Xperiaに関するリークに定評のあるZuckbuks氏により、近年のXperiaを象徴する要素である21:9の画面比率をやめ、画面解像度も 4K から 2K になるという情報がもたらされました。
第一印象としては悲報とも言えそうですが、ソニーのスマートフォン事業の現状や昨今のスマートフォン向けディスプレイメーカー事情を加味すると、納得が行く部分があったりもします。本記事ではそのあたりの事情を読み解いていきます。
ディスプレイサプライヤをとりまく状況の変化
スマートフォン向けの有機ELディスプレイ(OLED)においては、長らく韓国サムスンディスプレイが他社より表示品質で優れる状況が続いており、サムスンディスプレイの有機ELディスプレイを搭載していることをセールスポイントとするメーカーも数多く存在していました。
しかし近年、他社の技術が向上することにより状況が変化してきました。特に中国TCLグループのCSOT(China Star Optoelectronics Technology)や中国BOE製の有機ELディスプレイの表示品質が飛躍的に向上しており、OnePlusやXiaomi、Motorolaもフラグシップモデルで採用を進めています。
特にCSOTのパネルはサムスンディスプレイが未だ対応できていないネイティブ10bitカラーの表示に対応しており、Xperia 1シリーズが当初から抱える8bit + スムージング 2bit の疑似10bit問題を解決しています。
Xperiaは初代有機EL採用機種であるXperia XZ3こそ韓国LG Display製の有機ELパネルを採用していましたが、以降のハイエンドシリーズでは一貫してサムスンディスプレイのパネルを採用しています。
機種名 | パネル型番 | サプライヤ | 再利用回数 |
---|---|---|---|
Xperia XZ3 | LH599QH3 | LG Display | 0 |
Xperia 1 | AMB650WH07 | Samsung Display | 0 |
Xperia 5 | AMB609TC01 | Samsung Display | 0 |
Xperia 1 II | AMB650YL01 | Samsung Display | 0 |
Xperia 5 II | AMB609VP01 | Samsung Display | 0 |
Xperia 1 III | AMB650YL01 | Samsung Display | 1 |
Xperia 5 III | AMB609VP01 | Samsung Display | 1 |
Xperia 1 IV | AMB650YL01 | Samsung Display | 2 |
Xperia 5 IV | AMB609BN01 | Samsung Display | 1 |
Xperia 1 V | AMB650YL01 | Samsung Display | 3 |
Xperia 5 V | AMB609BN01 | Samsung Display | 2 |
特注のディスプレイパネルを採用していますが、近年は新規パネル設計と製造にかかる費用を低減するためか旧モデルのパネルを再利用するパターンが増えていることが読み取れます。
パネルを再利用することは他メーカーでも一般的に行われていますが、使われる発光材料やバックプレーンの刷新が行われないためディスプレイ輝度や消費電力面で他社に劣る状況が続いており、近頃のモデルでは輝度を向上させたためか焼付きが発生しやすいという報告も増えつつあります。
“数が出ない”割に攻めた設計の多いXperia
正直な所、今のXperia事業は成功しているとは言い難く、全盛期に比べ世界的な出荷台数は大幅に低下しており、市場シェア統計を見ても “その他” に分類されるほどしか売れていない、 “数が出ない” 状況です。
スマートフォンに限らず、近年のデジタルガジェットの多くは大量生産によるコストメリットを効かせることで製造コストを下げ、その分競合他社に対する何らかの差別化を行うことが一般的です。例えば、最新のディスプレイパネルを採用したり、大型のカメラセンサーを搭載したりです。
もちろん、それ以外の手法でもコスト低減が行われます。ASUSのZenfoneシリーズでは、軽くて耐久性のあるフレキシブル有機ELパネルの代わりに安価なリジット有機ELパネルを採用したり、小型で廉価なバイブレーション用モーターを搭載したりなどの工夫がされています。
しかし、Xperiaの内部を見てみると “数が出ない” コストメリット的に厳しいスマートフォンにしては特注品のカメラモジュールを採用したり実装面積を面積を二層基板を採用するなど、コストのかかった攻めた設計をしていることが見て取れます。
ただし、これによって製造コストが嵩み、市場価格が年々上昇しています。特にフラグシップのXperia 1シリーズの価格は17万円を越えており、気軽に手が出せるものではありません。
当然ながら販売価格の上昇は購入者の層が絞り込まれ、更に数が出なくなる状況を招きます。そして数が出なくなれば当然製造コストは更に上昇します。ある意味、負のスパイラルに陥っていると言えるでしょう。
21:9比率と部品実装面積
21:9の画面比率は近年の縦スクロール型アプリにおいて表示できる情報量が多いなど利点もありますが、製品を作る上での足かせにもなり得ます。特に顕著なのが筐体の横幅が細くなってしまい部品の実装面積が確保しにくいという問題です。
近年のスマートフォンはカメラセンサーの大型化やチップセットの冷却強化など、性能の向上に伴って部品面積を多く確保することがますます重要になっています。
一方で、Xperiaの21:9ディスプレイを採用する筐体では、他社の製品に比べ横幅が狭く部品の実装面積が限られてきてしまいます。二層基板を採用したり特注の小型部品を製造することで対応はできますが、それは製造コストにダイレクトに影響してきます。
前述のコスト増のスパイラルに陥っているXperiaにおいて、そこまでして21:9の画面比率を継続し続ける必要があるかというと、なかなか難しい判断になるのではないかと思います。
次世代Xperiaは「合理化」が進む?
これらの現状から、筆者は次世代Xperiaは合理化を進めたものになるのではないかと予想しています。
有機ELディスプレイの技術においては、POL-less (偏光板レス)やY-OCTA (タッチセンサ内蔵)など未だにサムスンディスプレイがリードしている部分もありますが、表示品質という面だけで見れば中国メーカーのパネルでもほぼ同水準を実現できるでしょう。
また、TCL CSOTのパネルを採用すれば、ネイティブ10bitカラーを実現することもできます。見分けられる人が居るかどうかはともかく、進化ポイントとしてアピールすることはできそうです。
21:9比率をやめることで、より大型の部品を採用することができるようになります。より大きなカメラセンサーを搭載することもできるでしょう。もちろん、設計にも余裕が産まれ、製造コストを下げることもできそうです。つまり販売価格を下げられるかもしれません。
もちろん、Xperia 1シリーズを愛用していた筆者からすれば、アイデンティティでもある21:9の画面比率をやめてしまうかもしれないのは残念に思う部分はあります。しかし、このまま販売価格が上がり続け、誰も買えなくなり事業が行き詰まるよりははるかに良いのではないでしょうか。
筆者はフォルダブルへの移行を機にXperia 1シリーズからGalaxy Z Foldシリーズへ乗り換えてしまいましたが、また買いたい、使いたいと思えるXperiaシリーズが登場することに期待したいと思います。
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