2011年は「今年こそ電子書籍元年だ!」とか「ペーパーレス社会への系譜!」と騒ぎ立てられた電子書籍だが、どれくらいの方が電子書籍コンテンツを楽しんでいるだろうか?
筆者はiPadをはじめとするタブレットPCでマンガを読んでいる人はちらほらと見たことはあるが、電子ペーパーを搭載した電子書籍リーダーを使っている人を見たことが無い。
そんな中、Amazon Kindleの日本参入が異常なほど注目を集めている。
その背景には電子書籍リーダーの魅力ではなく、既存の「本」というメディアの流通を根本から覆すという「市場再編」への期待が膨らんでいるように感じられる。
しかし、電子書籍リーダーのガジェットとしての魅力を語ろうとしている人は少ない。
今回はコンテンツ革命の裏で、日の目を浴びない「電子書籍リーダー」というガジェットについて、SONYのReader「PRS-650」で迫っていきたいと思う。
◆本当に紙のような画面
電子書籍リーダーは電子ペーパー(E-ink)と呼ばれる、液晶や有機ELとは違うディスプレイを利用しており、本当に紙を見ているかのように感じられる。
PRS−650で採用されているディスプレイは以下の性能だ
- 6インチ
- 16階調グレースケル
- 解像度600×800
フルカラー表示が当然となった中、たった16階調しか表示出来ない画面に魅力を感じない人もいるだろう。
筆者は「文庫本の1ページがそのままディスプレイになっている」と想像してもうのが一番妥当だと考えている。
誤解をしてしまってはいけないのが「バックライトのないモノクロ液晶」と「電子ペーパー」は大きく違うということだ。
精細感が非常に高く、実際に紙に印刷されたものが、画面に差し込まれているようにも錯覚するほどである。
実際に表示している画像をいくつか掲載するので、精細さを実際の目で確認してほしい。
文字サイズを最小にしても、可読性は高い。
文字サイズを最大にしても、アンチエイリアスの効いた綺麗な文字が表示される。
静止画を表示させた例。
解像度の高い画像では表示が崩れている箇所が見られる。
画面の解像度が800*600のため、画面の解像度に合わせてリサイズすれば、非常に精細感の高い画像を楽しむことが出来る(ただしモノクロ)
逆に電子ペーパーは描画に時間がかかるという弱点も持っている。
昨今の、応答速度の高い液晶になれていると、描画の遅さは大きなストレスに繋がる。
以下の動画が参考になるので、どのような感じがを把握してほしい。
(30秒周辺から、描画の様子を確認できる)
◆優秀な電池の持ち
Readerをはじめとする電子ペーパーを採用した電子書籍リーダーの電池の持ちは非常によい。
普段、スマートフォンは1日に1回から2回。タブレットの場合でも5日に1回は充電を必要とするが、Readerの場合は1週間は余裕で電池が持ち、利用頻度にもよるが2週間は充電の必要が無い。
本を読みたいと思ったときに読める。電池の残量を意識する必要もない。充電というストレスから解放されるのはタブレットよりも非常に大きな利点といえるだろう。
◆しかし、コンテンツが無い
これだけの魅力を持っていながら、なぜ電子書籍は普及しないのだろうか。
理由は単純で「コンテンツが無い」からだ。
いくら優秀なビューワがあろうとも、表示するものが無ければ意味が無い。
SONYも公式のストアを運営しているが、本のタイトルは少なく、価格も高い。
読みたいものが無ければ、電子書籍リーダーの価値はこれっぽっちも無くなってしまう。
プレイしたいゲームが無ければ、そのゲームハードを買わないのと同じように、読みたい本が無ければ、電子書籍リーダーを購入する必要はこれっぽっちも見当たらない。
価格の面でも、電子書籍は一度データとして取り込んでしまえば、実際の紙のように、印刷機を動かす必要も、紙に印刷をする必要も無いはずだが、実際の「本」と「データ」が、同じ価格で販売されているのは、どうも納得がいかない。
納得がいかないというよりも、出版側からしてみれば
「電子書籍?ああ、いいよ。実際の紙の本のオマケみたいなもんでしょ?適当にやっておくよ」
「値段を紙の本より低くすると紙が売れないじゃないか!」
といった感覚なのかもしれない。
Amazon Kindleの日本参入によって、既存の市場をかき回し、十分なコンテンツが適切な価格で提供されるようになったとき、初めて電子書籍リーダーは、一般層にも魅力的なガジェットになるのかもしれない。
蛇足だが、筆者は青空文庫やProject Gutenberg – free ebooksで手に入る無料の書籍や、企業が出しているPDFの技術書を読むだけで満足している。情報処理試験の過去問もPDFファイルで無料配布されているので、学習にも役立ち非常に重宝している。