整合性がなさすぎる、総務省の携帯料金値下げ

soumu

 料金プランと端末代の一体化や複雑化の要因となっている「実質価格」、これを規制すると言っていた高市早苗総務大臣。この時は私も総務省有識者会議の改革にも少しは期待が持てるかもしれないと思いましたが、結局のところ、携帯キャリアを利する方向性にばかり突き進んでいるようです。

 携帯料金値下げを議論している総務省有識者会議の第4回目は、韓国の法律を真似して、MNPと機種変更の端末価格差を同額にしようと検討していることが明らかとなりました。

 仮にそれが実現した場合、解約金と手数料を払ってまで他社に乗り換えようというユーザーは減るでしょう。他社に負けられない、下手をすれば他社に乗り換えられてしまう……そのような緊張感が無ければ、競争は鈍ります。競争の鈍化は、通信料金の価格の高止まりを招きます。

 これは反競争的な3社寡占の市場においては、低価格を担当するのはMVNOであり、MVNOを支援すればいいという総務省の方針を反映したものかもしれません。別にMNO間の競争なんかどうでもいい、諦めたのだと考えれば、理解はできなくもありません。

 ただし、そうであるならば、MNOにわざわざ1GBプランなんか作らせる必要はないでしょう。政府の介入は最小限であるべきです。勝手に高止まりさせて、MVNOに客が流れるのを見ていればいいはずで、整合性がありません。

 総務省に整合性がないのはこれに限ったことではありません。携帯キャリアが設定した「半年間SIMロック解除拒否」が、政府の消費者保護策「初期契約解除ルール」を無力化するにも関わらず、そのSIMロック解除拒否を容認し、あまつさえ「初期契約解除ルール」を手直しせずに通そうとしているのです。

 MVNOを支援するのであれば、「SIMロック解除拒否」の諸条件や「実質価格」こそ禁止すべきです。「実質価格」とは、端末購入に伴い、2年間の割引がつくというもので、回線を解約すると割引が消滅します。これは事実上の縛りとしても機能しています。これをいいことに、以前の記事で述べたように、携帯キャリアは「実質価格で顧客を縛るため、端末正価を不当に高額に設定する」という傾向を強めています。このような囲い込みは資金力の乏しいMVNOには取れません。

 首相が携帯料金値下げを指示した直後、「事実上一体化している端末価格と通信料金を分離する」というのも重要課題として上がっていました。「実質価格」は、二重価格表示同然であり、わかりづらさの原因そのもので、若者を中心に信用情報がブラック化する問題の原因となってます。さらに、新料金プランに変更しなければ割引をつけないといった強硬な巻取り策も、「実質価格」を悪用することによって行われています。これは有識者会議でも消費者からの苦情として取り上げられています。これらの問題をまとめて解決できるため、「実質価格」の禁止は一定の合理性があります。どのような形で実質価格を禁止するのか注目されていました

 にも関わらず、総務大臣と携帯キャリアとの「非公開会合」の後は、「実質価格」を規制するなど分離・適正負担化する議題は、「不公平感」という曖昧でどうでもいいワードにすり替えられ、MNPの時だけ割引を減額しましょうね、というあさっての方向に議論が進んでいます。その一方で、端末代金を値下げさせないために、携帯キャリアから販売代理店に支払う補助金を減らさせようという規制を行おうとしています。これほど無駄な議論もないでしょう。総務省がさせなくとも、携帯キャリアは既に補助金を減らしていましたから。むしろ政府公認で補助金を減らし放題、横並びで競争を放棄、利益の安売りへの還元を中止できるなんて、携帯キャリアは内心、ガッツポーズをしていますよ。総務省がSIMロック解除義務化で高めることを目指していたはずの顧客流動性と競争は、鈍るばかりで、販売代理店とユーザーとメーカーには利益などありません。

 今回の首相の鶴の一声は「値下げ」でしたが、料金が大して変わるわけでもなく、肝心の端末代は値上がるでしょう。既に上昇傾向でしたし、「実質価格」前提の高い端末代で縛られるだけです。悪くなることのほうが多そうですね。どうせ今後、「本来の端末定価が釣り上げられている」「そのくせ安売りも減った」「スマホを使いこなせるようになったら、1GBプランなんて不要だった」「むしろ大容量プランが高いのだが、なんでこっちを値下げさせなかったんだ」などと気付いていく一般消費者が増えていき、政府の値下げが無駄であったか、むしろ状況を悪化させたとの評価を受け、「不公平感」を活用した人気取りのパフォーマンスとしても失敗であったということになりそうですが。

 そもそも私は「不公平感」とやらが理解できないのですよね。他人のキャッシュバックごとき、どうでもよくないですかね。そりゃ「一括0円・割引特盛り・現金数十万円相当還元」みたいなレベルになると、下品で馬鹿げているとは感じますが、そんなもの、日本国民全員が一斉にMNPでもしたらすぐに破綻し、消滅しますよ。つまり、誰もがポンポンMNPできるよう、解約金・転出手数料・その他違約金らしきものを全面禁止でもしてみたら良かったんじゃないですかね。まあ、この段落は半分冗談ですが。

 ただ、悪いことばかりでもありませんでした、MVNOへのHLR/HSSデータベースの開放など、第4回目までの有識者会議の動きには評価できる部分もあります。やはり反競争的な寡占市場で、MVNOをMNOに対抗するようなプレイヤーに仕立てあげ、競争させたいというのが総務省の思惑なのでしょう。

 私はMNOに真に対抗できる存在は、本来であればMNOのみだろうと思っています。そもそも一社の保有可能な周波数に制限を課した上で電波オークションを導入するなどして、多数のMNOによる自由な競争環境を整えていれば、こんなことにはならなかったと思いますが、もうこういう状態に陥ってしまった後ですからね。総務省の無策がこのような事態を招いたのだから、責任を取って悪者にでもなるつもりで、SoftBankからY!mobileを引っぺがすとか、テレビ局を周波数から退かせるとか、そういう新規参入策を背水の陣で推進するような気概があればいいのかもしれませんが、ないでしょうから、MVNOへの支援が限界なのだと思います。

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