ASUSが展開するROG Phoneシリーズも順調に代を重ねて今年で3代目ですね。この記事ではその特徴的なディスプレイについてのみ焦点を当ててみます。
初めに
ここ数年ディスプレイの付加価値を高めるために、ビデオ信号処理を専門とするPixelWorks社の技術を採用するメーカーが増えています。
特に最近のOPPO Find X2/X2 ProとOnePlus 8/8 Proは同社のカラー調整技術を採用したことにより、Display Mateという画質評価の権威から最高評価であるA+認定されました。
ASUSも2018年に発表した初代ROG Phoneで同社の技術を採用しており、第4世代Irisビジュアルプロセッサーというチップでディスプレイの映像信号を処理しています。
翌年2019年発表された後継のROG Phone IIでは、チップではなくSoft Irisという先程の第4世代Irisチップの機能を、ソフトウェアのみで実現したものが搭載され、スマートフォンでありながら平均Delta E < 1という高い色精度を実現していました。(Delta E < 3以下だとほぼ人間には色の違いを感じることが難しいと言われています。)
ROG Phone 3ではどんな技術が?
もちろん今回のROG Phone 3のディスプレイにもPixelWorks社が携わっています。
ただ、プレスリリースを読む限りではチップではなく、新しい第5世代IrisチップをベースにしたSoft Irisを搭載していると考えられます。
それとは別にもう一つ、このROG Phone 3には大きな目玉ポイントがあります。それは出荷前に全端末をカラー調整をしているということです。
数十秒で1台という特許取得済みの高効率な自動カラー調整技術は、既にOPPO Find X2/X2 ProとOnePlus 8/8Proでも同じことが行われています。昨年、ソニーがXperia 1 Professional Editionにて1台ごとのカラーキャリブレーションを実施しましたが、業界の新しい流れになりましたね。
高い色精度を誇っていると宣伝されていたのに、実際計測するとそうでもなかった……というディスプレイはよくあります。しかし、既に高い評価を得ている端末でも採用されたカラー調整技術である、というのASUSが言うDelta E < 1というのもある程度信頼に足るものではないでしょうか。
以下は前モデルであるROG Phone IIとの比較です。
機種 | ROG Phone II | ROG Phone 3 |
---|---|---|
画面サイズ | 6.59インチ | 6.59インチ |
ディスプレイタイプ | AMOLED | AMOLED |
パネルタイプ | フレキシブル | フレキシブル |
解像度 | 2340*1080 | 2340*1080 |
アスペクト比 | 19.5:9 | 19.5:9 |
コントラスト比(定格) | 500,000:1 | 1,000,000:1 |
輝度 | 600nit(屋外最大) | 650nit(屋外最大) / 1000nit(ピーク |
リフレッシュレート | 120Hz | 144Hz |
タッチサンプリング | 240Hz | 270Hz |
タッチレスポンス | 1ms | 1ms |
色深度 | 10bit | 10bit |
サポート | DCI-P3 111.8% / NTSC 107.4% / sRGB 151.7% / HDR 10 | DCI-P3 113.3% / NTSC 108.8% / 153.7% sRGB color / HDR 10 / HDR 10+ |
色差 | Delta E<1 | Delta E<1 |
高リフレッシュレートを実現できたのは?
高速でディスプレイを書き換えるために欠かせないのが、ディスプレイドライバーIC(以下DDIC)と呼ばれるチップです。そのDDICには様々な機能がありますが、主にCPUから送られてきた信号を処理し、ディスプレイに駆動振動と表示信号として送る役割を担っています。
つまり、このDDICが高速な駆動処理に対応していなければ、どうやってもディスプレイで90Hzや120Hzの書き換えを行うことが出来ないというわけです。
仮にもし、Irisチップを搭載した場合はCPUとこのDDICのの間に配置され、色調整や端末の周辺環境に合わせて調節してから、その信号をDDICに送るという流れになります。
さて、このDDICですがいくつかのメーカーがあり、また液晶と有機ELでは仕組みが違うため別々に開発しなければなりません。Samsungの場合は自社の半導体部門で開発したものを主に採用し、LGの場合同じ韓国のMagnaChip製のものを採用していました。
数年前までスマートフォン向け有機ELはSamsungの独壇場だったため、おのずとDDICのシェアもそうなるわけですが、ここ最近の中国メーカーの台頭で少し勢力図が変わってきています。
その中で最近採用が目立つのがアメリカに本社を置くSynaptics社です。高いリフレッシュレートに対応したDDICはいくつものゲーミングスマホでの採用実績があります。ROG Phoneシリーズも初代からそのDDICを採用しており、今回のROG Phone 3でも採用されました。
Gaming phones are cutting-edge, ASUS and Lenovo chose Synaptics’ OLED DDIC for the industry’s fastest 144Hz refresh rate. Watch for this premium tech to move mainstream soon. https://t.co/EtAcANjzHE @CherlynnLow @richardlai @IgorBonifacic
— Synaptics, Inc. (@SynaCorp) July 23, 2020
もともとこの144HzのDDICは、日本にも上陸を果たしたNubia RedMagicシリーズで採用されていたので、恐らく同じチップでは無いかと思われます。
また、270Hzのタッチサンプリングを実現するにあたっても同様に高いタッチサンプリング周波数に対応した、タッチコントローラICというチップが必要になります。
Synapticsはそのチップも手掛けており、270Hzのタッチサンプリングに対応したチップも現在は同社製のみしか採用例を確認できないため、ROG Phone 3はDDIC、タッチコントローラIC共にSynaptics製のものを採用していると考えられます。
気になる点
Soft Irisを採用しているとなると、専門的な処理だけをフルに行えるチップと違い、いくつか機能が制限されます。
例えば、最初に挙げたOPPO Find X2/X2 ProやOnePlus 8/8 Pro、ライバル端末でありXiaomiが出資している、BlackShark社のBlackShark 3シリーズには実際に第5世代Irisチップが搭載されています。
それによりMotionEngineテクノロジーという、フレームレートの低いコンテンツを自動でフレーム補完するMEMCテクノロジーや、ジャダー除去という恩恵を受けることができるのですが、残念ながらSoft Irisでは現在そのようなことができません。
より駆動が最適化されたディスプレイを備えた端末と、単純に数値の高い144Hzのどちらが良いのかは実際に見て見極めなければなりませんが……。
最後に
スペック表を見てのとおりディスプレイの解像度はそのままでリフレッシュレートや輝度、色域など全体的に向上しています。ROG Phoneシリーズはゲーミングスマホという立ち位置でありながら画質にもこだわっている端末であることがわかります。
ROG Phone 3はAmazonやNetflix、YoutubeのHDR認定も受けており、大きなフロントステレオスピーカーもあるのでゲームだけでなく映像コンテンツも高画質で楽しめる魅力的な端末だと言えると思います。