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グーグルのAIが「折りたたみスマホ普及率4割」と嘘をつく。背景に「検索品質の劣化」や「新聞・リリース配信」のハック

 GoogleのAIに、「日本の折りたたみスマホ普及率は?」と質問すると、「40%」という嘘の回答をしていたことがわかりました。

 検索結果における生成AI回答(SGE)においても、Google Bardにおいても同様。

Google検索AI SGE

AI Google Bard

 成長しているとは言え、世界シェア2%以下とまだまだこれからの新興分野である折りたたみスマホが、40%というのは荒唐無稽な数字で、明らかに実態とは大きく乖離しています。

 こうしたAIの回答は、Google検索の上位に基づいています。

 昨今のGoogleの検索品質への評判は良くありません。「よく見ていたサイトが見つからない」などの声が利用者からSNS上でよく聞かれるようになりました。

 これらの問題は、企業ドメインを「最恵国待遇」するアルゴリズムが関わっています。

 Googleは2023年8月からコアアップデートを実施しており、精度が低下していましたが、10月・11月のコアアップデートでは、Google Discoverにおいてもその表示結果がおかしくなっています。従来表示されていた多種多様なWebサイトが表示されなくなっています。企業ドメインを過剰に優遇することで、それ以外の個人サイトなどの評価が著しく低下しているためです。

 現在、Google Discoverには画像文章を全て生成AIと機械翻訳のみで生成したサイトが複数見られます。そのうちの一つは、大手媒体からも被リンクを受けている科学サイトの中古ドメインを買って運用されているものです。中身やユーザビリティではなく、ほぼドメインパワーばかり見ているというわけです。まるで被リンクばかりが評価される10年前のGoogleの品質水準に戻ったよう。Googleアルゴリズム精度の現在地を象徴する事象です。

 ドメインパワーの非常に強い企業ドメインをハックするひとつの手法が、プレスリリースを打つことです。プレスリリースを配信することで、プレスリリース配信会社にページを掲載でき、さらにそのプレスリリース配信会社の記事を配信している新聞社に掲載されるという流れがあります。それをさらに様々な媒体やWebサイトなどが取り上げることで、被リンクを集め、検索結果で上位に表示させることが可能です。

 11月28日に合同会社リュミエールデスポワールが「折りたたみスマホを持つ人の割合は40%!」といったプレスリリースを打っています。Googleの検索結果にはこの調査プレスリリースの転載が上位表示されており、AIはこれを参照していることがわかります。

荒唐無稽な「調査結果」のプレスリリース

 このプレスリリースは驚くことに、読売新聞も掲載しています。PR Timesのプレスリリースは、複数の新聞社などが自動で転載して配信する仕組みがあります。これらのページが企業ドメイン偏重のGoogleの検索結果上位に表示され、AIが信じるというわけです。

読売新聞

 なお、この調査結果は滅茶苦茶です。仮に4割が折りたたみスマホであるとすれば、「半分近くをiPhoneが占める」日本市場においては、Androidスマホの大半が折りたたみスマホということになります。世界シェアの数字、日本市場におけるiPhone比率からの推定、普段生活していて周りが使っているスマホからの肌感、あらゆる観点から、この数字がおかしいことは即座に見破れるはずです。

 さらに、折りたたみスマホ利用者の比率も完全に滅茶苦茶で、Galaxy Z Foldシリーズ使用率が21%と、Xiaomi MIX Fold/OPPO Find Nシリーズ使用率合算が20%と、ほぼ同等となっているのです。後者はそもそも日本国内で販売されていません。ここからも調査が全く不正確であることが見て取れます。

 実際の調査対象者数が公称値よりも少ない捏造調査、または調査サンプルが異常に偏っている、もしくはその両方といった可能性が考えられます。

 今回の出典元とされるページへのリンクにはnofollow属性が設定されているようで、配信後すぐにページランクの向上に大きく貢献はしていない可能性もあります。しかしながらプレスリリースというのは、様々な媒体がそれをネタにして記事化に繋がります。その時点でnofollowは外れ、被リンクによるページランク向上や流入など、様々な恩恵があります。そもそもリンク先となっているWebサイト「Happy iPhone」には、調査結果に関する発表の記事はなく、リンク先URLもトップページです。プレスリリースに、出典元ではないサイトトップページへのリンクをあえて貼っていることに意図があるのは明白です。

「出典元」とされるリンク先はトップページで、個別の調査に関する記事はサイト内に存在しないので、出典ではないし引用もしようがないが、該当業者はここへのリンクをするよう求めている

 PRTimesの場合、1回あたり3万円などからプレスリリースの配信が可能ですが、少なくともそれをペイできるだけの恩恵があるということでしょう。以前からリュミエールデスポワールは同様の行為を繰り返しており、「存在しない機種(未発表機種)の調査」をプレスリリースで打ち、大手ITニュース媒体に掲載されたことや、その他微妙なアンケートを出版社運営の媒体に掲載されたなどの実績を確認できます。

 このように、ブラックハットSEOでハックする悪質業者は存在します。SEOに強いだけで粗悪なページを生成しているサイトは企業も運営していますし、中身が酷くても異常に優遇されるならば企業も粗製濫造へと、水は低きに流れます。東京電力系列のWebメディアが「実機レビューを謳うも、ただの低品質な紹介記事で、実機写真は全て公式サイトの画像を表示した画面を直撮り」といった粗悪な記事を連発し、優遇表示されていたのは記憶に新しいところ。

 実際、この調査の存在を筆者が知ったのは、読売新聞に掲載されたプレスリリースがGoogle Discoverに「おすすめ」として表示されていたからです。

 SGEの回答元を担保するために企業ドメインの異常な偏重へと切り替えたのだと思いますが、結果的に検索以外のDiscoverやAIの著しい品質低下も招いています。地盤沈下を避けるには、Googleはアルゴリズムの企業ドメインの異常偏重を正す必要があります。

 また、嘘だらけのプレスリリースが配信されないよう、リリース配信会社も責任を持って何かしらのチェックを入れる努力は必要です。

 ただ、それでもチェックには限界があります。新聞社も悪質なプレスリリースが自社サイトに配信されることを前提に考えるべきです。プレスリリース配信会社からの自動配信について抜本的な見直しが必要なのかもしれません。

 記事公開時点で、該当のプレスリリースは削除されました。

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