みんな待ってた原点回帰の本気Xperia。今回、Xperia 1のハードウェア・ソフトウェア・カメラとCinemaProなどをレビューします。
Index
Xperiaシリーズを振り返る
X10からXZ3まで
Xperiaシリーズを振り返ると、日本では2010年のXperia X10(SO-02B)から販売が開始され、その翌年に登場したXperia arcはExmor Rが搭載されカメラが綺麗と国内外問わず人気のモデルでした。
しかし2012年のNXTシリーズによって登場したXperia S(国内ではXperia NX)は国内外では微妙な評価。ただ日本国内ではおサイフやワンセグ、防水といった日本機能を搭載したacroHDがヒット。またその夏に登場したXperia SXは100gを切る小型ボディにすべての機能が盛り込まれていたおり、まるでXperia rayの後継機のようでした。このポジションは後のCompactシリーズに引き継がれることになります。
そして2013年に心機一転、Xperia Zシリーズが登場しました。NXTシリーズとは違う、SONYが持つ音響、カメラ、テレビなど多くの技術力をXperiaにつぎ込むOne Sonyを掲げました。Xperia Z2ではウォークマンでお馴染みのノイズキャンセリングや4K動画が撮影できるように。Z3からはSoftBankからも販売開始。こちらはスペックも見た目もよく、OSアップデートもしっかりされたこともあり、長らく人気モデルでした。
Z4はSnapdragon 810を搭載し、発熱対策に苦労したと開発秘話もありました。Zシリーズ最後のZ5は史上初の4Kディスプレイ搭載するPremiumシリーズも新たに展開されました。筆者もZ5を愛用していました。
そして2016年にZシリーズを改め、Xシリーズが登場。しかしXperia Xはミドルスペックな上、日本では高性能モデルのXperia X Performanceが登場するというめちゃくちゃな始まりでした。そして半年後にはXZが登場。早くも頂点を意味するZをリリースされ、X Performanceを購入した人はなんだったのかと、この頃から迷走がどんどんユーザーに伝わっていった気がします。次に出たXZsは間違い探しのレベルで変化が乏しい機種でした。XZ1もチップセットが更新されたものの、外観は変わらず。
そしてとどめのXZ2シリーズ。大してバッテリー容量も増えていない、機能が増えたわけでもないのに肥大化・重量増加によりXperiaユーザーからも見放されました。半年後に登場したXZ3は有機ELディスプレイを搭載し薄くなるものの、時すでに遅し。インパクトに欠け、Xperiaは終わったと言われるようになりました。
そんな中、日本では9年目のモデルになるXperia 1シリーズ。近年のXperiaを見ていると微塵も興味が湧きませんが、どうなのでしょうか。
Xperia 1とは
Xperia ZシリーズではSONYの技術を結集し作っていました。それ故にWalkmanに搭載されていたノイズキャンセリングやDSEEをXperiaに、SONYが誇るGレンズや自社センサーを優先的にXperiaに、BRAVIAで培ったエンジンをXperiaに、とみんながよく知るブランドをXperiaにつぎ込んできました。
しかし、それらは所詮は民生機のトップでしかありません。SONYは国内外を問わず業務用に数々の商品を開発し提供しています。その業務用のノウハウをこのスマートフォンにぶち込むという話を聞いたとき、は、正直言って「デマでは?」と疑いましたが、現実でした。
カメラはαの瞳AFが生かされ、映像ではまさかのCineAltaの名前がついた高度な撮影が可能なアプリが提供されています。そしてディスプレイは業務用基準の高品質な色を再現。サウンドはドルビーアトモスに対応。全てが最高品質で用意されています。
つまり、Xperia 1は民生機と同等のレベルを手がるに持ち運べる時代から、業務用の高いレベルを手軽に持ち運べる時代へステップアップしたように感じます。ましてや民生機レベルではなく業務用レベルのクオリティなおかつ音響、映像、カメラの3つをスマートフォンに落とし込めるSONYくらいではないかと思います。これこそ真のOne Sonyではないか、と私は思います。
でもそう謳っておいて、実用すると所詮ブランド名を借りただけのスマホではないのか?という疑いは拭えません。それを検証するために、様々な環境下で利用しましたので、レビューしていきます。
外観
まずは外観をチェックしていきます。正面はインカメラが一つ、スピーカーが一つあります。
上部はSIMカードトレイとmicroSDのトレイ、そしてキャップが一体になったトレイがあります。こういうタイプは初めてみたのですが、キャップがちぎれることもなく、SIMピンなしで出し入れもしやすいのでめっちゃ便利です。
下部は マイクとスピーカー、そしてUSB Type-Cポートがあります。18WのPDに対応しており急速充電が可能。
右側面は音量ボタン、指紋認証、電源ボタン、カメラボタンとボタン類が集約されています。
XZ1までは電源ボタンと指紋認証が一体でしたが今回は別になっています。理由として、Verizonが電源ボタンと指紋認証が一体構造に近い特許を所有しており、このリスク問題を回避するため。以前までは北米のみ指紋認証の機能を削って電源ボタンとして動作するように変更しリリースするという対応を行っていましたが、今回からはグローバルで仕様を統一するためにこのような措置になったのだと思います。XZ2が背面指紋認証だったのはこのあたりも関係してそうですね。
電源ボタンが別で用意されていますが、従来機種通り指紋認証部分を触るだけでスリープは解除されるので、それほど違和感なく利用できます。
背面は標準(26mm)望遠(52mm)広角(16mm)のトリプルカメラ構成。LEDフラッシュの横にはRGBC-IRセンサーが搭載されています。
カメラ横にはNFCマーク(docomo版・au版はFelicaロゴ)があり、本体中央にはSONYロゴ、下部にはXPERIAロゴがあります。(docomo版・au版はロゴの配置が異なります)外観にこだわるならソフトバンク版一択ですが、本体価格が1番高額なので要注意。
ディスプレイ
21:9のシネスコディスプレイ
ディスプレイは有機ELの6.5インチ21:9の超縦長のディスプレイを搭載。一般的にシネスコが2.35:1と言われているのでXperia 1の21:9は2.3333…なので完全なシネスコではありませんが、非常に近い比率です。
解像度は3840×1644と一応4K。発色はかなりよく、多くの有機ELデバイスで感じるドキつい印象もありません。解像度も4Kなのでドットが目立つと言うこともなく文句なしで良いです。またHDRにも対応しているので、一度4K HDRコンテンツを見るともう他のスマホで見る気が起きないほど綺麗です。(既にXperia 1をお持ちの方、4K HDRのサンプル動画はこちら)
NetflixやYouTubeでシネスコサイズのコンテンツを再生すると画面いっぱいに表示されると余白のない映画が手のひらいっぱいに広がる、今までにない新感覚が味わえます。一度味わうと癖になってしまいます。狭額縁のデバイスで写真をいっぱい広げたときのような感動が再び味わえます。
ただ横持ちで16:9のコンテンツを表示すると左右に大きな余白ができてしまいます。シネスコに最適化されている故やむを得ないです。
でもこれも縦持ちなら話は別です。縦持ちで16:9の映像を再生し、マルチウィンドウを使うと、上部で動画を再生しつつ、今までの16:9のサイズで他のコンテンツを表示できるので、YouTubeを見ながらTwitterで実況する、ということもXperia 1なら快適に行えます。
クリエイターモード
私事ですが、業務用の有機ELディスプレイを頻繁に見る機会があり、比較してみても遜色ない色表現だと思います。マスターモニター準拠を謳うだけあって素晴らしい。
今までのXperiaシリーズは、色表現をBRAVIAに近づけていました。
BRAVIAは色を綺麗に見せよう、表現しようと映像を解析して色を補間する機能があります。BRAVIAで想定されている地上波放送のような多くのコンテンツはしっかりとチャートで白を調整しVE(ビデオエンジニア)さんが偏りのないバランスの取れた色を調整し放送されています。なので家庭で見るときには地上波放送のバラエティ・ニュース・ドキュメンタリーどれを見ても同じ色で表現されています。それを一般的なテレビはより綺麗に見せるために映像処理により一般的に「綺麗」と言われやすい彩度高めコントラスト高めの処理された映像が出力されます。
しかし、映画やゲームではクリエイターが意図して色の偏りを作りそのシーンを作ります。そのため、BRAVIAのような色補正では、「綺麗」と言われやすい色眼鏡を通して意図してない色が表示されていたわけです。例えると、プロの料理人が作った料理に味見もせずに調味料をドバドバかけてい食べているイメージです。
今回のXperia 1のクリエイターモードでは、クリエイターが意図した色を忠実に再現することにこだわっています。そのため、クリエイターから渡された色がそのまま、この手元のXperiaで表現される、ということになります。そのため、家のテレビで映画を見るよりXperia 1で見るほうが綺麗で自然だと断言します。逆に地上波放送をXperia 1で見るとちょっとコントラストが低く感じるかと思います。しかしそれが本来の地上波の「色」なのです。
そして色表現に拘るが故に、XZ3であったディスプレイの湾曲もXperia 1では廃止。ディスプレイの領域は平面で、ベゼルからラウンドするデザインになっています。細かいところですが、色へのこだわりが感じられます。今回のXperia 1のディスプレイはものすごく高く評価して良いと思います。
このクリエイターモードを一番体感できるのはNetflixなので、ぜひNetflixを家のテレビと見比べて体感してみてください。
サウンド
ディスプレイだけではなく、サウンドもしっかり強化されています。
Dolby Atmos対応
臨場感や迫力を感じるDolby Atmosに対応しました。対応している映画などを見ると迫力や臨場感を得ること間違い無し。オススメはやっぱりNetflix。
ただ文句を言うとすればスピーカーの配置。上部のスピーカーはフロントにありますが、下部のスピーカーは本体の側面にあり横持ちで見たときにフロント方向にもう少し音がほしいと感じました。Z2のようにフレームに隠すようなスピーカー配置なら見た目もよく、音のバランスもよりよくなったのかな?と思います。
ダイナミックバイブレーションシステム
再生する音に合わせて本体のバイブレーションが振動します。スマホのバイブレーションが音に合わせて震える程度でなにが変わるのかと思いましたが、使ってみると、スピーカーのサウンドに合わせて震えることで、重低音が増すかのような錯覚を得ます。そして小さい音なら少しだけ、大きい音なら思いっきり震えるので、スマホで見ているような感じがしません。
またノイズキャンセリングヘッドホン・イヤホンと組み合わせて使うと、更に没入感が増しまるで映画館にいるかのような迫力。新幹線などの長時間の移動や出張の宿泊先で役立つこと間違いなしです。
また個人的におすすめしたいコンテンツがセッションという映画。Netflixで見ることが可能なのですが、こちらを再生すると、ドラムを叩く一つ一つの動作で違いがわかりやすいので、オススメします。
このダイナミックバイブレーションも強さをアプリごとで変更できるので、Netflixでは強めに、YouTubeでは弱めに、Spotifyではオフにと好みに合わせて変えることができます。ボリュームボタンを押すとボリュームレベルの隣にダイナミックバイブレーションのレベルも調節するバーが出てくるので簡単に調節できるのも良いポイントです。
カメラ
ハードウェア仕様について
以前までのSONYは、デュアルカメラには否定的でしたが、XZ2 Premiumでデュアルカメラ化するなど、方針がブレブレでした。
今回のXperia 1では一眼カメラのようにレンズを交換するイメージで使うと考えれば多眼化はアリ、とされXperiaでは最多の3つのカメラが搭載されています。上から標準の26mm F1.6、望遠の52mm F2.4、広角の16mm F2.4のの3つを切り替えて使うことができます。
標準・望遠カメラではOIS(光学手ブレ補正)が2019年の今になってようやく搭載。他社で言えばAppleは2015年の6s Plusから搭載、SamsungのSシリーズは2015年のS6から搭載。LGは2013年のG2(Nexus 5)からOISが搭載されています。他社と比較しても分かる通り、導入が圧倒的に遅すぎます。ただGoProやOSMO ActionはOISを搭載せず、EIS(電子手ブレ補正)のみで手ブレを大きく軽減していますが、Xperiaはそういうわけでもありませんでした。それにSONYといえばHandycamやアクションカムでは光学手ブレ補正の先駆者として大々的にアピールして販売しています。もう少し早く搭載されていても良かったのかなと思います。
広角ではOISは非搭載。広角なのでブレも起きにくく、なくてもそれほど困らないかと思います。
そして面白いのがセンサーのメーカーについて。標準カメラはSONY製のセンサーを採用し、他の広角・望遠・フロントカメラはサムスン製のセンサーを採用しているそうです。
理由は公式に明らかにはされておらず、あくまでこれらは推測ですがセンサーを生産するソニーセミコンダクタがソニーモバイルに優先的に供給せず、やむなくソニーモバイルがSamsung製のセンサーを使用したのではないかと思います。1年に2億台規模の台数を販売するAppleやHuaweiへ優先的にセンサーを販売し、1年に1千万台も売れないソニーモバイルコミュニケーションズは後回しにされるのはいくら同じグループ会社とはいえビジネスを考えればありえる話だと思います。
XZ2 Premiumで初搭載された画像処理エンジン「AUBE」はXperia 1では非搭載。AUBEはカラーセンサーとモノクロセンサーを組み合わせて合成処理することで、高画質化する仕組みです。今回のXperia 1はすべてカラーセンサーですので搭載できなかったのではないか、AUBE自体優秀なエンジンではないので切られたのではないかと思います。優秀だったらXperia 1に載らないわけがないので。AUBEとは一体なんだったのでしょうかね。
写真
プレミアムおまかせオート
過去はさておきXperia 1のカメラを使っていきます。はじめに写真を普通に撮っていきます。写真はオートで何もいじらず撮影。適当に撮ってみましたが、たまにホワイトバランスがおかしい方向に持っていかれます。ただ、しっかりとホワイトバランスがあったときは撮れる、と言ったところ。昔はメシマズカメラで有名でしたが、メシは”うまく”なったと思います。ただ風景になるとホワイトバランスが狂う傾向があります。iPhone XSやHuawei P30 Proのようなオールラウンダーではありませんが、かと言って得意なパターンもなく。普通ですね。
試しに夜景をオートで撮影してみました。XZ1比で4倍向上した、とのことで楽しみに夜景を撮ってみましたが、Pixelのようにめちゃくちゃ良いわけではありませんが、悪くもない結果に。ただ並べて比較に置いているPixelと比較すると若干残念。左がXperia 1で右がPixel 3a(ズーム有)です。
望遠はたまに標準カメラのデジタルズームに切り替わる制御が入っているようです。焦点距離が近いまたは暗いと切り替わるのかな?と思い望遠カメラ部分を指で覆いましたが、切り替わらず。画質はお世辞にも良いとは言えず。若干シャープネスが強めかな?という印象。おまけ程度ですね。
広角カメラは今年のスマホのトレンドの1つ。Galaxy S10やHuawei P30 Proも広角カメラを搭載しているように、今度のXperiaはしっかりとトレンドを逃さず搭載しました。そんな広角写真ですが、あまりに広角過ぎて、歪みが強くでてしまいます。魚眼風の歪みが好きな人にはビンゴですが、苦手・嫌いな人には補正をオンにすると歪みを補正してくれます。GoProのようなアクションカメラは不要、スマホで完結するのでGoProから転送時間を待たずにInstagramのストーリーに上げることができるので、これは流行るのも納得できます。風景写真は望遠よりは広角のほうが綺麗に撮れます。
瞳AF
スマートフォンで初めて瞳AFに対応しました。これはαシリーズで大人気の機能で、ポートレートを撮影するときに瞳にしっかりフォーカスを合わせることで、プロのような写真を撮ることができる機能です。試してみたところ、確かに画面上に瞳にAFが合っている枠が表示されます。しかし、いざ写真を撮ってみると瞳より若干後ろだったり前だったりすることがあるので、ここらへんは今後のアップデートでもう少し上手になることに期待したいです。
ぼけ
突然ぼけと書くと喝を入れられた気がしますが、背景をぼかすという意味でのボケです。そういう名称で用意されているのでそう紹介させていただきます。iPhoneやPixelではポートレートモードとして用意されているこの背景をぼかす機能。Xpeiraでいい評価は聞いたことがないのですが、どうなのでしょうか。撮ってみると思いの外良いのでは?という結果に。もっと下手くそなボケができると思っていましたが悪くない結果に。
不満点
昔のXperiaのカメラアプリにあったPlayストアから機能を追加する「Xperia Camera App」。お世辞にも使いたいものではなかったのですが、Xperia 1ではデフォルトで用意された機能のみしか使えなくなっています。妥当な変更でしょうか。
そしてカメラアプリが使いにくすぎます。せっかく21:9という比率を採用しているのに、その比率を活かしきれないUI、画面の配置。そのまま引き継いだんだろうという感じです。機能を切り替えるたびにワンテンポ待たされるのも気になるところ。広角と望遠の切り替えも、他機種と比べるとスムーズではありません。
チューニングの下手くそさ、一体スマートフォンを何年開発したらうまくなるのか。後述するCinema Proは半年でこんなに良いモノに仕上げているのに……。
いっそ動画はCinema Proが搭載されているなら、写真もαのようにプロのような写真が撮れる機能が提供されても良いのでは?と思います。RAWで撮影して、そのまま編集したり、UIに好きなところに好きなボタンを配置したり、一眼カメラを販売しているメーカーだからこそできるカメラアプリが私は見てみたいです。
動画
仕様
動画は最大4K30pで撮影ができ、HDR(HLG)に対応しています。コーデックはH.264またはH.265形式で選択可能です。
手ぶれ補正は先程も述べたとおりOIS(光学手ブレ補正)に対応に加え、EIS(電子手ブレ補正)を組み合わせたハイブリッド手ぶれ補正を採用。よりブレに強いカメラに。
HDRについて
4K HDRは近年SONYが力を入れている取り組みの一つで、BRAVIAはもちろん、αシリーズでも対応しています。HDRはハイダイナミックレンジの略称で、輝度の高いところと低いところの表現域が今までより広く表現することが可能になっています。なので、従来では白飛びしていたり黒つぶれしていた箇所がどちらかを犠牲にすることなく、表現できます。これをスマホで撮影できて、スマホで見ることができるのは良いですね。
ただXperia ZからはHDR動画に対応していますが、それと違うのは10bitのHDR動画に対応していること。過去のHDR動画は合成処理の行われた8bitの動画でしたが、XperiaがXZ2以降で対応しているHDR動画はHLGというHDRの標準規格の一つで記録が可能なこと。HLGはハイブリットログガンマの略称で、日本放送協会と英BBCが開発した方式です。これは今までのHDR方式と違ってHDR非対応のテレビでもHDRのように見せることができ、非対応のテレビなら8bitに、対応のテレビなら10bitで表示が可能です。
Cinema Pro
そして大本命、Cinema Proを紹介します。ソニーが誇るラージセンサーカメラの最上位に当たるCineAlta。その中でもVENICEの開発チームが協力したと言われるこのアプリ。
そもそもCineAltaとは
CineAltaは主に映画やCM、ドラマ撮影で多く用いられるラージセンサーカメラカメラです。国内の映画やドラマはもちろんハリウッドでも採用され、過去にはスター・ウォーズシリーズもCineAltaのカメラが使われています。業界でも映画を撮るならSONYのCineAlta、ARRIのALEXA、REDなどが大きく挙げられると思います。それいくら位業界ではメジャーなラージセンサーカメラなのです。
そんなCineAltaでVENICEはその中でもちょっと異例のネーミングが行われたモデルで、F900から始まったCineAltaシリーズは大ヒットのF55シリーズ、8K対応F65シリーズとFが頭につきナンバリングされていましたが、今回初めてVENICEという新しいフラグシップにふさわしいネーミングがなされています。
少し脱線しますが、VENICEを紹介すると最大6K(3:2)フルフレームセンサーで、16:9や2.39:1など様々な比率で撮影が可能です。そしてマウントはPLまたはEマウントに対応。状況に応じてマウントを変更可能なのが面白いです。8段階のNDフィルターを内蔵します。4Kは120fpsで撮れたりさすが業務用といったところ。気になるお値段ですが、ボディのみで400万円ほど。なお受注生産品なのでほしいと思ったらすぐ注文しましょう。時間がかかります。なお、別売りのPLマウントのレンズですがPLマウントレンズは、業務用レンズ最大手のフジノンかCanon、カールツァイスなど選べますが、これらのメーカーなら1本のレンズでVENICEがもう1台買えるほどの価格です。ちなみにSONYの業務用で使用する専用メモリーカード、SxSは256GBで20万円ほどするので、メモリーカードでα7 Ⅲが買えてしまいます。業務用恐ろしや……。
さてそんなCineAltaのチームがXperiaにカメラアプリを?と聞いたらどう思うでしょうか。僕は初めて情報を聞いたときに「デマでは?」と疑った気持ち、おわかりになるかと思います。αならまだしも、映像業界の最先端を作るチームが”たかがスマホ”のXperiaに協力するわけがない……。そう思ったのです。
しかし、アプリを起動すると画面に大きく「Powerd by CineAlta」の表記。一生手に届くはずがないCineAltaがこの手のひらに収まる、スマートフォンに来るとは一切予想ができませんでした。期待していなかったXperiaが一気に期待できるXperiaに変わってしまうほど、CineAltaの名前の威力は強いのです。
そして丁寧にCineAltaに関する説明が行われたのちに、どのように”シネマ”ができているかを解説してくれます。業務用でこんなに丁寧に説明がある製品はあまり知りません。
Cinema Proを使う
ではアプリの要所を説明します。右上からプロジェクトの作成。イベントごとにプロジェクトを作成します。初めにResolution(解像度)・FPS(フレームレート)・Look(色情報)を選択します。以降新規プロジェクトを作るまで変更ができなくなります。これは撮影を統一した情報で行うことで、ミスを減らす・統一感のある世界を作る意味があります。
プロジェクト作成後に何度でも変更できるのはLens(レンズ)、ISO(感度・露出)、WB(ホワイトバランス)、Shutter(シャッタースピード)、Focus(フォーカス距離またはオートマニュアルの切り替え)です。
レンズは紹介した16mm、26mm、52mmの3つを切り替えることができます。レンズの項目を選ぶと右上にStabilizar(手ブレ補正)の項目があるのでここでON・OFFが切り替えできます。
ISOは64〜800で調節が可能です。明るさに応じて手動で変更します。
WBはTungsten(白熱灯/3200K)、Fluorescent(蛍光灯/4200K)、Daylight(太陽光/5200K)、Cloudy(曇り/6000K)のプリセットから選択可能です。右上のAutoを押すと自動で調節してくれます。カスタムがないのがちょっと残念。なお、ケルビン数はあくまで参考数値として表記しています。
Shutterはシャッタースピードです。さすがCineAltaと言うべきか、シャッタースピードではなくシャッター開角度で表記されています。シネマカメラではよくある表記なのですが、一般的なカメラではシャッタースピードで表記されています。シネマカメラはシャッター開角度しか表記していない場合が多いのですが、Cinema Proの場合はシャッター開角度に加えてシャッタースピードも併記されているので安心です。初めてシネマカメラを触る人でも入りやすい仕様です。
Focusはそのままの通りフォーカスを操作します。右上のAutoをOFFにするとマニュアル操作が可能なります。この黄色い丸ボタンを上にすればするほど無限遠(遠く)下にすればするほど手前にフォーカスが送れます。この右側の矢印はフォーカスをマーキングするものです。予めどこにフォーカスをセットするのかをマーカーで定めておき、手前から奥に、奥から手前にとフォーカス送りが的確に行えます。マニュアルフォーカスで撮れる動画アプリはよく見かけますが、マーカー機能があるのはさすがCineAlta。
続いて画面下部を説明していきます。一番左が音レベル。マイクで拾った音のレベルを表記しています。通常ならステータスで数値が見れるのですが、スマホなので省略されています。
そしてTC、タイムコードです。基本的に0からのRec Runの設定になっています。設定でフリーランにできたり時刻に合わせたりできるようになると良さそうですが、現段階ではあくまで撮影した尺を表示するだけ。
HDRのON/OFFの表記です。ただONのまま変更できる設定項目は見当たらず。デフォルトのカメラ設定に依存するのかと思いきや、変更しても反映されず……。Codecも同様H.265から変更はできません。
Bat.はXperia 1のバッテリー残量で、Mem.は内蔵ストレージの残量。Frame linesはグリッドラインの設定です。16:9か3×3、OFFで選べます。これはお好みで選択してください。
そしてこのCinema Proを使って適当に撮影したやつを並べてみました。それがこちらの動画です。撮影にジンバルは用いていませんが、手ブレ補正優秀ですね。
なお、この映像はHDRに対応している機器でご覧いただくことを推奨します。非対応のデバイスで再生すると一部シーンで白飛び黒つぶれがある場合があります。(iOSではiPhone X以降、AndroidデバイスではGalaxy S8以降、Pixelなど一部対応端末に限ります。対応デバイスでは画質でHDRが表示されています。)
不満点
使ってみましたが、通常のカメラと比較していくつかの機能が物足りなく感じます。最低限欲しかったのはゼブラとピーキングです。ゼブラは設定した輝度以上になるとシマウマのようにゼブラ模様で白飛びしそうなところを警告してくれる機能です。おおよそのビデオカメラに搭載されていると思います。HDR対応とはいえ、飛んでいれば色は帰ってこないので、これは欲しかったです。
ピーキングはフォーカスが合っている部分を色で表示する機能です。こちらも多くのカメラに搭載されています。MFでフォーカスをコントロールできるのは良いのですが、合っているのかどうかがわかりにくいので、やはりピーキングは必須かなと思います。
そして一番の問題点が撮影した動画をしっかりと編集する機能が用意されていないということ。Cinema Proで撮影したのは良いものの、編集できなければ意味がありません。簡易的なクリップを並べて繋ぐ程度の編集は可能ですが、お世辞にも編集と呼んでいいレベルに達してないと思います。
プロユーザーを想定しているカメラであれば、確かに編集はパソコンでするのがデフォルトだと思います。しかし、スマホとなれば話は別。スマホで完結できなければ使うユーザは限られており、ましてやXperiaに標準で搭載されているMovie CreatorではCinema Proで撮影した動画は選択できず。おそらくH.265に非対応なのでしょうか。なのでこんなハイスペックなスマホにもかかわらず、撮影して終わり。そうなってしまうのが残念です。
使ってみた感想
とは言え思いの外満喫してしまいました。
やはりスマホ用ということもあり、制限がありますが、SONYがコンシューマーに向けて、映画を撮る楽しみ、作る楽しみを知ってもらうようなきっかけになりそう。なんというか、SONYが作ったポケットシネマカメラのようです。
でもアマチュアやプロ向けのカメラと違い、たくさんの専門知識や機材も不要で、単体で撮れてレンズも3種類使える。そして、もしこのアプリにハマってしまえば自然とステップアップを望むと思いますので、いつかはXperia 1から始めた!という人が出てくるかもしれませんね。
ちなみにですが、このアプリの配色はVENICEのアシスタント向けディスプレイに表示するUIと全く同じです。ベースはグレイ、変更可能な箇所の文字は黄色、そして撮影に関する部分は黒地。フォントも似ていますが一緒だったりするのでしょうか?Recボタンも丸で大きく押しやすいところにあるのも同じ。CineAltaチームのこだわりが垣間見えました。
セキュリティ
XZ2で背面に移動した指紋認証がXperia 1で側面に帰ってきました。ただ、従来と異なるのが、電源と分かれている、ということ。最初にも述べたのですが特許対策でこのような仕様になっています。しかし、スリープから復帰するときは電源ボタンに触れる必要はなく、指紋センサーに触れるだけでOK。従来と変わらず利用することができるのであまり気にすることは無いと思います。
ただ気になるのが精度の問題。いくらセンサーと指を綺麗にしても認識できないことが多く、結局パスコードを入力することが頻繁にあります。Z5では良好だったので、1が筆者の指と相性が悪いのかもしれません。試しに別の人に試してもらったところ、スムーズに使えていました。しかしTwitter上でも一部ユーザで指紋認証が使いづらいという事例を聞いており、一部指紋を認識しづらい指があるのかな?と思います。
これを解消する方法としてSmartLockを利用した顔認識です。顔認識を利用することでディスプレイをダブルタップするだけで顔認識して解錠されるので、こちらで代用しています。ただ、1Passwordのように指紋認証で解錠するアプリでは大きく利便性が下がってしまうのでやはり、不便です。ここはBadなポイント。
サイドセンス
Xperia 1にはサイドセンスと言って左右のベゼルをダブルタップするとサイドセンスというメニューが展開されます。サイドセンスを使うとホームボタンを押さずにアプリを切り替えれるので、慣れるとランチャーからアプリを立ち上げるより早い、そう。ですが、ご丁寧なことにAIが自動的によく使うアプリを9個だけ表示してくれるので、もしない!ってなったらそこからサイドセンスでメニューを開いてアプリを探して……と通常より手間が増えます。ランチャーならある程度場所を覚えているので、そっちのほうが早いです。
一応アプリを固定できますが、これも8個までしか固定できず。アプリをたくさん入れて使うユーザーにはちょっと物足りません。
ただこのサイドセンスも良いところがあって、ジェスチャー操作で行う操作を変更することができます。私はサイドセンスよりもマルチウィンドウを使うほうが頻度が高いので、ダブルタップでマルチウィンドウに、(ベゼルを)上スライドでアプリの履歴、下スライドで、戻る操作に割り当てました。これで個人的には便利で快適に使えるようになりました。
また、マルチウィンドウも予めペアを3つセットしておけるので、例えば通勤中は上でYouTubeを下にはTwitterやSpotifyとFeedlyという使い方をセットしておけばダブルタップしてすぐ呼び出せてものすごく便利です。多分これ慣れたら他の機種に戻れなくなりますね。
Game enhancer
スマホでゲームをする人には見逃せない機能、Game enhancerです。これはGame enhancerアプリに予めゲームアプリを登録しておくと、そのゲームを起動中には通知をオフにしたり、画面を録画したり、パフォーマンスを最大にしたりとゲームを快適に遊ぶための機能があります。
なので、プレイ動画をTwitterやYouTubeにアップロードしたりすることもXperiaなら別途アプリをいれず可能です。また、21:9のディスプレイを活かして通常より広い視野でちょっとだけ有利にゲームが働く……かもしれません。
オススメしたい設定
これは個人的にオススメしたい設定が、画面設定→表示サイズ「小」です。これにより、全体的に表示領域が増えます。
表示領域が増えると、どことなく少し懐かしい感じがします。あの名機Xperia Z Ultraに近いのです。筐体サイズはZ Ultraと比べて高さは5mm小さく幅は20mm小さいものの、ディスプレイサイズはXperia 1のほうが0.1インチ大きいのです。そんな大画面にもかかわらずしっかりポケットに収まり、この情報量。まさにZ Ultraの後継機と言っても過言ではないのではないでしょうか。
総括
SONYらしいXperiaが帰ってきた。この感覚がXperiaだ。
Xシリーズ/XZシリーズをすべて闇に葬り、1から生まれ変わったXperia。Xシリーズ以降は購入意欲が沸かず、他のAndroidスマートフォンを利用していました。しかしXperia 1はひと味違うそんな気がしていましたが、これは大正解でした。本当にちょっと前まで2年遅れのデザインのスマホを作っていたのか?と思えるような見違えるような外観。
そしてSONYだからできたこと、をXperia 1でしっかり実現したところに称賛を送りたい。民生機のレベルをスマートフォンレベルに落とし込むのは他社でも中国のメーカーでもできるかもしれませんが、業務用のレベルをスマートフォンに落とし込むのは、長らくプロフェッショナルの現場を支え続けたSONYにしかできない。
CineAltaの名前を借りただけと思っていたCinema Proは使えば使うほど、VENICEに通じるところを感じました。しっかり遊べる、楽しめる、高いレベルを実現していました。ただまだ若干の粗というか時間が不足していたのかな?という部分があったので、アップデートされることを期待しています。
そしてCineAltaチーム監修のディスプレイは確かに高品質でした。今までのXperiaのディスプレイはBRAVIAの画像処理エンジンが強く、彩度コントラスト高けりゃいいでしょ?みたいな感じで好きではなく、毎回OFFにしていました。しかしCineAlta監修のクリエイターモードはしっかり思っていた色が表現され、撮った写真を他のディスプレイと見比べても差がわかりにくいです。
21:9のディスプレイで見る映画は今まで味わったことがない新感覚で少し鳥肌が立ちました。おかげでXperia 1を入手してからは通勤時間で映画を見るのが新たな日課になりました。WH-H900Nを利用していますが、ノイズキャンセリングのおかげで電車の中とは思えない、快適な時間を過ごしています。
カメラはただ今ひとつです。良くもなければ悪くもない。P30 ProとXperia 1が置いてあって写真を撮ると言われたらP30 Proを手に取るくらい。今までソニーセミコンダクタのExmor RSを扱っていただけに、Samsung製のISOCELLは調整にもう少し時間がかかりそうです。(Cinema Proのアプリは調整が上手いのはCineAltaチームがすごいからなのだろうか)
指紋認証のダメ具合は気になるところ。急ぎで部品を調達して作ったからなのか、コストダウンを行っているのか、それとも単なる相性なのか。次期モデルでは最優先で改善してほしいポイントです。
私は半年置きにリリースすることは悪くはないと思います。ただ、半年置きに出すなら前モデルでダメだったところをしっかりと修正して市場に受け入れられる状態のモノを作るべきです。そしてしっかりと前モデルはアップデートで対応し、価値を下げない。今後のXperiaに”また”期待しています。
Xperia 1をオンラインで購入する。(解説) | ||
ソニー J9150 | au SOV40 | |
国際版 J9110 | SB 802SO |