが中国で販売されているのか」、という謎は解けましたね。中国を舞台とした訴訟戦ニュースを読み解く上でも、参考になる話だと思います。

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