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中国ハイテク警察解体新書3:「人材供給源」中国人民公安大学(下)

 中国ハイテク警察というお題の本シリーズ。ITを活用するにはITの開発、運用ができる人材がいないと話がすすまないところですが、前回とりあげた「中国人民公安大学」の卒業生が、IT分野でどんな活躍をしているのか見ていきたいと思います。

中国の警察組織について

 まず、所属について書いても「分局ってなに?」という話になると思うので、簡単に説明します。

 一応比較基準があったほうがイメージしやすいと思うので、日本の警察から確認すると、警察行政を主管する中央官庁として警察庁がありますが、警察庁は自分で捜査をしません。捜査の主体となる一番上級の役所は、警視庁、大阪府警、神奈川県警といった、各都道府県の「警察本部」となり、警察本部管内に「警察署(政令指定都市の場合は行政区ごと、東京も東京市35区時代の行政区ごとなので同じ。他は市だったり郡ごとに設置されていますね)」、警察署の管内にお馴染み交番・駐在所が置かれていますね。

 さて、中国ですが、警察庁に相当するのが「国務院公安部」ですね。省級地方政府には「公安庁」が置かれていますが、これは何に相当するのか少し難しいです。省公安庁も自分で捜査をしません。例えば、山東省なんか人口1億人を超えるので、それこそ警察庁が自分で捜査するような、大変なことになります。なので、警察庁のようなものという理解でいいでしょう。

 市には「公安局」、これが警察本部に相当し、区に設置される「分局」は警察本部と大規模警察署の間くらいという感覚でしょうか。さらにその下の「派出所」はまあ小規模警察署くらいだと思います。一番下に「社区警務站」があり、これが交番ですね。交番との違いとしては、交番が駅前や大通りに設置されているのに対し、「社区警務站」は団地の居民委員会内に設置されており、より生活密着型といったところですかね。

 次に、「総隊」「大隊」「中隊」という軍隊式のものについて。日本で言う課、えーと、みなさんお馴染み警視庁捜査一課は警視庁〇〇警察署だと刑事課といった具合で、同じ部門なのに警察本部と警察署で名前が違うというややこしいことになっているのですが、「捜査・刑事」という部門がまずありますね。

 中国では、部門ごとに、市公安局偵査(捜査)「総隊」、県は「大隊」、区は「中隊」といった名称になっています。深く考えずに「課」と読んでかまいません。

 制度が異なるので日本の警察組織とピッタリこれが当てはまるというわけにはいかないのですが、大体のイメージはできたでしょうか。

警察業務システム構築を経て捜査システム開発へ

 まずは、警察業務関連情報のデータと犯罪者のプロファイリングにより、膨大なデータから迅速に手がかりを探し出すという、北京市公安局通州分局警務支援支隊総合中隊中隊長、張旗。5月7日「法治日報」から。

 2003年に中国人民公安大学へ入学、専攻は計算機犯罪捜査。卒業後配属されたのは、北京市公安局通州分局科学技術情報処。

 早速自分の学んだことが活かせると思った張旗ですが、まったく勝手の分からないインターネットインフラ通信にまわされ、驚いたといいます。サイバー捜査官として採用されたら交番勤務にまわされることを思えば、まだ近い気がしますがそれはそれ。

 一行一行、複雑なインターネット交換コマンドとネットワーク構築に取り組み、3カ月でインターネットについてわかってきた張旗。

 2014年、通州分局が社区警務工作站(交番みたいなもの)の科学技術情報化建設事業の開始を決定。張旗は隊員を率い毎日数百kmも行ったり来たりして、社区警務工作站の日常業務と情報化に必要なポイントを把握。一つ一つのデータモデルを固め、1カ月で分局管内152カ所ある社区警務工作站の情報化を完了しました。

 2015年には通州が北京副都心として開発されることとなり、北京市公安局は副都心警察業務のIT規格化を決定。張旗も職場に泊まり込み、毎日昼夜突貫で、規格化、子システム管理、30項目以上の情報化プロジェクトを3カ月で完成。

一枚の写真をもとに21年間潜伏していた被疑者を検挙

 2019年、通州分局に警察業務スマート化応用部門が設立されます。張旗は同類の事件の中から応用性が比較的高い事件解決技術を抽出し、42種類の実践的マトリクスシステムを開発、事件解決の捜査「公式」を提供しました。

 張旗は、実例について次のように語ります。

「我々は一枚の黄ばんだ白黒写真だけから、21年間逃亡を続けていた被疑者を逮捕しました。判断がつかず積み上げられていた資料を整理していく中で、我々は大量の履歴を検索していくことで、被疑者の21年前の白黒写真を見つけ出しました。次に、技術的手段を用いて詳細に洗い出したところ、最終的に100枚近い写真の中から、別人の氏名ながらも被疑者がなりすましている可能性が高いと思われる写真を確定。管轄する派出所に連絡し、身分情報を突合したところ、推測について確証がもてたため、逮捕に踏み切りました」

 張旗の例を整理すると、もとはコンピューター犯罪捜査専攻から、ネットワークシステム構築、警察業務情報のデータベース化を経て関連する経験と技術力を蓄積し、データベースを活用した犯罪捜査システム構築へと戻ってきたわけですね。

 中国警察の利用しているシステム、IT専門かつ10年以上の実務経験のある警察官が内製しているというのも、開発力に関わってきていそうです。

留置所での動向を分析して保釈可否を判断

 お次は、前回も軽く紹介した、杭州市公安局の鐘毅。1990年生、浙江杭州人、中国人民公安大学卒、復旦大学修士(在職中に取得)、中国共産党員、杭州市公安局科技信息化(科学技術情報化)局計算機応用管理科科長。

 2020年、今では全国で使用され、人員流動の把握に活用されているコロナ対策システム「健康码」の開発に関わったことで注目されましたが、その後も保釈された被疑者と被告人(非拘束人員)の監視システム「非羁码」、在留外国人管理システム「国际人才码」を開発したIT警察人材。

 「非拘束人員」ですが、被疑者をかたっぱしから留置すればいいというわけではないとはいえ、楽器ケースに入ってレバノンへ逃げたフランス人の例をひくまでもなく、どこかへ消えてしまうと非常に困るといおうか警察は要らないという話になってしまいます。

 そこで、刑事訴訟制度改革の一環として、鐘毅ら研究チームは「非拘束人員デジタル監視システム」の開発に乗り出すこととなりました。

 実験と論証を重ねた2020年10月30日、杭州市公安局、杭州市人民検察院、杭州市中級人民法院、杭州市司法局聯合会が関連規定に調印し、杭州市全市での運用を開始。このシステムは、浙江省改革イノベーションの最高の実践案件例と評されています。

 コロナ対策システム「健康码」は、「緑:入市可」「黄:要隔離7日以内」「赤:要集中隔離14日」と3つの級に分けて管理していましたが、鐘毅はこれを応用し、保釈請求中の被疑者、被告人の動向と総合的な表現を監視することで評価付けしました。

新開発の在留外国人管理システムで270人を摘発

 従来、在留外国人の管理は「内情はつかめない、状況は把握できない、リスク制御できない」とされており、鐘毅らのチームは出入国管理部門と合流し、外国人の「一人一档一码」なる、新たな方式を編み出しました。

 「一人の個人情報、一つの身分、一つの識別番号」、つまり外国人の情報を一つに紐づけて管理するものです。この「国际人才码」を導入したところ、杭州市内に入っているにもかかわらず臨時住宿登記をしていない外国人や、不法就労など270名以上を発見しました。

 ここで「臨時住宿登記」について少し説明をしますと、中国では宿泊施設に泊まる場合、身分証を提示の上宿帳に記帳しなければならないというのはいいとして、外国人が外国人の家に宿泊する場合も、現地の派出所に届け出しなければならないことになっています。正直「なんだそれ」「誰が守ってるんだ」と思いますが、それはそれ。

 また、システム構築以外にもビッグデータを活用した捜査でも実績をあげています。2021年3月、杭州でライドシェアの距離ゴマカシ詐欺が多発していましたが、鐘毅らのチームは48時間以内に捜査モデルを確定し、最終的に被疑者220人以上を検挙、被害総額は160万元以上になりました。

まとめ

 今回は、中国人民公安大学卒業生の人民警察2名の活躍を紹介しました。

 1つ目に紹介した例では、コンピューターを活用した犯罪捜査を専攻として学んだ人材を、あえてインターネット、ネットワークやデータ管理の業務にまわし、経験を積ませた上で、データを活用した捜査システムを作らせるという流れから、他分野横断的な人材育成の成功例なのかなと感じました。

 2例目は25歳で修士号をとりながら班員を率いて次々と管理システムを開発しており、エリート即戦力の例でしょうか。

 なお、今回は紹介しませんでしたが、第一線で活躍している人民警察のIT人材は中国人民公安大学ばかりでなく、他の大学出身者や修士課程修了者から高卒警察学校コースまで幅広くいます。

 今後は、人民警察のIT人材全体をテーマとした記事もお届けできればと思います。

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