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中国ハイテク警察解体新書2:「人材供給源」中国人民公安大学(上)

 浙江省公安庁の広報ニュースとして、非拘束人員、つまり留置所や拘置所で拘束されない、保釈された被疑者と被告人の監視システム開発者のニュースが掲載されていました。「健康管理アプリに着想を得た」というこの開発者、プロフィールは次のとおり。

 鐘毅、1990年生、浙江杭州人、中国人民公安大学卒、復旦大学修士(在職中に取得)、中国共産党員、杭州市公安局科技信息化(科学技術情報化)局計算機応用管理科科長。

 「そういや中国人民公安大学って何をしているんだ……?法学、国際関係学とか……?基本的に法学部みたいなもんかな?」とぼんやり考えながら読み進めていると、次の文章がありました。

「科学技術人民警察が『法がわからない』と、とても受動的である。これが鐘毅が抱いた最大の感触だった」

「研究開発初期、彼はすすんで関連法令を学習し、警察法制、検察、裁判所などの部門について十分に業務上のニーズを理解し、門外漢からちょっとした達人となった……」

 え、この人法律門外漢なの?!一般大学でなく中国人民公安大学出身だよね、なにを勉強したの??中国人民公安大学ってなに?!

 そんなわけで今回は、中国ハイテク警察を支える人材を育成する、中国人民公安大学をみていきたいと思います。

中国人民公安大学とは?

中国人民公安大学HPより。もちろん党に忠誠を誓う

 中国人民公安大学は、北京市西城区に所在する国務院公安部直属の全日制普通高等教育機関、要は四年制大学+修士・博士課程のある大学院です。つまり、防衛大学校や警察学校のように、学生・生徒を公務員として採用するわけではなく、学生は民間人ということになります(入学条件はあとで詳しく書きます)。

 校訓は「忠誠、求実、勤奮、創新」。忠誠の対象はもちろん党、国家、人民として、イノベーションを意味する「創新」が目を引きます。

 創立は1948年7月(建国前ですね)、中国共産党中央が河北解放区建屏県(現在の平山県)に設立した河北保衛幹部訓練班を前身としています。その後、河北公安幹部学校(1949—1950年)、中央公安幹部学校(1950—1953年)、中央人民公安学院(1953—1959年)、中央政法幹部学校(1959—1982年)と中央人民公安学院(1982—1984年)等を経て、1984年に中央人民公安学院を全日制普通高等教育機関に改めて中国人民公安大学が成立。1998年2月、中国人民警官大学と合併。2000年、交通部北京交通人民警察学校を編入しています。

 建学以来、32万人の各級指導者と専門人材を輩出し、「共和国警察の揺籃」の誉れをとるといいます。

どんな専攻がある?

  学院(学部)と専攻分野は次のとおり。

学院
専攻
法学院
——
治安学院
治安学
偵查(捜査)学院
国内安全保衛(日本では「公共安寧秩序」、要は公安)、捜査学
反恐怖(テロ)学院
公安(警察、以下同)情报学
犯罪学学院
犯罪学
公安管理学院
公安管理学
国際警務執法学院
涉外警務
刑事科学技術学院
刑事科学技術
警務信息工程(インフォメーションエンジニアリング)学院
安全防範工程、公安視聴技術
網絡(インターネット)安全保衛学院
インターネット安全と法執行
交通管理工程系
交通管理工程
警務指揮戦術系
警務指揮と戦術

 法学院だけは「警察専攻」ではなく、後述するように入学条件や卒業後の取り扱いが異なり、在学中も他の学院のように警察の制服を着用することもありません。どうやら→司法試験→検事か裁判官という進路を想定しているようです。

 やはりといおうか、インフォメーションエンジニアリングとインターネット安全の専攻がありますね。これは、卒業生がどんな実績をあげているか、あとで見ていくことにしましょう。

 「警務指揮戦術」もとても気になりますが、あまりこの記事の趣旨と関係なさそうなので、ホームページに掲載されている訓練施設の写真をご紹介するにとどめます。

 地下鉄、マッサージ店(売春取締?)、カフェや銀行、役所からちょっとした街まで、セットが組まれています。「中国では、こんな施設で将来の警察幹部を育成しているんだ」とスネ夫の声で再生されてくるといおうか、中国公安部、金持ちすぎてワロタって感じですね。

「腋臭は要らない?」いろいろある入学条件

 一般大学なので、まずは高考(共通テストのようなもの)を受験することになります。高考昇学網によると、必要な得点率は60.49%。ランキングは全国250位。お世辞にも難関大学とは言えないですね。

 ただし、本科招生章程(学部生募集規程)によれば次の条件が別途あります(※は法学院のみ免除)。

  • (一)中華人民共和国国籍
  • (二)中華人民共和国憲法と法律を遵守すること
  • (三)熱愛祖国、熱愛人民、熱愛中国共産党、熱愛社会主義制度
  • (四)道徳品行に優れていること
  • (五)熱愛警察業務、国家の政治安全と社会の安定の為に学業に励み貢献する志のあること※
  • (六)高等学校卒業
  • (七)満16歳以上、22歳以下、未婚※
  • (八)思想政治素質良好にして警察関連学校の学生募集政治条件に適合していること※
  • (九)身心健康にして、警察関連学校の身体検査及び体力測定基準に適合していること※

 「熱愛祖国、熱愛人民、熱愛中国共産党、熱愛社会主義制度」にまさか不適合な不届き者はいないとして、身体検査と体力測定が気になるところ。

 まず、身体検査の基準は次のとおり。

  • (一)身長:男性170cm以上,女性160cm以上。
  • (二)体重:男性体重指数(kg/cmの自乗)17.3~27.3、女性17.1~25.7。
  • (三)視力:左右いずれも裸眼0.6以上。
  • (四)色覚:色盲、色弱不可。
  • (五)外観:なんだか白髪が少ないかないかだの、背骨が曲がっていたらダメだの土踏まずのない扁平足はお断りだの色々書いていますが、外観でもないのに「腋臭はダメ」だそうです。

 法学院以外は、省級警察機関政治組織の審査、面接、身体検査と体力測定を受けることになっています。

 卒業=任官・配属というわけではなく、法学院以外の学生は警察専攻卒業生向けの統一試験(筆記、面接、身体検査、体力測定、審査)を受験し、合格すれば出身地の警察官を拝命することとなっています。なお、移民管理部門だけは特別に志望、受験することになっています。なんなんでしょうね。

まとめ

 中国公安部直属ながら、一般の四年制大学という位置づけの中国人民公安大学。法学は警察関連専攻ではなく、メインの学科は警察業務に直接関係する、犯罪や捜査、情報技術となっています。

 専門人材を4年間かけて育成してから任官する、という制度自体が日本の警察にはそもそも存在しないので、それだけで「はぇー」となりますが、刑事科学技術、情報技術、インターネットを専攻した学生はどのようなキャリアで、どんな成果を挙げているのか、次回紹介したいと思います。

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