セキュリティ研究科の高木浩光氏が、ブログの最新のエントリーを更新、総務省のガイドライン改正により認められる「GPS捜査」により、移動体通信事業者と警察が法律に触れるおそれがあることを指摘しています。
これまでの「GPS捜査」についてのまとめ
遭難者を正確に早期発見するため、携帯電話の緊急通報時にGPS情報を遠隔送信できる仕組みが2007年に作られました。警察は、この仕組みを犯罪捜査にも流用しようと考えたのです。
GPSの測位情報を使った警察による捜査について、刑事訴訟法の中には規定が存在していません。このため、携帯電話・スマートフォンに内蔵したGPSを、警察が捜査に活用できるのかどうか、総務省が2011年、個人情報保護ガイドラインを改正することによって定めることになりました。
しかしユーザーの所有する端末内に蓄積されたデータを、勝手に抜き出して捜査するのはプライバシーの侵害となるとの指摘が日弁連などからありました。
これについて、当時の衆議院法務委員会では平岡法務大臣が、ユーザーが位置情報送信を同意することの必要性を認識しており、GPS測位情報を警察に送信する際にはあくまでも「利用者が知ることができる」ことが必須であると、ガイドラインにも明記されました。
現在、スマートフォン上のGPSの測位情報送信は、携帯キャリアのプリインストールアプリが行っています。このアプリは通常の手段ではアンインストールできないものとなっています。
総務省のガイドライン改正で、位置情報送信を通知しなくてもよくなる
朝日新聞によると、個人情報保護のガイドラインに明記された、GPS測位情報送信を「利用者が知ることができる」との要件が、削除される運びとなりました。警察の要望に総務省が応える形です。
高木浩光氏のブログによれば、振り込め詐欺の容疑者を特定しやすくするためといった名目で、GPS捜査ができるようガイドラインの改正が閣議決定されており、削除は既定路線だそうです。
GPS捜査の総務省ガイドライン改正で携帯電話事業者と警察が不正指令電磁的記録の罪を犯すおそれ
警察の要望としては、容疑者に気付かれないよう、画面表示はおろか端末を鳴動すらさせたくないようです。警察に対する総務省の回答としては、iPhoneに関してはそもそも第三者測位機能がないため不可能とのこと。
今後のiPhone以外のキャリア販売端末は、警察が端末内のGPS測位情報を、所有者の同意なく抜き出せることになる可能性があります。既存のAndroid・フィーチャーフォンは、アップデートが行われることも想定されます。
こうしたアプリのプリインストールやアップデートによって、ユーザーの知らぬまま、警察に測位情報が送信されてしまうことは、きちんと知らされるのでしょうか?警察側の要望に最大限応えるならば、それすらも知らされない懸念もあります。
警察と携帯キャリアが「不正指令電磁的記録に関する罪」を犯す可能性
高木浩光氏は、本人に無断でGPS情報を送信するような捜査目的のアプリを勝手にインストールすることは、キャリアが全ての端末を支配してかまわないというガラケー時代の感覚を未だに引きずっていると一刀両断。無断インストール行為が刑法168条の2「不正指令電磁的記録に関する罪」を犯すことになり、ひいては同条文の保護法益であるコンピュータプログラムに対する社会的信頼を侵害することにもなると警鐘を鳴らしています。プリインストールアプリの改修を行った時点が作成罪の既遂、そのアップデート配信を可能にした時点が供用罪の既遂となり、警察も携帯キャリアの共犯となるとの見解です。
本件について、高木浩光氏は総務省へのパブリックコメント(未提出)もブログにて公開しています。
携帯キャリアは一体どのように警察の要望に応えるのか、今後の動向を注視する必要があります。
筆者の予想
どのようにアップデートしてくるかはわかりませんが、おそらく、携帯キャリアは警察の要望に従うとともに、あらかじめ包括的な規約に同意させることで、「無断送信されることをユーザーが納得している」という体裁を整えると思います。以下の画像は最新機種にインストールされた「ドコモ位置情報」アプリのプライバシーポリシー。
第三者提供等の有無2の(5)で、キャリアは「『国の機関』が『本人の同意を得ることによりその遂行に支障を及ぼすおそれがある場合』は個人情報を第三者に提供」すると書かれています。この規約に同意したことを、通知も鳴動もせず、ユーザーの知らないうちに測位情報を警察へ送信する根拠とするのではないでしょうか。
このアプリはイマドコサーチ等のドコモサービスのほか、端末紛失時の捜索サービスにも必要となります。