このほど、中国のスマホブランド・Coolpad(酷派)が、中国市場に再参入することになりました。「Coolpad(酷派)ってなに?」という疑問にさらっとお答えすると、XperiaやHTCがスマホのグローバルランキング上位にいた頃、中国市場上位にいたブランドです。
「中国のスマホブランドが中国市場に再参入」もなかなかに意味不明かと思いますが、御存知の通り中国市場は国内強豪メーカーが林立する激戦地なので、「国内で負けて海外に押し出される」現象が発生します。なかには、伝音のように最初から中国国内市場は諦めて、アフリカで生きていくことにしたメーカーも。
「あの懐かしのブランドは今?」のようなブランドであるCoolpadが、いまさら華為・シャオミ・OPPO・vivoといった超強豪がひしめき合う中国市場に殴り込んで、どうにかなるのか?「毎日経済新聞」の記事をもとにお伝えします。
「ポスト・ファーウェイ」の新局面に勝機あり?
12月初旬、Coolpadは深圳で中国市場復帰後第二弾となる製品、千元台(2万円くらい)クラスの酷派COOL 20 Proを発表。酷派集団CEO・陳家俊は「物超所値」、つまり「お値段以上」と表現。
28年の歴史がある「酷派」ですが、2009年から2014年までの間、酷派は中国スマホブランドの「第一陣営」にいたものの、転換点になったのは2015年。当時、動画配信サービスの「楽視」が出資しましたが、僅か1年で酷派は経営危機に陥ります。2016年から2018年までの間で、酷派の累計赤字は70億元(1000億円以上)を超過、新型スマホの材料費すら捻出できず、酷派は市場からフェードアウトしました。
それから5年、中国のスマホ業界は「華米OV(華為、シャオミ、OPPO、vivo)」を経て、「後華為(ポスト・ファーウェイ)」の時代、新たな市場局面に入っています。酷派はここで中国市場再参入を決断するとともに、「3年以内に先頭集団へ復帰」との野心的な目標を掲げました。
「大丈夫か?」と誰しも思うところですが、CEO・陳家俊は、「郷村振興」「新基建(スマートインフラ建設)」「デジタル化」といった中国政府の政策を、国内市場復帰のチャンスと見ているとのこと。
武器は「シャオミ人材」、最初の戦いは「債務返済」
「我々が最初に酷派にきたとき、目の前にあったのは巨大な穴だ。ここ数年、我々は新たな酷派を建設するために努力してきた」と陳家俊は語っています。
香港の金融市場で資金調達を達成し、「副総裁」にはシャオミでの経験がある4人を起用、新モデルのCOOL 20 Proを手掛けたスマホ部門総裁宋九亜も、元シャオミ・スマホ部門製品マネージャーとして、2000元(3~4万円)台モデルを担当していた人材。
しかし、「新酷派」の前に最初に立ちはだかったのは、「借金返済」という壁でした。
陳家俊は、それまでのサプライヤーへの未払金を、全て支払ったと言います。「あるサプライヤーは、酷派への売り掛け金は回収不可能と諦めていたのが、ある日銀行口座への振り込みを見て、我々が支払ったことを知ってビックリ仰天した」とか。
「消費者の可処分所得を増やしたい」というも……
さて、12月1日に発表した酷派新モデル・COOL 20 Proですが、Media Tek 900 6nm 5Gチップ搭載で定価1799元、今年5月リリースのCOOL 20は699元でした。
中低価格帯のラインナップになっていますが、これについて陳家俊は、今のスマホ市場はほとんどすべてのブランドがハイエンド市場に注力しており、全体の販売台数が下降する中で、スマホの価格をどんどん上げなければ利潤を得られない、という形になっている。しかし、こういったハイエンド化は、多くの「奮闘者」(日々の生活を頑張る人々)による本当のニーズに答えられていない、といいます。
また、「中国人の多くは県城(日本で言えば、平成の大合併でできた市の中心や、郡部の一番大きな町みたいなイメージ)で生活しており、フラッグシップモデルの機能やサービスをより多く盛り込むことで、こういった『奮闘者』を応援し、彼らの可処分所得向上にも貢献したい」としています。
しかし、大手のハイエンド偏重に対し「千元モデル」といったところで、それでも激烈な競争にさらされることになります。紅米の数字シリーズ、OPPOのAシリーズ、vivoのYシリーズ、realme、iQOO、レノボ、魅族……どれも「千元モデル」でしのぎを削っているところ。
「農村で都市を包囲」
中国国内スマホ市場は既に「レッドオーシャン(血で血を洗う熾烈競争市場)」と指摘されています。Canalysのデータによると、2021年Q3の出荷台数中、5大メーカーの市場占有率は87%。前年同期が68%だったのに比べて、「その他」の生存空間はどんどん狭まっています。
そんな中、酷派が掲げるのは、「農村で都市を包囲する」戦略。もはやお馴染みすぎる感じがしますが、「郷村振興」などの政策にチャンスありと見ているそう。
販売チャネルは、従来の小売チャネルを「高コスト抵効率」として放棄し、「デジタル化チャネル方式」を採用。実体店はハードウェア販売だけで儲けを出すのは難しいというのも、その理由だといいます。
「デジタル化チャネル」とは何なのか、具体的には書かれていませんが、サービスセンターの配置が鍵になっているようです。今年6月から今までで、酷派のサービスセンターは2800件を突破し、90%が黒字。現段階は0から1にしているところで、3年以内に3万件以上を目指すとのこと。
とはいえ、あるアナリストは、厳しい見立てをしています。今のところ、酷派の出荷台数は目立ったところがなく、今の市場環境を変えるのは難しいだろうといいます。酷派集団2021年中期報告をみても、2021年上半期の酷派は資源の整合や設計研究開発、新製品生産の段階にあり、ブランド力は弱く、販売台数は目に見える伸びを見せていないとか。
まとめ
2010年代前半に人気だったものの消えていったブランドが、0から再スタート、という珍しいパターン。
ハイエンド・フラッグシップ競争たけなわの時代に低価格帯勝負、うーん、日本市場で言えばarrowsのようなイメージのポジションを狙っていくということでしょうか。
低価格帯は、酷派が復活せずとも、各大ブランドも既に豊富なラインナップを展開しているところ、廉価モデル専門で戦っていけるのか?とかなり大きな疑問符がつきますが、今後の商品展開に期待しましょう。